第九回特別インタビュー 鉄割アルバトロスケット

あの手この手で集客した初期の公演

— そもそも鉄割アルバトロスケットはどんなふうに始まったんですか?

戌井昭人(以下、戌井):大学時代の同級生だった演出家の牛嶋みさをと渡部真一と一緒に始めようってことになったんです。大学を卒業して文学座の研究所に入ったんですけど、ちょうどそこで雅楽子さんと奥村くんたちとも出会って。

マ—クス雅楽子(以下、雅楽子):マジメにお芝居をやりたくて授業を受けてる人ばかりなのに、戌井さんは裏で変なことやってたよね。「なんだおまえ、消防士か?」とか、いつも謎なことを言われてた。

戌井:真っ赤な格好してたんじゃないの?

雅楽子:うちの母に「文学座で何を教えてもらったの?」って聞かれたから、「今日は戌井さんって人に、のぼりちんげっていうのを教えてもらった」って答えたら「あんた、何やってんの!」って言われたりして。それでまあ、一緒にやることになりましたね。

— 最初から劇団とは違う感じのことをやりたいと思っていたんですか?

戌井:そうですね。劇場じゃないところでも簡単にできるようなかたちがいいと思っていたので「劇団」とは言わないようにしていました。昔はその辺のこだわりが結構あったんですけど、今は面倒くさいから「劇団です」と、言ったりもしてます(笑)。

— 最初の公演は?

戌井:根津の宮永会館っていう公民館みたいなところでやったのが最初です。なんで宮永会館だったかというと、とにかく場所を探さなきゃと思って、お寺なら安く借りられそうな気がしたんです。それで湯島とか谷中辺りで探すつもりで電車に乗ったら、手前の根津の駅で降りちゃって。不動産屋に行って「なんかありますか?」って聞いたら、「あそこに公民館があるぞ」って。

渡部真一(以下、渡部):すごい正攻法だよね。

戌井:でも公民館だから3カ月後とか半年後に借りたくても、先々まで予定が入っていて簡単に貸してもらえなくて。本番当日に行って、その場で仕込んだりしてましたね。演目が短いのも、そのほうが簡単にできそうだし、練習もなんとかなるんじゃないかってことなんです。

渡部:でも一番最初のときは、俺の落語が15分くらいあったよね。

奥村勲(以下、奥村):いや、1時間くらいやってたよ。

雅楽子:30分くらいじゃない?

渡部:とにかく地獄だったな(笑)。

戌井:お客さんも、これなんだろうってシ—ンとしてるから、ちょっとしくじったと思いながら。最初の頃はひとつの演目が今よりも長くて10分とか15分くらいあって、話のオチももう少しあったんです。オチと言っても、全部殺して終わるみたいな感じなんだけど。

渡部:小道具のピストルの量がすごくて、ピストル劇団って呼ばれてたよね。

雅楽子:あとナイフもね。

戌井:まだパソコンも持っていなかったから、ル—ズリ—フに書いた脚本をコピ—して、みんなに配ってました。だから裏まで書きたくなくて、表でちょうど終わるように書いてた。終わらないと、下のほうに無理やり小さい字で書いたりして。最初にやった演目で、いまだにやってるものもあるよね。山内(英彦)くんっていう最近戻ってきた人がいるんですけど、彼も初期の頃にいて、紙切りをしたり、おむつ一丁になったり、今とあまり変わってない(笑)。そういえば宮永会館のときは、蛍光灯でやってたんだよね。

渡部:当時は“演劇憎し”って感じが強くて、演劇と一緒にされたくないっていう理由で、照明機材を一切使ってなかったもんね。俺が暗転しようって言っても、嫌だって。

戌井:その代わりに演目が終わったらふすまを出したり、鬼がわ—っと出てきたり。

奥村:オバQも出てきた。

戌井:バイトしてた保育園の着ぐるみを借りたんだ。

渡部:お客さんは、どこが切れ間なのか全然わからないよね。

戌井:渡部がずっと「暗転しろ」って言ってた意味に、3、4回目くらいでようやく気づいて。それからは窓ガラスにダンボ—ルを貼って暗くなるようにして、照明も当てるようにしました。渡部から言われて、あとから気づいたことがたくさんあります。

渡部:お客さんも15人くらいしかいないから、みんな畳に寝っ転がったりして観てたよね。

戌井:ロバ—ト・ハリスさんは、その頃から観に来てくれてます。

奥村:ドラッグネタで「あっはっは!」ってよく通る声で笑ってた。

戌井:お客さんを呼ぶために、大川興業さんのチラシの間に無料チケットを折り込ませてもらったこともあったね。エロ系の週刊誌にタダで広告を出せるっていうんで、「今宵あなたと交わりたい」みたいな文言と、男と女が抱き合ってる絵を載せて値段だけ書いておいたら、観に来ちゃったおじさんもいた。あと、文学座の知り合いにDMを出すとき、「悲しいことに奥村くんがこの世からいなくなりまして……」みたいなことを書いて。

雅楽子:ひどいよね、それ!

戌井:そしたら奥村くんが舞台に出てて、驚かれるっていう(笑)。有名な人には「この前はおつかれさまでした」って知り合いふうにDMを出すんです。和田誠さんとか柴田元幸さんはファンだったので、真面目に「来てください」と手紙を書いたら、ほんとに観に来てくださいました。でも柴田さんの宛名なんてよくわかんないから、「東大 柴田元幸様」だけだったけど、ちゃんと届きました。

劇団嫌いな人たちが劇場へ進出

— 宮永会館から下北沢ザ・スズナリに移ったきっかけは?

戌井:庭劇団ペニノのタニノ(クロウ)くんがスズナリで演ってて、「鉄割もスズナリでやるといいんじゃない?」って勧められたんです。でも最初はたしか、ここ。駅前劇場だったよね。リトルモアの孫さんに「おまえら、いいかげん劇場でやったほうがいいぞ」と言われて紹介してもらいました。ずっと劇団から離れようとばかりしていたから、劇場で公演をやるとは思っていなかったんだけど。渡部は、宮永会館の終わりぐらいの頃に、一度鉄割を離れてるんです。牛嶋といざこざってほどでもないけど、ちょっとあって。俺が仲介役をして立て直そうとしたら、余計バラバラになっちゃった(笑)。俺、そういうの、まったくできないんですよ。

渡部:劇団のいざこざとかじゃないですよ。戌井と牛嶋とは同級生なんで、方向性とか芸術観の違いとかとは全く関係ないところでもめただけ。でも10年くらい抜けてたかな。

戌井:渡部と入れ違いで、宮永会館の最後の公演に村上くんが出たんだよね。

村上陽一(以下、村上):そうですね。僕がそのときやってたバンドのメンバ—が、鉄割を観に行って「すごかったぞ」と聞いていて。「とにかく、著名人みたいなお客さんがいっぱい来てる」って。

雅楽子:そこ?(笑)。

村上:「メンバ—も放火魔だとか、危険なやつらばかりだ」って。それでイベントを一緒にやることになったんですけど、初めて会ったときは、正直気持ち悪いなって思いました。

戌井:楽屋ですれ違うのも嫌だったんだよね?

村上:渡部さんはもういなかったんだけど、リハ—サルのとき、戌井さん以外はみんな下向いてて。戌井さんはやたら汗かいて「すいません」ってずっと謝ってるし。演目を観たらちょっと面白かったんですけど、打ち上げで牛嶋さんが裏社会の話をしているのを見て、やっぱり気持ち悪いと思いましたね。そしたら戌井さんに誘われて。

戌井:俺らは村上くんのバンドを観て、あのヤバい人にぜひ鉄割に出てほしいと思っていました。

渡部:俺、すぐに戌井から言われたよ。「すっごいのが入ったから、もう大丈夫。渡部がやってたことを、全部彼にやってもらう」って(笑)。

村上:演劇をやってたわけじゃないんですけどね。

渡部:僕はもうその頃、渋さ(知らズオ—ケストラ)に出ている頃で、鉄割の公演をただのお客さんとして観に行ったんだよ。

戌井:そのとき村上くんのバンドメンバ—も出演してたんだけど、その人が緊張のあまり、始まる前に飲んで酔っ払っちゃって。村上くんはしっかりした人だから、ベロベロになってる仲間のことが許せなくて、いきなり階段から飛び降りて「ちゃんとしてくれよ!」って殴ったんだよね。そこに渡部がたまたま通りかかったらしくて、俺のところに来て「なんかおまえら、面白い感じになってんじゃん」って言われたんだっけな(笑)。

— 今や下北沢ザ・スズナリの客席がいっぱいになるくらいの人気ですけど、そうなったのはいつぐらいから?

奥村:戌井が『情熱大陸』に出てからだよ。

渡部:いや、俺が駅前劇場に観に行ったときには、すでにいっぱいだったよ。

戌井:でもそこで調子こいて公演を2日くらい増やすと、一気に少なくなっちゃう。

雅楽子:きっとお客さんがバラけるだけで、絶対数が決まってるんだよね。

村上:僕は演劇の人ってモテるんだと、ず—っと思ってた。

奥村:いや、宮永会館でやってたときは、お客さんがみんな可愛かったんだよ。スズナリとかに出始めてから、どんどん可愛くなくなってきた。

戌井:ひどいな。

渡部:昔はかわいい子しか来なさそうな店に、フライヤ—置いたりしてたもんね。

戌井:宮永会館は芸大とかが近かったから、美大生が多かったんだよね。多摩美の学園祭にも行ったよなあ。学生が酒飲みすぎてぶっ倒れたのを、渡部が助けたんだ。鉄割の代表番号がうちになってたから、いきなり多摩美から電話がかかってきたんだよ、「そちらの渡部さんという人が……」って。

渡部:泊まり込みで飲んでた子が倒れたんだけど、学生が救急車を呼んだら学園祭が中止になるから119番ができないって。でもそんなこと言ってられないから俺が119番して、大学の正面玄関で救急車を「オ—ライオ—ライ!」って誘導したの。関係者が沿道に集まってきて、すごいことになってたな。

雅楽子:あのあと渡部さんの「オ—ライオ—ライ」を見てた女の子たちが渡部さんを好きになって。私、相談されたから。

渡部:それさ、当時聞きたかったよね。

戌井:そういえば、俺も渡部に救急車呼んでもらったことがある(笑)。

渡部:戌井が野外劇のセットの下敷きになって、俺の目の前でボキって音がしたんだよね。それで救急車を呼んだんだけど、俺が鬼の格好で真っ赤なメイクをしたまま「こっちです!」って誘導したら、救急隊員に「立ってないでいいですから、寝てください!」って言われて(笑)。そしたら戌井がメイクをつるっつるに落として、帰り支度までして登場したよね。

戌井:渡部が全部やってくれて、やっぱりすごいなと思った。

気がつけば、ほぼ鉄割一本に

— 向さんはどういう流れで鉄割に?

向雲太郎(以下、向):さっきの話で、戌井くんがケガをしたのが横浜だったんですけど、僕はその頃、同じ野外劇に「大駱駝艦」のメンバ—として出演していたんです。それが1999年。顔合わせのときに鉄割と出会って、正直、なんだか暗い若者がいるなあと思いました。隣の席になっても全然喋らないんだけど、ひとりだけ大声で喋っている人がいて、それが渡部だった。この人、絶対にリ—ダ—だなって思った。

戌井:渡部は大体リ—ダ—だと思われるから。

:そのイベントでテントに泊まって、戌井くんと一晩中映画の話をして仲良くなったんです。「向さん、演目を考えました! 光が目にバ—ッて入って手術されている男の話です」って戌井くんから言われて、それが初めて出た「光の束」という演目になりました。今は「大駱駝艦」から独立して自分でチ—ムを持って演ってるんですけど、そっちは全然暇なので、鉄割一本でやってるような感じに近いですね。

戌井:古澤くんはいつからだっけ?

古澤裕介(以下、古澤):自分は2007年からですね。

戌井:でもその前から知り合いだったよね。

古澤:2004年から知り合いです。自分は「ゴキブリコンビナ—ト」と「ポツド—ル」っていう劇団に所属してるんですけど、戌井さんと奥村さんが観に来て、そのあとなぜか声がかかったんですよね。

戌井:素敵な芝居をしてたんだ。俺が芝居目線で言うのもなんだけど。

奥村:一番よかったですもん。あとは感じが・・・。

渡部:奥村君が一番感じ悪いから(笑)。

戌井:俺らは演劇から外れようとして、村上くんみたいなバンドの人とか、向さんみたいな舞踏の人とかを誘って、劇団の人とは一緒にやらないつもりだったんだけど、古澤くんがそこを打ち破ってくれたんだよね。って、俺が勝手にそうしただけなんだけどさ(笑)。

古澤:僕もそんなに演劇に染まった人間じゃなかったんですけど、当時のみなさんは演劇のことを本当に嫌っていて。「古澤は小劇場から来て役者ヅラしやがって」って感じで総攻撃を受けて、すごい悩んだ記憶があります。

奥村:チラシの名前もさ、みんなは普通に奥村勲とか戌井昭人とかになってんのに、古澤だけ「古澤小劇場」って書かれてたよね。

古澤:ですね。ポツド—ルの活動が忙しくなって、鉄割からしばらく離れていた時期もあるんですけど、最近は僕も鉄割にしか居場所がなくなってきました。

プロにお願いするのは申し訳ないので……

— 稽古はどんな感じでやってるんですか?

戌井:主軸はまず、奥村くんのお喋り。その間を縫って、俺らが稽古をしています。

渡部:稽古の声より、奥村くんのお喋り声のほうが大きいからね。弾けたように喋り続けてるから、誰にも止められない。

奥村:だって数カ月、ほとんど誰とも喋ってないから。普段の生活ではずっと殻に閉じこもってるから、喋る人がいないんだよ。

戌井:大体は、日常の文句を言ってますかね。稽古は俺が書いてきた脚本を渡して、 みんなに演ってもらうんだけど、あんな脚本渡されてもわけがわかんないよね。俺がひとりで全部やって、汗まみれになって稽古が終わったこともある。今日はもうやめようよって(笑)。

— 脚本はあて書きなんですか?

戌井:最近はそうですね。やばい顔の人は村上くんとか、痩せてる人は中島(朋人)とか、そういう単純な感じですけど。

渡部:「渡部、踊る」とだけ書いてあったりもする。

雅楽子:あるある。

戌井:踊る理由をもっとつけろって言われて、長い物語を書いて渡したこともある。

渡部:行間とかないの? ってね。そしたら、港に妻を残したなんとかかんとか……って説明書きが大量に増えて、結局「暴れて踊る」になってた(笑)。

戌井:お客さんが観るのは、暴れて踊るところだけだから。

渡部:何度もやる演目は、独り歩きすることもあるよね。昔は僕がやってた演目が、今は村上くんの定番になっていたりだとか、あて書きだったものでも結構変わってるものもあると思う。

— 23年間やってきて、印象に残っている舞台はありますか?

戌井:タバコを吸っちゃいけないイベントで知らずに吸っていたら、すげえ怒られたこととか。「二度とこういうところに出られないようにしてやる」みたいに言われて、「出る気はないです」って答えたら余計怒られちゃってさ。

奥村:「大人になって震えるほど怒られちゃった」って俺に言いにきたよね。照明の卓を演出の牛嶋くんが叩きすぎて壊したこともあった。

戌井:結構激しい照明が好きな人なんで、すごい勢いでやってたら、基盤が浮いちゃったんだよね。俺らは照明や音響をプロの人にお願いすると気を使っちゃうから、基本的にお願いしないんですよ。だから素人が全部“感覚”でやってるんです。

渡部:イベントとかでたまに違う劇場でやると、怖いよね。でも最近は劇場の人もいろいろ教えてくれたりして、戌井に優しくなってる(笑)。

戌井:そうそう、最初から教えてくださいって言えばいいんだよ。スズナリでも劇場の人に「そろそろスピ—カ—吊ります」って声かけて、いつも一緒に作業してます。もう違う劇場には行けないよね。

雅楽子:また怒られちゃうから。

戌井:リハ—サルを見て決めることも普通だったらいろいろあるんだろうけど、俺らの場合、リハ—サルもまともにできてないからね。

渡部:本番の日が初めての通しだったりする。

雅楽子:そのときですら「僕、来れません」って言う人もいるしね。

渡部:午前中にゲネやろうって言ってたのに、全然集まらないとか。

戌井:一日丸々空いちゃったじゃん、みたいな。なんか最近多いよね。

雅楽子:本番にちゃんと来るか心配なときもある。

戌井:最初の頃、本番中に俺らが楽屋でべらべら喋ってて、楽屋がうるさいって怒られたこともあった(笑)。

松島さとみ(以下、松島):どっかんどっかん笑ってた。

雅楽子:「飲みが足りね—んだよ!」って飲まされたりして。飲ます人がいたんですよ、そのとき。

最大の謎はテンションの上げ方

— 本番前はどんな雰囲気なんですか?

戌井:みんなそれぞれだけど、奥村くんはとにかく喋り続けてます。

奥村:前はギリギリまで喋ってたんだけど、最近、台詞が覚えられなくて。喋ってる場合じゃない。

戌井:たしかに最近はギリギリまで練習してるね(笑)。

渡部:台詞は入ってないわ、通してないわ、なんなら衣装とか小道具も決まってないわで本番が近づいてくるから、直前は何もできてないことに緊張してるよね。

奥村:ほんと一発勝負だもん。

雅楽子:直前に呼ばれて「合わせよう」って言われたりもするし。

戌井:俺も台詞が覚えられないから、奥村くんとは必ず本番前に合わせるようにしてます。

奥村:昔は結構マジメだったんですよ。戌井とふたりでサウナ行って、全部覚えるまで出ないようにしよう、とかね。

戌井:汗だくになって覚えてた(笑)。東陽(片岡)さんは大体楽屋で週刊誌を読んでる。古澤くんは完璧なストレッチをしてるよね。俺もそれを倣って、一緒にストレッチをやるようにはなったかな。

:発声練習も、古澤くんが唯一やってるよね。

古澤:はい、すごいバカにされるんですけど。演劇に染まりやがって、みたいな感じで。

:奥村くんが昼寝してて「うるさい!」って怒る(笑)。

雅楽子:ひどい!

戌井:楽屋のスピ—カ—でも、古澤くんの声がうるさいときあるよね。その場にいるやつが、モニタ—切っちゃったりする(笑)。

古澤:楽屋で喋ってる暇があったら台詞の練習しろっていう、きちんとした雰囲気のところで何年かやってきたので、鉄割に来てもその規律みたいなのが抜けないんです。本番に向けて完璧な状態に持っていかなきゃって思っちゃうので……。

戌井:俺らもそれを見習うべきだよね。

古澤:みんなどうやって自分のモチベ—ションを保っているのか、すごく謎です。直前までダラダラしてた人たちが、よくあそこまでテンションを上げてくるなっていうのは、いつも感心するところではあります。

渡部:俺、楽屋で古澤とふたりきりのとき、「もう少しだけ規律みたいなのがほしいです」って言われたことあるもんな(笑)。

古澤:そうなんです。あまりにも自由すぎて。普通、ゲネプロに人が来ないとか考えられないですよ。

渡部:しかも来ないのがひとりじゃないしね。

古澤:来なくても本番がちゃんと開いて、お客さんから大喝采をもらったりするから。

戌井:でもそうやって来なかったりすると、一応台本を書いてる側としては、もっとちゃんとやってほしいなって思ったりしますよ。

古澤:そうなんですか?

戌井:そりゃあ思いますよ。そんなに来ないんだったら、間違えて笑われちまえ、みたいな気持ちはちょっとある。

村上:間違えちまえって、意地が悪い。ひっどいなあ(笑)。

奥村:実際、間違えると面白かったりするからね。

— 観てる側としては本当に間違えているのか、わざとなのか、わからなかったりします。

渡部:わざともあるけど、本当のほうが多いと思います。

奥村:特に初日はね。

渡部:まあでも初日じゃないと、逆にそういうのを仕掛けたりもするからね。出演者に嘘を言ってみたり。

戌井:舞台にいきなりバケツを投げ込んでみたりとか。でも最終的には、みんなちゃんとやろうっていう心はあるんだと思います。

雅楽子:そりゃあそうでしょ!

戌井:だらけたものを見せようっていう気持ちはないです。本気で間違えて面白い方向にいくのは、楽しいですけどね。

奥村:本気で間違えて、本気で焦って、本気で立て直そうとして、立て直せずに終わるのが面白い。

戌井:違う演目なのに舞台に出て行って、ずっと待ってることもあるよね。

渡部:明かりがついて、全然関係ない人が立っていたりする。

奥村:俺もたまにある。なんで誰も出てこないんだろうって思うんだよね。

渡部:楽屋で観てて、間違いに気が付く瞬間が最高なんだよね。

雅楽子:しかもああいうときって、間違えてる本人は絶対に正しいと思ってるから。

奥村:前に戌井が自分の言いたいキ—ワ—ドを出したいのに、台詞を全部忘れて堂々巡りになって、終わり方がわかんなくなって暗転したっていうのもあったよね。

戌井:あれはひどかった。村上くんに「ちゃんと台詞を覚えたほうがいいですよ」って注意を受けて、それからはちゃんと覚えるようになりました。

松島:京都の公演で私が照明を担当していたとき、中島弟(中島教知)が額にバッドを当てて、くるくる回る演目があったんです。最後は照明が落ちて弟がはけることになっていたのだけど、もういないだろうと思って照明をつけたら、目の回った中島弟が壁に張り付いてた(笑)。私もヤバいと思ってすぐにまた照明を落としたから、一瞬だけ壁に張り付いてる中島弟が浮かび上がって、あれはすごく面白かった。

戌井:中島弟は統合失調症だったんですけど、本番中に発作が出ちゃったことがあるんです。舞台に出るのは無理だってことがわかったときの、みんなの対応が素早かった。「この台詞を覚えてるから、自分がやります!」みたいに、中島弟が出る演目の代役をみんなでやって、なんとかなったこともあった。

古澤:あれはすごい結束力でしたよね。まるで劇団みたいでした。

戌井:舞台が崩れたときも、村上くんが東洋くん(松原東洋)を肩車して瞬時に直してくれて、感動したことがあった。演目中に直しても、俺らは別に関係ないからね。本番前にちゃんと確認しとけってことなんですけど。

渡部:自分たちはマジメにやってるんですけど、稚拙な部分が多々あるので、そういうハプニングが起きてしまうんです。

— 今後の展望はありますか?

戌井:まあ続けられればいいですね。ブレ—クとかもなんだかよくわかんなくなっちゃったので。もっと売り込んだりしたらバ—ン!といくのかもしれないけど、こないだの公演なんてチラシも間に合いませんでしたから。牛嶋が作るって言ってたのに(笑)。次はチラシぐらいはちゃんと配りたいですかね。

■プロフィ—ル
鉄割アルバトロスケット
1997年春に結成されたパフォ—マンス集団。メンバ—が離れたり戻ったり、増えたり減ったりしながら、現在は平均年齢が上昇傾向。 作・戌井昭人、演出・牛嶋みさを、を中心に、奥村勲、中島朋人、マ—クス雅楽子、松島さとみ、村上陽一、渡部真一、南辻史人、向雲太郎、松原東洋、古澤裕介、東陽片岡、山内英彦、湯山大一郎、湯浅学のメンバ—が在籍。 下北沢ザ・スズナリでの年1回程度の公演を中心に、イベントなどにも多数出演。歌舞伎、古典落語、映画、ロック、パンクなど幅広い要素が盛り込まれた数分程度の短い演目で畳みかける、中毒性の高い舞台が人気。 2021年7月「タイトル未定」@下北沢ザ・スズナリにて本公演を予定している。