第二回特別対談 山内ケンジ(演出家)×吹越満(俳優)

第二回『対談』のインタビュアーは、お二人と15年来のお付き合いのある、俳優の岡部たかし氏。都内某所にて気が置けない仲間で本音で語り合って頂きました。

岡部 よろしくお願いします。今日は僕がお二人にインタビューやらせてもらうってことで。お話し伺っていければなと。

山内・吹越 はーい。

岡部 山内さんが小説を書くって事で。「相談者たち」の第一回目を僕も読ませてもらったんですけど、吹越さんにも読んで頂いて。

吹越 読みましたよ。

山内 小説を?読んだの?なんでよ。笑

岡部 今回は山内さんが初めて小説を書くという。その辺のお話し聞かせてもらえたらなぁって。タイトルがね「相談者たち」っていう。元々は城山羊の会という山内さんの舞台で吹越さんが出演されてた作品と同じタイトルですし。吹越さんにも読んでもらったんです。

山内 だってそれはほら、小説はどうですか?って編集に言われたからさ。僕の小説を読んでみたいんですってね。じゃ、そうしようかなと思っただけ。

岡部 でも、言われただけでというか、そんな簡単に小説って書けるわけじゃないでしょ?どっかで元々は書こうというのは山内さんの中にあったんですか?

山内 そうそうそうそう。元々ちょっと思ってはいたんです。

岡部 で、読ませて頂いて。やっぱり、舞台とはちょっと話が違いましたもんね。

吹越 うん。勿論。内容は違ったね。

山内 あれはね、あの・・・劇での「相談者たち」のもっと前の話っていうか。

吹越 時間的には。

山内 そう。

吹越 喜多川さんって鄭亜美(チョンアミ)が舞台でやってた役の。

山内 そうそうそう。こっちは、喜多川さんから始まるでしょ。それがまず長いのよ。喜多川さんが監禁されてるっていう。その次は、吹越さんが演じた夫役のモノローグってのがね。一人一人それぞれ長い話があるというか。語りがね。

吹越 そういう先の構想みたいなのって何となくおぼろげにあるんですか?今後書いていくこの小説に関しての。

山内 構想?そうね、劇での「相談者たち」と同じ、家に連れて行かれて最後キスして終わりっていうのは思ってるわけ。

吹越 なんか小説だと思って読み始めたから「相談者たち」ってタイトルについて今話を聞くとなるほどと思って。意外だよね。山内さんがその・・・脚本を書いて物語進めていく時って、例えば城山羊の舞台だったりすると、この後どうなるかを俺らもわかっていないけど、山内さんでさえわからない状態で書いてるというのがいつもだったから。舞台の方が先にあって且つその前の話っていうのはさ。これ、意外だよね。

山内 でも、そうねぇ。確かに芝居を書いたからっていうのはありますよね~。あれが結構好きだったから、あの話がね。それで舞台の「相談者たち」をモチーフにという事なんですけど。まあ、でも大体最後はああなるっていうのは何となく思ってはいるけど、この連載はほら、別に全体の分量とか決められているわけではないし、いつからいつまで書くみたいな事も決まってるわけじゃないから。どのくらい引き延ばして書くかなんて正直わかってなくて書いてる。

岡部 一応締め切りはあるでしょ?

山内 それはね。でも文字数制限がないわけですから。

吹越 紙の出版物じゃないからできる事というか。それはとても自由度が高いね。

岡部 今してる話は吹越さん初めて聞いたじゃないですか。ご自身が出てくるっていうのはどうです?

吹越 今、ほんとに初めて色々聞いて。だからさ、こんなネタバレ言っちゃっていいんだって心配なぐらい面白い事を聞いてる最中なんだと思う。あとモノローグで構成されてるっていうのは、今後登場してくる人物はモノローグがメインという事ですか?

山内 そうそうそう。

吹越 俺なんか本読むとき途中で考えるんだよ。この地の文はこの登場人物が言ってんのか、誰だかよくわからない作家みたいな人が客観的にみて言ってるのかとかね。小説の文体も色々種類があるじゃないですか。それでいうとこれから山内さん自身がどっかで出てくるんじゃないかとかなんか思ったりして。ずっとモノローグでいくから。結局、この小説に興味持ってる人が山内さんて人の事がどんどんわかんなくなっていくという所がすごく面白かったのよ。あるじゃない癖って。文章の癖。例えばエッセイとかさ。それが喜多川っていう女の人の言葉で進むから、山内さんの存在が一切ないことになってる。そこがねやっぱりワクワクする。ますますわかんなくなっちゃった、この人の事って。

山内 まあね~。でも、全然どうなるかわかんない。たまたま読みたいって編集に言われただけだし。

岡部 でもいつかは小説を書こうというのはあったんですよね?

山内 ちょうど時間も少しあったの。今年は舞台もやらないし。小説書くのにさ、これだけ制約のないものってのもないじゃない。

吹越 そうですね。

山内 ほんとにこう気が向かないと書かない。締め切りは一応あるんだけど、そういうなんていうか芝居の台本書く時のあの切羽詰まった感じで毎日こう、あ~書かなきゃ、、っていうのは一切無い。本当の小説家っていうのはさ、そういうことを仕事としてというか。

吹越 今日のこの時間何枚書く。とかね。

山内 そう。何本も連載とかいう人もいるかもしれない。でも、これはそういうんじゃなくて。それぐらい制約無いから、書いてるうちに話がどこにいくかもわかってなくて書くわけ。特にそのモノローグだからさ。その人が喋るわけだから。書きながら自分でも思ってもみなかった事を書いたりしてる。そういう感じ。だから長くなるんじゃないかという気はしてる。あの、ほら「意識の流れ」というジャンルの小説があるでしょ?まあそういう事。

岡部 舞台では鄭亜美(チョンアミ)が演じる事を想定して喜多川さんという役を書かれたと思うのですが、小説の場合も誰かを想定して書いてるんですか?

山内 う~ん、、

岡部 当て書きじゃないですけど。例えば今回変な警察官とかも出てきたじゃないですか。あれとか。

山内 いや、無い。

岡部 ということはやっぱり戯曲を書くという事と小説を書くという事は山内さんにとって、全く違うものということですか?

山内 そうそう。全然違う。

吹越 戯曲、脚本、舞台や映画の場合って、なんだかんだ言ってどの役者さんが演じるのかとか、初日がいつだとか、出番があれだしとか、キャスティングしといて出さないってのも。とか。小説ってそういう事と関係のない、ほんとに誰にも迷惑をかけないで、一応誰かの事想定してから書くとしても、一切気を使うことはないというかね。

山内 そう。映画のホンだって演劇とは違って、キャストを想定しないで書かれる部分も多いですよね。演劇ほどキャストが決まっているわけじゃない。ちょこっとしか出ない人も出せたりするわけだし。映画の脚本ていうのは、やっぱり小説に比べると非常にコンパクトですよ。2時間って決まってたりだとか。無駄があってはいけないわけ。ちょっとした台詞や話を繋げていく事に対して。これからこんな風に繋げていくだろうなとかいろんなことを考えてね。

吹越 物語が決まっててもセットが建てられないからロケ前提でとか、なるべく少ない日にちでとか。他にも色々な問題はでてくる。それはやはり制約という事ですしね。

山内 映画もドラマも大前提として面白くないと。見てる人を惹きつけていかないといけないわけで。でも、これだけ自由で個人的な小説っていうのはさ、ほんとになんていうの。何にも考えてないから、読んでる人のことも全く考えてない。

吹越・岡部 あはは!笑

岡部 山内さんにとって今回の小説を書くという事は、全く誰の目も気にしていない?

山内 そう。だから完全に誰かに読まれるとも思ってないで書いてる。まあ、一体どのくらいまでの長さになるかなぁって感じ。延々続くんじゃないかな。そんな気がするよね。だからさ、生きてるうちに終わるのかな?っていうね。

吹越 あはは。笑 まあ、これは考えすぎかもしれないけど、構造的に喜多川って女性のモノローグが誰に向かって喋ってるのかとか。終わったことを喋っているのかとか。喋っている間に時間が先に行って明日の事を喋っているのか。とか。あまりにも自由度が高いから、ほんとにどこいくかわかんないですね。

山内 わかんないよ。

岡部 単純に、吹越さんは自分の演じられた役の話がこうして広がっていく事には?

吹越 いや、すごく嬉しい。舞台のキャスティングの時は当然物語より先にキャスティングが決まってたわけだけど、小説としての「相談者たち」の、時間の流れの話だとかいろんな話を聞いてみて、この物語が進んでいく時に、単純に山内さんの中に俺がビジュアルとして浮かぶことがあるんじゃないかっていうのは本当に嬉しい。

岡部 それは毎回映画なのか何なのかわかんないですけど、これは吹越さんに演じてもらうために書きましたとかあったりするわけじゃないですか? 

吹越 口説き文句としてね。笑 スケジュールが合わなくて違う人やってたりすると、なんだよ俺じゃなくてもやってるじゃんとかね。笑

岡部 あはは。笑 山内さんはこの作品を映像化しようかとか思わないですか?

山内 映画監督で自分で書く人、いるじゃない。例えば西川美和さんとかね。深田監督も。小説も脚本も書けるっていう監督さん。他にもいたな。そういう場合って映画と同時に小説も出したりすることも時々あるじゃない。でも、僕の場合は生きてるうちに終わるのかわかんないから。まず映像として形になること自体があるのかどうかもわかんない。

吹越 全部は無理にしても途中だけ映像にするとかできるかもしれないですけどね。ずっと、続く。で終わるとか。

山内 ほんの短いお話しですとか言って、全然短くなんないよね。

吹越 あはは。笑

山内 でも、思ったよ。ちょっと。思ったこともあります。まあ、でもわかんないね。

好きな作家

山内 岡ちゃんも小説好きだよね~。

岡部 好きですけど。けっこう読んだもの忘れてたりもしますよ。吹越さんて好きな作家さんとかいるんですか?意外と今まで聞いたことないなと思って。

吹越 そんなめちゃくちゃ毎日読んでるわけじゃないけど。元はあれですね。筒井康隆さんとか若いころよく読んだね。一応全部じゃないけど芥川賞が発表になった時は読んでみたりする。

岡部 へ~。意外ですわ。

吹越 岡部はあるの?

岡部 僕はもう、町田康さんですね。ほんまに好きです。山内さんはあります?これもあんまり聞いたことないですね。

山内 僕はなんだろうなぁ。

吹越 福永信さんていう作家さん知ってる?

山内 全然知らない。

吹越 僕も全然知らなかったんです。ある日映画の撮影で神戸に行って時間があったから本読もうと思って本屋さんに行って。そしたらタイトルが「コップとコッペパンとペン」っていう本を見つけて。タイトルがかわいいなと思って。そんな分厚くないしちょうどいいなと思って読んでたら、それが全く意味がなくて、すっげ~面白かったんですよ。それをよく覚えていて、チェルフィッチュの岡田利規君と舞台が一緒の時にその話したら、え?福永さんと今度対談しますよって言うの。それで岡田さん通して後でサイン本を貰ったりして。連絡先交換したりしてさ。

岡部 岡田さん通してサイン本貰ったんですか?笑

吹越 そう。でもさ、この話誰に言っても福永さんを知らないって言うの。たまたま岡田君が知っててよかったなと思って。ラッキーでしょ。でもすごい面白いのよ。構造的に福永さんの本って画を想像すると面白いっていうか、不条理な話ね。或いは本っていうものの形を操作して、大体日本語の小説って縦書きで右開きじゃない。でも左開きの横書きでずーーっと一行目で最後までいってから、戻って二行目ずっーとっていう本を出版されてたりするの。でも、やっぱりその本が読みにくいっていって、暫くすると「あの読みにくい本が読みやすくなって再登場!」みたいななんかそんなキャッチコピーで売られてたりして。

岡部 吹越さんはやっぱりそういう実験的な作品が好きですよね。

吹越 そうね。筒井さんもね、袋とじにして立ち読みはいいけどここから先は買って読んでよっていうのとかあったよね。別役実さんとかも小説じゃないけどさ辞典みたいなの出してて、これは目次が無いので上に放り投げて落ちた時に開いてるところから読んでくださいとか。そういうのはすごく好きだよね。

岡部 吹越さんらしいというか。そういえば山内さんも別役実さん読んでましたよね?

山内 別役さんは読んでる。あれだよ。僕は何年か前に悲劇喜劇の「別役実特集」に寄稿してる。

岡部 そうなんですね。

山内 そういう今の話で言うとさ、筒井康隆さんの話とか。シュルレアリスムから、いわゆるポストモダニズムっていうの?普通に書かないっていうか、物語を解体するっていうか、そういうの一時流行って、僕も随分かじってました。ドナルド・バーセルミとか、ジョン・ホークス、ジョン・バース、なんちゃらかんちゃら・・でも、どれもちゃんと読めなかったな。

岡部 紙の中でどれだけ遊ぶかっていうか。活字と紙しかないわけですからね。ずーっと男やと思って読んでたら女やったとかね。

吹越 仕掛けというかね。

山内 でもさ、読んでた本途中で投げ出すとか無いの?

吹越 ありますね。

岡部 僕もいっぱいありますね。

山内 僕も結構あるな。例えば誰の?

岡部 今流行ってる「三体」って知ってます?

山内・吹越 知らなーい。

岡部 中国のSFものなんですけど、それが爆発的に売れてて。一部二部三部って続いていくみたいで。一部の途中で投げ出しちゃってますね。

山内 なにそれ、中国の小説?ほ~。ちょっと待って(スマホで検索)あ、あらすじ書いてあるよ。

岡部 ちゃんと訳してあって。

吹越 当たり前だろ。笑 知らねぇなあ。

岡部 売れてるんです。ただこれはねぇ、止まってます。SFというジャンルがあるじゃないですか。恐らく僕はこのジャンルが好きじゃないんだなと思って。でも筒井さんとかの本はやっぱり好きなんですよね。

吹越 SFっていうかさ、だから考え方だよね。舞台がサイエンスなのかフィクションなのかって事よりも方法がSFっぽいかっていう。

岡部 なんでこんな流行ってんのかな~って思ったりはしますね。

吹越 好きな人いるんだよ。ジャンルとして。しかも超大作なわけでしょ。そういうの好きな人いるんだよ。俺なんかは超大作なだけでもう疲れちゃうわけだから。

山内 書き方も難しいよね~。でもこれは最近の小説だよね。そうか~「三体」は全然知らなかった。僕もだからさっき言ったポストモダニズムというかアメリカの小説の流れなんだけど、昔からいる人達の中でも特に有名なのがさ、トマス・ピンチョンって作家で。もう読めないね。とにかく難しい。とば口は入りやすいんだけど、どんどん何言ってるかわかんない。

吹越 読むぞって思って頑張って買って結局読めないってのあるよね。

山内 そうそう。トマス・ピンチョンの「重力の虹」とか昔読んだんだけど、意味がわかんなくてね~。でもやっぱり好きで、また最近買っちゃったんだけど。こんな分厚いのをね。

吹越 あはは。笑

山内 「ヴァインランド」っていう。でも読めないわけよ。すごいポップな話なのよ。でも引っ張っていこうとしてないからさ。話の展開がさ。

吹越 無理して頑張って読んでみようと思ってさ、ガルシア・マルケスとか。「百年の孤独」とかね。

山内 僕は「百年の孤独」は読んだな。

吹越 同じ登場人物なのに自分で言う名前と相手に紹介される名前とニックネームとかがあってその説明が全く無く進んでいくからこれ誰のことなのかわかんないみたいなの、もう疲れるじゃん。

山内 なかなかでもさ、あれですよね。そういう取っ付き難い小説っていうのはさ、若いうちに読んどいた方がいいよね。歳とってからじゃ読めないよ。

吹越 そうですね~。

山内 僕のトマス・ピンチョンなんてトイレに置いてあるからね。

吹越・岡部 あはは!笑 わざわざ新しく買ったのに!

山内 「意識の流れ」って言われてる小説の人たちなんかもさ、もう全然読めないね。ヴァージニア・ウルフとか。意味わかんない。

吹越 小説っていうか本はさ、舞台と違って時間が経っても勝手に終わらないですからね。

山内 そうそう。あれ、でもさっきから僕、読めない本のことばっか言ってる?

吹越・岡部 言ってますね。

山内 そうか。結局、僕は小説って、ちゃんと読めたものはないかもしれないな。人の舞台観ててもすぐ寝ちゃうしね。

岡部 ですよね。そういえば。山内さんは小説の出版とか考えてないんですか?

山内 考えてないですよ~。

岡部 まぁ、終わるかわかんないですしね。笑

山内 でもさ、初めに編集から小説を頼まれた時にね、ちょっと考えたの。もしも連載と関係なく書き上げて完成したとしたら賞に応募するってこともできるじゃない。でもその、発表するとさ、賞には応募できなくなるから。だから小説をこういう風に発表していくのはどうかなと。エッセイでもいいんじゃないかなと。悩んだの。でも、結局さっきからずっと言ってるけど、生きてるうちに終わるか終わらないか。なんだとしたら書くという事だけが目的なわけだから。一応の締め切りを与えられるという事で続けられる。それもいいかなと。だから終わらないかもしれないの。

岡部 すごいいい事、聞きました。

吹越 そうねぇ。

謎な二人

岡部 吹越さんって僕の周りの人に聞くと男性ファンの方が多いですね。皆、印象的には「謎」「怖そう」「何食べるんだろう」とかっていうね。

吹越 そうなの?意外だよ。山内さんの方が謎だし、逆に怖いよ。

岡部 山内さんとは謎違いっていうか。どちらも謎ではあるんですけど。

吹越 なにか狙ってるわけじゃないんだけど。山内さんからも言われたことがあるなあ。生活感が無いって。う~ん、、確かに無いのかなあとは思ったりもするかなぁ。でも味噌汁とか飲んだりするよ。

山内 う~ん、そうね。前の映画の時にそう思ったのかも。生活感は無いかな。でも、この間のNHKのドラマのさ「これは経費で落ちません!」の部長だか課長だかの役もさ、ああいうのは、最近こう、多くなってきたというか板についてきたというかさ。

吹越 部長ですかね。そうですね~、年齢的なこともあると思うんですけど。あの辺の役。結構やるの難しくなってきてるんですよ。似たような位置っていうのかな。編集長とか課長とか部長とか。

岡部 ちょっと、ひょうきんな感じがですか?

吹越 いや、なんていうのかな。優しいというか。いい部長みたいな役柄。

山内 中間管理職系の役ね。

吹越 だから難しいよね。続いちゃうと。前作のイメージが見ている人によっては抜けないというかさ。抜ける前に、次もまた会社の中で島を見渡すような役がきてとか。

山内 なるほどねぇ。前はさ、あんまりそういうのなかったじゃない。刑事とかの方がイメージでしょう。ものによるけどさ。だからやっぱり中間管理職系の役は増えてるように感じるよね。年齢的なものだろうけど。子供と話したり、家庭が見えるような役っていうのかな。 

岡部 もっと声かけやすくなるんじゃないですか?笑

吹越 そうだよ。あと、ほら、俺最近子供向けの戦隊ものとかもやってますから。いわゆる、おやっさん枠ってやつ。普通の人間で研究者みたいな。

山内 へぇ~。

岡部 そういう部長とかみたいな役から冷たい熱帯魚での役みたいなのまで、いろんな役をこなすときに、やっぱり、謎めいていたほうがいいというか、そういうのはあります?

吹越 ないよ。謎だなんて自分で一切思ってないもん。

岡部 でもイメージが定着しないほうがいいんじゃないですか?

吹越 そう・・かもねぇ・・。元々は、だから、イメージっていうよりも、自分でもの作ると大体こうなるって想像がつく作り方になったりだとかするじゃない。ソロアクトとか一人でやってると。パターンっていうかさ。やることと喋ることは新しい事だとしても、スタイルとしてはジャンルができちゃうというか。でも依頼されるやつの場合は、これはあの人に演らせるとこうなっちゃうとかいうのを感じさせないようにやっとかないと、演出家との距離が面白くなくなるから、あんまり用意しないみたいなのはあるかもしれない。

岡部 例えばソロアクトライブの時とか、パターン化していく自分を全然違うものにしたいとかいうのはあります?

吹越 最近思う。でも演ったら絶対近いものになると思ってるから、出発地点はなるべく遠いとこにしてる。すごいシンプルだよ。前回はあんまり喋ってないから今回は喋り倒そうとか。

岡部 山内さんはそういうのあるんですか?

山内 何が?

岡部 自分のパターンというか。そういうのがつまらなくなる事って。

山内 う~ん、、それはいつもというか。毎回必ずあるよ。 

吹越 毎回必ずあるはず。山内さんは、例えば僕が見たりだとか一緒に演ってて思うのは、場面を変えないとか、人の出入りをしないとか、いつも暗転しないのに暗転いれるとか。なんか必ず違う方法を取り入れてる。違う事をやり続けてる人だと思う。

岡部 意外とそれって思いついてすぐできそうやんと思いがちですけど、そういう一見シンプルにみえることに挑戦するのが結構大変ですよね。

山内 う~ん。難しいね。自分のパロディみたいなのをやって全然よい人と、それがやだなって人と。作家というか作る人というのがいるからね。僕はやっぱり毎回同じようなことは嫌だなって思っちゃうタイプだよね。でも、勿論、いっつも同じだよねっていう人とかいるじゃない、なんていうの金太郎飴みたいな。それはそれでさ、長く続けると大したもんだっていうのはあるけどね。

岡部 作家がよく飽きないなっていうのはありますよね。

山内 よくもまぁ、これだけ同じことをやって飽きないなっていう。同じことばっかりやってて。

吹越・岡部 あはは!笑

山内 自分にはできないよ。これだけ同じ事出してきて、しかも台詞まで前と同じなんじゃないの?みたいなのあったりするでしょ。そういう人の方が多作だよね。次から次に同じというか。自分の中では違うんだろうけど。傍から見るとほとんど全部同じ。

吹越 ほんとにそう。

山内 新しくしなきゃいけないっていうタイプの人は毎回戸惑うからそんなには作れない。

サブカルチャーについて

岡部 お二人とも影響を受けた方っています?

山内 吹越さんは前も言ってたけど、あれだよね、少年時代に東京サブカルに憧れて。ね。

吹越 八十年代とかですかね。

山内 そう、あの時代ですよ。僕はその頃、東京生まれだから。

吹越 八十年代。東京でてきたのが八十四年とかでしょ。田舎にいる頃はさ、ビートたけしのオールナイトニッポン、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)、スネークマンショーの頃。で、東京出てきて、東京乾電池とか東京ヴォードヴィルショーとか。で、

山内・吹越 「必ず試験に出る柄本明」。

吹越 よく覚えてますね!笑 そうそう「必ず試験に出る柄本明」っていう本を読んでさ、下北沢に住むっていうね。

山内 そのまんまだよね。吹越さんは今と全然変わってないんじゃないの?そのまんまこの歳まできてるっていう。

吹越 そういう意味でいうと、当時の18歳19歳位の頃に見たもの全てに影響を受けたかな。

岡部 今も下北沢は好きですか?

吹越 もう好きとか嫌いとかじゃないかな。選択肢の中に他の街が無い。あと面倒くさいかな。自分のことになると面倒くさがりだから。

岡部 そうですかね。

吹越 他人に迷惑かけないなって思ったら何にもやらない。ほんと面倒くさがりだね。着るものがあれば洗濯もしないし。

岡部 山内さんはそういう人っています?

山内 人っていうか、今の話で言うとさ、サブカルっていうのはさ、そもそもの拠点はラフォーレ原宿辺りなの。あそこのマンション(原宿セントラルアパート)に糸井重里さんだとかの事務所があったりね。それはもう70年代だね。

吹越 そうですね。

山内 僕が広告業界に入ってない頃だから。大学生かな。もうちょっと前かな。糸井重里さんとか、林真理子さんとか。

吹越 川崎徹さんとか。

山内 川崎さんはね、僕が入った会社にいた人なんだよね。僕は80なん年とかに入るんだけど、広告業界に就職をして。サブカル広告業界が破綻していた時代。その時はね、もう、ちょっと遅れてるの。なんていうかサブカル全盛期ではないっていえばいいのかな。パルコとかさ、そういうコピーライターの人達だとかは勿論超有名なんだけど。でも僕はちょっと遅れて入ってるから、すごく客観的に見てた感じだね。サブカルってものを。少し遅れてるから、傍からじっと見てるんだけど、でもその広告業界には入っちゃってるみたいな。だからなんていうのかな、ど真ん中にはいかないで、活躍してる人達をちょっとシニカルに見てたという感じ。その頃の僕の仕事には「シニカルに見てる感じ」ってのが、ものすごく表れてる。で、現在に至る。みたいな。

吹越 あはは!笑

岡部 どちらかというと山内さんの場合は誰かに影響されてというよりも、そういう文化に影響を受けたって感じなんですね。

山内 80年代はさ、演劇ブームだったから。演劇はものすごく見てた。まあ映画は勿論なんだけど。演劇ブームに影響を受けてるのは大きいよね。そこから、風間杜夫さんとか、平田満さんとかみたいな、つかこうへいさんの芝居に出てた役者さんがCMに出るようになって。ドラマよりも先にCMに出たの。驚いたね~。だからCMの会社に就職しちゃったわけ。別に広告業界に憧れてたとか全然なかった。有名じゃない演劇の人がCMに出てるという事の方が当時の自分にとって大きかった。

吹越 いきなり。誰だろう?これ?っていう出方してましたもんね。

山内 そうそうそうそう。

吹越 そっちの方に興味が湧くんだよね。テレビとか映画に出てる、いわゆる俳優をやっている人ではなくて、誰だろうこれ?って人に憧れるという。竹中直人さんとか『ザ・テレビ演芸』に出た時も、誰だろう?これ?って思ったのは強烈に覚えてる。

山内 そうね。その頃はだから広告の人がサブカルブームの中に入っちゃっていて、妙に目立っていたわけ。それで、シティボーイズ・ショーとかもさ、広告とすごく近い所に居てね。て、いうわけなんですよ。

岡部 山内さんのCM作品には世間の人が誰だか知らないまだ無名の面白い役者がよく出てきますよね?それはやっぱりそういう時代の影響が大きいんですか?

山内 そうそうそう。さっき話した、風間杜夫さんとか、平田満さんをCMに出したのが、僕が入った会社の先輩で。その人達の仕掛けだったっていう。

岡部 その人達ってよりは、そういう仕掛けに興味を持ったってことなんですか?

山内 まあそうだね~。今では隔世の感がありますけどね。そういう時代があったの。広告の人達の方が目立ってたっていうね。

岡部 今のサブカルチャーっていうものと全盛期のサブカルチャーってどう違っていたりするんですか?

吹越 今のサブカルチャーって、一体なんだろうね。

山内 難しいんだよね。この間ね、サブカルといわれている「明日のアー」ってのを見たの。劇団。サブカル系と言っている人もいたりして。確かにムードはそういう感じではあるんだけど、猫ニャーみたいな感じかなぁ。美術・芸術系というかね。チェルフィッチュの岡田利規さんとかも広い意味ではそうなのかもしれないけど、演劇どつぼじゃなくて、演劇の要素もあるんだけど、そういう美術・芸術系っていうかそういう要素もあるっていう。まあ今でも一応サブカルってカテゴリーなのかもしれないというか。でもまぁ昔とはやっぱり違うよね。サブカルというもの自体が随分規模が小さいというか、こじんまりしてるなっていう気はする。

吹越 今より勢いを感じたのは、自分が若かったからなのかなぁ。例えば、休み時間に友達と話しててもさ、知らないことを知っている、あと、その話を分かる奴と分からない奴がいるっていう事が喜びだったわけじゃない。「これ知ってる?」「知らない」みたいな。興味を持った奴とは話ができるけど、知らない奴とは「あぁこいつ違うんだな」みたいなのが、子供の頃はあるから。笑 それの威力っていうか興味を引く感じが今よりも絶大だったんじゃないかな。俺なんかは田舎の人間だったってのもあるかもしれないけど。東京に住んでたら違ったのかな。昔はSNSとかなかったしね。

山内 僕もあったあった。勿論ありましたよ、その感覚は。今はSNSとかあってね、情報が勝手に入ってくるわけだから。

吹越 俺らの頃は、どうやってその情報掴んだ!っていうのがあったからさ。笑

山内 やっぱりブームだよね。さっきも言ったけど、僕はどこか斜に構えてみたいな所もあったんだけど。じゃあ、昔のサブカルが良かったのか?なんて正直どうだかわかんないよね。ただ、浅田彰さんとかね、その哲学っていうか、それもサブカルの流れのひとつじゃない。すごくいい意味でいうと上昇志向は上昇志向。若い人がね。そこが今とは違っていて。上昇志向みたいなことはさ、悪い事ではないんじゃないかって気はするよね。勿論バブルの流れっていうのはあるわけだから、結構お金も動いたし、買い物もいっぱいね。デザイナーズの物を競って買ったりだとか。その流れなわけだから経済も回ってるし、そういうバブルの時代。破綻するまでは。それが良かったかどうかはわかんないけど。なんだか別物だよね。アレ?さっきから僕、良かったとか良くなかったとか、どうでもいいとかそんなことばっか言ってる?

吹越 まあ。

岡部 そうでもないですよ。

山内 あ、そう?じゃ、まあいいけど。

岡部 今だとYouTuberだとか。そういう新しい職業というか、そういう新しい形の広告だとかに対してはどう思われます?インターネットの普及で映画もNetflixで見れればいいかなとかいう人が多くなってきているっていうか。

山内 そうね。広告の代わりにYouTuberだとかね。

吹越 インフルエンサーとかね。

山内 だから、どんどん、すごくプライベートっていうか、好みの中に入っていってるよね。大きな社会的な動きというかムーブメントというかね。広告だってインターネットでターゲットを絞って、わかってる層に向けてやったほうが効率がいいわけでさ。買いそうな人っていうか。買いそうな人にだけ向けて発信できるわけだから。昔の広告はさ、絶対買わない人にも向けて無駄なお金をかけていたわけで。今は全然真逆でしょ。無駄なお金使わなくていい。でもその無駄なお金を使ってたっていうのこそが社会っていうか世の中を染めてたっていうか。そういう意味で文化的な事の規模は小さくなってるよね。

吹越 細分化されているというか、効率がいいというかね。

山内 それは、昔の様にはお金も回らなくはなるかなぁって思ったりするよね。

吹越 予測して、あなたはこういうの好きでしょ?ってのがあがってくるのもすごいよね。

山内 まぁ、それはそれで面白いとは思いますけども。

吹越 新しく変化していくって事ですからね。

山内ケンジプロフィール
生まれてから長い間CMディレクター&プランナーとして活躍、「NOVA」「コンコルド」「クオーク」「ソフトバンク」等話題のCMを多数手がける。04年から演劇の作・演出を開始、「城山羊の会」を発足、『トロワグロ』(14)で題59回岸田國士戯曲賞を受賞。映画では『ミツコ感覚』(11)、『友だちのパパが好き』(15)に続いて、前記『トロワグロ』を原作とした『At the terraceテラスにて』(16)。新しい地図presents「クソ野郎と美しき世界」EPISODE.02『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』(18)が4本目となる。

吹越満プロフィール
1965年、青森県出身。84年~99年まで劇団Wahaha本舗に所属。数々の映画、ドラマ、舞台、パフォーマーとしてジャンルを超えて活躍する。近年では【映画】「冷たい熱帯魚」(11)「悪の教典」(12)「土竜の唄」(15)「友だちのパパが好き」(15)「モリのいる場所」(18)「よこがお」(19)【ドラマ】「あまちゃん」(13)「警視庁捜査一課9係」(06~)「釣りバカ日誌2」(15~17)【舞台】城山羊の会「微笑の壁」(10)「水仙の花 narcissus」(15)「相談者たち」(17) 作・演出:松尾スズキ「ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン」(16)等、数多くの話題作に出演。日本になくてはならない個性派俳優。