第五回特別対談 渋川清彦(俳優)×渡辺大知(ミュージシャン・俳優)

大変な現場を共にした仲

渡辺:「長春館」よく来るんですか?

渋川:たまに来るね。ここは昔の映画の監督さんとかがよく来ていたから、伝説みたいなのがあったらしくて。嘘かほんとか知らないけど、有名な映画監督さんが喧嘩したかなんかで、その話に尾ひれがついて、椅子を投げてガラスが割れて道路に椅子が飛んだとか。いろんな逸話があって、映画界のいろんな人がこの近くに集まっている場所だよね。俺は普通に昼に来て飯を食ったりもするんだけど。随分昔からあるお店だしね。

渡辺:キーさん、最近めちゃくちゃ出演作が立て続けに公開してますよね。

渋川:けっこう前に撮った作品の公開のタイミングがたまたま重なっただけで、忙しいと思われてるけど、そこまででもないんだよ。

渡辺:ヨコハマ映画祭で主演男優賞とってませんでしたっけ?

渋川:ヨコハマは4年前の『お盆の弟』で、去年日刊スポーツ映画大賞で助演男優賞もらって、高崎映画祭でも最優秀助演男優賞もらった。

渡辺:おめでとうございました。

渋川:ありがとうございます。最近、黒猫チェルシーはやってるの?

渡辺:今は活動休止しているんです。今年はソロアルバムに向けて曲を作っていて、去年は休日は全部曲作りをしていた感じだったんですけど、煮詰まると映画の脚本を書いたりして。そうすると意外と両方のモチベーションが上がるというか。

渋川:脚本、書いてるんだ。

渡辺:書いてます。長編2本と短編3本書いたものがあって、お話しをいただいて短編映画は今年やれそうです。

渋川:そうか。それは楽しみだね。大知とは、一度飲み屋で会って、そのときに「これから映画を撮りたい」って言ってたんだよね。

渡辺:確か、三宅唱監督の『Playback』の上映後のトークショーを観に行った後に打ち上げに呼んでいただいて。その時に初めてお会いしたんですよね。2013年に。

渋川:その後か。大知の監督作に出演してほしいって頼まれて、確か渋谷で飲んだんだっけ。

渡辺:僕は元々、キーさんのファンで。映画を作ってみたいと思ったときに絶対出てほしい方だったので、それでお声がけして。

渋川:大知は映画少年だから(笑)。ジャ・ジャンクーの『青の稲妻』が好きって話してたよね。

渡辺:そうです。自分は音楽をやっていて、それでも映画を撮りたくなってしまったから、その理由として、そういう映画が好きであんな雰囲気で撮れたらいいなという話をして。ペーペーで低予算の、すごくひどい現場だったんですけど、出演していただけて。

渋川:すっごい大変だったよな(笑)予算がないから時間が必然的になくなっていくわけで、寝ないで撮ることになったり。

渡辺:卒業制作だし、スタッフ全員初めての現場で。

渋川:すごく印象に残っているのが、クランクアップした日にみんなもう限界が来てて、横浜のほうから運転して帰るぞってなった時に、スタッフの子が今にも寝そうだったんだよ。だから、「俺、運転するよ」って代わったりして。

渡辺:キーさんに運転させてしまって…… 。

渋川:帰り際に「ありがとうございました」って、ギャラを取っ払いしてもらった(笑)。

渡辺:もう頭があがらないというか、単純に、先輩であることプラス、いろんなものをいただいている感じはあります。

渋川:そんなことないだろ。大知も立派になってますから。

渡辺:いやいや全然です。

渋川:下北で一緒に対談したりもしたよね。

渡辺:2015年頃ですよね。公開は撮影してから2年後だったので。対談取材が終わった後、キーさんに飯に誘っていただいて、下北で飲んでたんですよ、編集の方と三人で。そこで飲んでたら、ちょうどそのときフラれた女の子とばったり会ったり(笑)

渋川:覚えてる!

渡辺:僕とキーさんの他に別の三人が合流することになって、そのうちの二人がカップルだったんですけど、喧嘩し始めて店の外に出て、謎に俺らが残されたこともありましたよね(笑)。

渋川:あった。下北の「ぐらばー亭」ね。あの頃は、青かったねぇ。大知はいくつになった?

渡辺:29歳になりました。

渋川:もうすぐ30歳だ。

渡辺:23歳のときに初めてお会いしてから6年経ちました。

渋川:まぁでもそんなに変わってないよね。芯みたいなところは変わってない感じ。

渡辺:そう言ってもらえると嬉しいです。

渋川:大知と話してても、年齢差はあまり感じないんだよね。古い映画も好きだし、先輩から代々伝わる美大卒ならではの映画好きなポイントとかあるじゃん。俺はそういうのがわかんなかったから、大知と話して、こういうのもあるんだっていうのを知って。

渡辺:僕もキーさんから、20年前の下北のライブハウス界隈の雰囲気だったり、サイコビリー界隈の人たちは怖くて近寄りづらかったけど憧れもしたという話とか教えてもらって。

渋川:そうだったかな。

初期の自分を客観視できるか問題

渡辺:キーさんって、初期の作品を久しぶりに観返すことってあります?20代の頃の自分はどんな演技してたっけとか。

渋川:最近はないな。それこそ、俺が一番最初に役者をやった『ポルノスター』を明後日上映するんだよ。主演の鬼丸さんが心筋梗塞で亡くなってしまって、その追悼上映で。観ようかどうしようかなと思ってるんだけど。でも、自分の部屋で観ようとはあんまり思わないかもなぁ。

渡辺:僕もまだないんですけど、2年前、映画館で『色即ぜねれいしょん』の上映と、田口トモロヲさんとみうらじゅんさんとのトークショーがあって、久しぶりに観たんです。うわぁっていう照れ臭さがあると同時に、意外と、言い方が合っているかどうかわからないけど、今よりいいなと思うところもあって。この頃とは違って変に技術っぽいことを考えちゃったりだとか、こんなにそのままそこにいるってことが今はできないなって、ふと思ったりして。

渋川:そこはなかなか難しいね。ある意味、客観的に見れるようになってきたってことなんじゃない? 

渡辺:そんな気がしました。ようやく。

渋川:最初の頃は、こんなに芝居をやるとかそういうつもりではなかったから、俺は癖が多かったの。あるときからこの癖がすごい嫌になった。それで、自分がどういう芝居をしているのかを見返すということをちょっと前はしてて、何か怖くなると自分の癖が出たりするってことがわかるようになって。だから、最初の頃のものを失くしたっていう感覚よくわかるよ。大知が撮った『モーターズ』がすごく面白かったのは、やっぱり初期衝動だから。監督の初期衝動が、一番面白いからさ。そこに全部かけてるわけだから。それは役者としては出演したいよね。

渡辺:全部かけましたね。金もあんまり持ってなかったですけど、自分の全財産で100万貯めてて、かなり計算して100万きっかりに納めてヨシと思ってたら、現場でいろんなことが起きて更にお金がかかってしまったり…親に借金して徐々に返しましたけど。お金のことだけじゃないですけど、そういう意味でもいろいろ詰まってた感じはあります。

渋川:一番最初の初期衝動は、たぶん取り戻せないよね。苦い経験も含めて、いろいろ知恵もついてくるだろうし。

渡辺:でも僕、だいぶ前に、ジミー大西さんの絵画の展示に行ったんですけど。ジミーさんの絵って描き始めた初期の頃はめちゃくちゃ上手くてすごくきっちりした印象を受けたんですけど、ある時期からグワ~ッとなり始めていて。それに感動したんですよ。

渋川:うん。

渡辺:急に変わったなと思ったら、解説文に、初めて岡本太郎さんに絵を見せたときに、「君の絵はフレームを飛び出してないね。だからあんまり面白いと思わない」みたいなことを言われて、フレームの四角いところを飛び出すってどういうことかを突き詰め始めたら、全然違うものになったって書いてあって。その純粋さがあれば、どれだけずっとやってきていても、誰かの一言でバンと初期衝動が生まれる瞬間はあるのかなって。

渋川:そうだね。

渡辺:僕はピカソが好きなんですけど、ピカソもその時々の周りの人の影響を受けて変化してて、誰かの影響をちゃんと受けるって大事な事だなと思うんですよね。突っぱねないで取り込むみたいなことが。

渋川:大知はホントいろいろよく知ってるし、しっかり考えてるよね。

ものすごい衝撃を受けた人

渡辺:キーさんは、憧れていた人とかいるんですか?役者でも監督でも。

渋川:一番の初期衝動を受けたのは、マット・ディロンとジェームズ・ディーンだよね。ロカビリーやってたから。アメリカの50’sを見たくて、フランシス・フォード・コッポラの『アウトサイダー』を観て、マット・ディロンはすっげぇ追っかけたな。役者になる前だけど。

渡辺:ジェームズ・ディーンだと何の作品が好きです?

渋川:それはやっぱり『理由なき反抗』でしょう。

渡辺:僕はそれしか観てないかもしれない。

渋川:『エデンの東』もあるけど。『ジャイアンツ』は俺も観てないな。

渡辺:この機会だし、普段は照れくさいからアレだけど、僕にとって影響を受けたという意味での「何だこれ!」ってなった初めての日本の役者さんはキーさんでした。

渋川:まじで?やめろよ、お前(笑)。

渡辺:映画で言うと好きな映画とかってのはあるけど、役者さんではキーさん。

渋川:じゃあ、これからもやっていけるかな(笑)。

渡辺:それこそ『ポルノスター』とか豊田利晃さんの作品として後から知ったんですけど、僕にとっては、キーさんを知れたきっかけであり、「うわぁ!」となったのは、『せかいのおわり』なんです。

渋川:敏感だね大知は。あれはね、追い込まれてたから。

渡辺:なんでこんな感じになるんだろう?すごいなと思って。何十テイクもしたんですか?

渋川:そう。1回壊れたからだと思う。

渡辺:僕、高校2年生だったと思うんですよね、観たのが。

渋川:俺が渋川に名前を変えたきっかけの作品。風間志織さんという監督は、何テイクもやるんだよ。30回以上テイクを重ねるんだけど、本人も悩むようで、何がいい悪いをはっきり言わない。本当に印象に残ってるね、風間志織さんは。『チョコリエッタ』を撮ってからは、新作は撮ってないけど。

渡辺:普段キーさんと飲んでいるときにはあえて聞けなかったんですけど、せっかくなので聞かせていただくと、あの映画、相槌がかなり多かったように思うんです。

渋川:そう!相槌多かった、すっげぇ多かった。その通り!

渡辺:僕はそれがめちゃくちゃ衝撃で。あれってキーさんの癖だったんですね。

渋川:そう。不安だったから。

渡辺:まじですか。ああいう役者さんっていないというか、相手が喋っている最中も「あぁ」って相槌を打っているのがすごく印象に残ってて。

渋川:それは聞いてないってこと。不安だから。当時風間さんにも「全然話聞いてなかったよね」って言われてたから。

渡辺:でも僕はあれが衝撃で、あれがやりたくて。なんですけど、普段お仕事をもらうときにはビビってできないんですよ。相手の台詞中にできないというか。すげぇ精神が必要で。

渋川:さっきも話したけど、そういうのを見てて、自分の癖がなんとなくわかるようになってきて。相槌とか首を振るタイミングとか、それは最近になって意識してきてるね。

渡辺:確かに毎回だとやりすぎかもしれないですけど、あの相槌の感じを出せる人はなかなかいないと思います。めちゃくちゃナチュラルにやられてて。

渋川:風間志織監督は本当に演技を排除する方だから。

渡辺:しかも引きの画が多かったじゃないですか。

渋川:そう。ずっと長回しで流すから、超不安だったよ。あと言われたのは歩き方。歩き方はたぶん映画の根本なんだけど、すごく引いて撮影していても、歩き方ひとつで喜んでいるか悲しんでいるかはわかる。風間さんに、「歩き方が全然楽しくない」って指摘されたんだよね。

映像的自然と演劇的自然

渡辺:こないだ久しぶりに、コンテンポラリーダンスも組み込まれた「ねじまき鳥クロニクル」という舞台をやらせてもらって。1年間ダンスのレッスンを通して体重の乗せ方だったりを勉強させてもらったりして、めちゃくちゃ楽しかったんです。ナチュラルに見えたほうがいいとされる映像とは全然違って、舞台は「ナチュラルでいることじゃない」とまず言われて。「シアトリカルナチュラル」という言葉を使われたんですけど、「演劇的自然」というのがあると。

渋川:滝藤賢一くんがそんなことを言ってた気がする。

渡辺:「自然にやって」と言われるから、自分が思う自然をやるんですけど、「いやいやそれはナチュラルすぎる。演劇的自然を考えてほしい」って言われるんです。舞台の上に立つと、少し動くだけでもその動作に意図が見えてきてしまうので、その意図を明確にした上での自然をやってくれと。

渋川:うん。

渡辺:映像の場合、全部に理由をつけてやったとしても、本番1回の中でポンと演じたら硬さが出て自然にならなかったりするけれど、舞台はそれを毎日何度も何度も繰り返すことで、最初は硬かった振り付けが自然になっていくというか、毎回同じタイミングで動けるようになってくるというか。体に落とし込む時間が作れるのが演劇なのかなって。

渋川:演劇の人と一緒に映像をやってるときにすごい焦ったのが、俺は全くリズムとか考えてなくて、ちょっと俺のリズムが崩れたときに、相手の人がガクガクガクと変わっていったの。たぶん、その人の型っていうのがしっかりあって、きっとその人のリズムでやってるんだよね。

渡辺:そういうのも勉強になります。その空気を楽しむくらいまでいきたいですね。何かが変わったらふわって対応できるくらいの緩やかさでやれたらなぁ、と思うときがあります。

渋川:この間、4月の終わりから横浜赤レンガ倉庫で上演する、豊田(利晃)さんの「怪獣の教え THE FINAL」の稽古をやったんだけど。前回から4年経ってるというのもあるけど、やっと面白みがわかってきた感があったな。こういうふうにやったら面白いんじゃないかと客観的に意識できるようになって。実際にできているかはわからないけど。

渡辺:僕は赤レンガに初演を観に行かせてもらいました。

渋谷:再演のときはそんなに変わった感じはなくて、ひとりで喋るシーンがあるんだけど、3回目の稽古で初めて少し余裕を持ってできてる感じがあったの。それは体に入ってたからかもしれない。

渡辺:同じ題材を何度もやるとなると、自分の変化にも気付けそうですね。舞台は久しぶりなんですか?

渋川:2019年の「ハンバーグができるまで」が最後だったから、そうでもない。でも、ここから舞台が2本続くんだよ、間がなく。水谷龍二さんという方がいて「星屑の会」という芝居をずっとやってて、映画『星屑の町』の原作、脚本の方なんだけど。2016年に下北沢のザ・スズナリで舞台「アシバー」という作品に出させてもらって、今回は水谷さんが27年前に書いた「掃除屋」という作品を3月に再演する。その後にすぐ「怪獣~」の稽古に入って。まぁそこでやってみて、何かちょっと発見があるもしれないのが楽しみ。

行き着く先はいつも映画の話に…

渋川:相変わらず下高井戸に住んでるの?

渡辺:いや環境を変えたくて、引っ越しました。10年間住んでたので、ひとつの街を知った気になれたのはよかったですけど、飲む場所も変わって、会う人も変わって。

渋川:街によって、色があるからね。

渡辺:キーさんはどの辺で飲むんですか?

渋川:どこでとかはあんまりない。俺はどこ行っても行きつけとかあんまりないんだよね。ひとりで飲みに行くこともそんなにないし、行きつけを作って必要以上にベタっとなる、ってことがない。昔、笹塚に長く住んでたときは、ラーメン屋だけはずっと同じところに行ってたけど。最近は全然行ってないな。

渡辺:「福寿」ですか?

渋川:そう「福寿」!

渡辺:僕の場合、ちょっと飲みたいなっていうときに、深夜開いてる店が下高井戸には3軒くらいしかなくて、そこに通っているうちに行きつけっぽくなっちゃいましたね。

渋川:常連だ。

渡辺:はい。そのうち、普段関わりを持たないような職種の常連さんとも顔見知りになって、当たり前ですけど、一個人として接してもらえるのが居心地良くもあり、10年いるといつ行っても同じ顔ぶれだなって思いながらもそれも楽しくて。そこで「映画とか何が楽しいの?」と言われたときに、確かに、何が楽しいのかな、暇つぶしみたいなもんだよなぁとか、そういうところに立ち返らせてくれるのが僕にとっては良かったですね。

渋川:俺も、たまにそういう人たちと飲んで、お酒のアテにしながら楽しんでいる感じはあるな。逆に、映画について聞いたら全部の答えが返って来るような川瀬陽太さんみたいな人とは、それが楽しくて飲む。解釈は人それぞれだけど、俺自身がマニアタイプではないから、マニアな人の話を聞くのはすごい面白い。

渡辺:キーさんは、よく飲む人とかいるんですか?

渋川:それこそミュージシャンが多いかな。OLEDICKFOGGYの伊藤雄和とか。役者だと、大西信満と川瀬陽太さんくらいかな。大知はよく飲む人とかいるの?

渡辺:僕は、それこそ『モーターズ』を一緒にやってた人たちと一番よく飲んでますね。そういえば、この前キーさんにお会いしたとき、お子さんの写真も見せていただいて。めちゃくちゃ大きくなってましたね。今おいくつなんですか?

渋川:4歳。すげぇ可愛いの。子供とできるだけ一緒にいたいという気持ちがあるから、いろんな映画を観に映画館にも一緒に連れて行ってる。

渡辺:英才教育じゃないですか。

渋川:今ハマっているのはCGアニメのルパンだね。どっぷりハマって、『ルパン三世 THE FIRST』は2回観に行った。『パンク侍、斬られて候』(石井岳龍監督)も一緒に連れて観に行ったし。こないだ一番最初に自分が映画館で観た映画は何かって話になって、俺はたぶん群馬の前橋で高校2年生くらいのときに、友達と『ビー・バップ・ハイスクール』を観たのが最初だったなって。

渡辺:僕は、4歳とか5歳の頃、お父さんに連れて行ってもらったのが最初で、確かゴジラシリーズでした。ギリギリ記憶がある程度ですけど。家はやたら堅い家庭だったので、映画館は目が悪くなるからって、家の明るいところでDVDを観るんだったらいいよと言われていたんですよね。

渋川:その頃からDVDがあるんだもんな。

渡辺:DVDは僕が小学校6年生くらいの時にできた気がします。その前はVHSで観てましたよ。

渋川:俺、今さっき映画観てきたんだけど。サム・メンデスの『1917命をかけた伝令』ってやつ。俺はすごい好きな話だった。観た?

渡辺:まだ観れてなくて、観ようと思ってました。

渋川:観てみて。どうやって撮ってるんだろう。ドローンなのかな。よくわかんないから。そっちばっかり気になって、物語からも置いていかれちゃう。最近、映画を普段観ないような人が入って流行ってる映画もあるけど、なんでだろうなって。だから、今流行っているものは、観るようにしてる。『パラサイト半地下の家族』がめちゃくちゃ流行ってるのも不思議だし。

渡辺:それこそ下高井戸の飲み屋で会った、普段映画なんか観ないような友達が機内で『ジョーカー』を観て感動して3回観たって言ってましたね。

渋川:ホアキン・フェニックスはずっと追いかけてて、ジョニー・キャッシュの伝記映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』とか、すげえいいんだけど、『ジョーカー』はなんか観なかったんだよね。これから観たいけど。

渡辺:最近だと、『フォードvsフェラーリ』は半端なかったです。今年一、めちゃくちゃ良かったです!あんなに永遠の王道っぽいのに、今撮る意義もすごく感じましたし。

渋川:フォード対フェラーリってアメリカ対イタリアってこと?

渡辺:はい。フランスのル・マンという24時間耐久レースで勝負するんです。クリスチャン・ベイルがこんなに演技が上手い人がいたんだ!ってくらい衝撃で。役作りのために肉体改造することも有名だったりしますよね。

渋川:役者の肉体改造に関しては、俺はけっこう疑問なんだよね。変える予算と時間があれば全然やるし、そんなのやったほうがいいに決まってるじゃん。俺だってちょっとはやるけど、でもそれが流行っちゃうのは嫌なんだよね。

渡辺:確かに。「今回の作品は何キロ落として望みました」っていうのが話題になったりしますもんね。

渋川:できるんだったらやってみたいけどね。でも、この問題は役者の性格次第なんじゃないの。昔の俳優でも、歯を抜いたり、体重を増減している人はいたけど、そこまで多くはいなかったような気がするからね。体を張るのはもちろんやるけど、でも、張るのって現場でだと思うんだよね。体じゃなくて気持ちなんじゃないかという気もするしね。古臭いけどね。

渡辺:『タクシードライバー』でロバート・デ・ニーロが体力作りをめっちゃ努力したっていう話も有名ですけど、メイキングを観ていると、イタリア語訛りの英語の習得にも時間をかけてたらしいんです。脚本を読んで、主人公のトラヴィスはイタリアの中西部訛りのイメージだったから、イタリアの中西部まで行ってたとインタビューで話してました。

渋川:田宮二郎さんもそうだったよね。『悪名』の撮影のために、大阪・河内長野に住んだらしいのよ。主演の勝新(太郎)さんも通ったらしいけど、田宮二郎さんは住んでたと聞いたことがある。

渡辺:そうだったんですね。『タクシードライバー』でデニーロがタクシー運転手を実際に1カ月間やったという話も、1カ月の間の土日しかやってなかったらしくて。平日はイタリアに行って、土日だけアメリカに戻ってタクシー運転手をやっていたと。要は、実際の感じをしっかり掴めればいいってことなのかもしれないですよね。

渋川:その辺って役者にとって難しい問題だよね。俺は仕事をしたことがないけど、河瀨直美さんはそれをやらせる監督さんでしょう。河瀨さんがという話ではなくて、その役作りの方法を好きか嫌いかという問題になってくる。でも、ストイックにやってみたいなとも思う気持ちも役者として勿論あるけどね。

渡辺:僕も、そういう機会を頂けるのであれば、自発的にやりたいかもしれないですね。 

渋川:俺は好きな監督だったら全然なんでもOKなの。年上でも年下でも関係なく、ちゃんと愛があれば。体を張ったとしても、笑い話になればいい。大知がやれって言ったらなんでも頑張るし。

渡辺:ありがとうございます。

渋川:もしかしたら、俺はドMなのかもな(笑)。

▪️渋川清彦
1974年生まれ、群馬県渋川市出身。
モデル活動を経て、『ポルノスター』(98/豊田利晃監督)で映画デビュー。
2013年に『そして泥船はゆく』(渡辺紘文監督)で映画単独初主演。
2016年には『お盆の弟』(大崎章監督)、『アレノ』(越川道夫監督)で第37回ヨコハマ映画祭にて主演男優賞を受賞。
近年の出演作は『モーターズ』(15/渡辺大和監督)『下衆の愛』(16/内田英治監督)『榎田貿易堂』(18/飯塚健監督)『泣き虫しょったんの奇跡』(19/豊田利晃監督)『柴公園』(19/綾部真弥監督)『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(19/平山秀幸監督)『半世界』(19/阪本順治監督)などがある。
2020年には第32回日刊スポーツ映画大賞助演男優賞、第34回高崎映画祭最優秀助演男優賞を受賞する。

▪️渡辺大知
1990年8月8日生まれ。兵庫県神戸市育ち。ミュージシャン・俳優。高校在学中の2007年にロックバンド「黒猫チェルシー」結成。ボーカルを務める。2010年にミニアルバム『猫Pack』にてメジャーデビュー(2018年10月に活動休止)。『ベイビーユー』(映画「勝手にふるえてろ」主題歌)などの楽曲も大きな話題となる。音楽活動と並行して俳優としても活動を拡げる。デビュー作となる映画『色即ぜねれいしょん』(09)では、日本アカデミー賞新人俳優賞授賞を受賞、数々の映画やドラマに出演。また、初映画監督作品『モーターズ』(14)で”PFFアワード・審査員特別賞”を授賞するなど多彩な才能を開花させている。2020年2月には、村上春樹長編小説の金字塔的作品「ねじまき鳥クロニクル」のインバル・ピントによる舞台化にて、主人公・岡田トオルを演じた。今後の公開待機作に、主演映画『僕の好きな女の子』がある。