第二十回特別対談 吉田靖直(トリプルファイヤー)×池田一真(しずる)

バンド・トリプルファイヤーでは他に真似のできない楽曲で、個人のエッセイでは一切飾らない文章で人の心を打つミュージシャン、吉田靖直。バカに振り切ったコントを次々と生み出し、ヤンキーめいた掴みどころのないキャラクターで独自の位置を確立しつつあるお笑い芸人、しずる・池田一真。プライベートで仲のよい二人、その共通点はいったいどこに?

明らかにされた「池田軍団」の存在

──お二人はプライベートで仲よくされているそうですね。最初の出会いは?

池田一真(以下、池田):最初の出会いは、えーっと(口ごもる)。

吉田靖直(以下、吉田):僕は何も隠したいことはないです。

池田:そうですか、じゃあ。コンパです。

──(笑)。

池田:僕と吉田さんの共通の友人に「人数が足りない」と声をかけられて、その佐藤という友人、僕、吉田さん、格闘家の城田(和秀)さんの4人でコンパに行ったのが最初です。

吉田:5年くらい前ですかね。実はそれより前に一度、佐藤さんに「しずるの池田さんをコンパに呼びますね」と言われたことがあったんですよ。もちろん観たことのある芸人さんなので緊張しながら行ったら「やっぱり、池田さんがモテたら嫌だから、今日は池田さんが仕事が入って来られなかったことにします」って。

池田:そんなことあったんですか(笑)。僕もトリプルファイヤーの『次やったら殴る』という曲を聞いていて、面白い曲だなと思っていたので、初めて吉田さんに会うときは緊張してました。

──初めて対面した際のコンパではお二人で会話されたんですか?

吉田:まあ一応、店に行く前に喫茶店で顔合わせというか、事前ミーティングを挟んだので、主にそこで。

池田:席の配置を考えたり、全員同時に行くと気合が入ってると思われるから、一人ずつずらして行く順番を決めたり。

──そんな戦略を。

池田:それは今も昔も変わらない、すばらしい文化といいますか。始まる前と終わった後にみんなで集まって、ああだこうだ言うのもコンパのうちです。

──部活のようですね。

吉田:そうですね。僕ら、一応「池田軍団」という名前でやらせてもらっていて。

池田:だから、今日は「池田軍団」から代表として2名が取材を受けている状態です。

吉田:まだメンバーは控えてるんですけど。

池田:あと3人。

──「池田軍団」は総勢5人なんですね。

池田:はい。普通、お笑い芸人の軍団って後輩で固めることが多いですけど、僕らの場合は、僕が僭越ながらリーダーを務め、ミュージシャンの吉田さん、構成作家の佐藤くん、格闘家の城田さんで構成されています。そこに後から山形のネギ農家の寅さんが加わりました。ちなみに、これ以上増やすつもりはないとだけ書いておいてほしいです。

吉田:このインタビューを読んで、入りたがる人がいるかもしれないですもんね。でも、誰でも入れるわけじゃないと。

池田:何か自信があるものがある人ならいいけど、「何もないですけど、これから何かになります」という理由じゃちょっと入れられないんです。

──池田軍団ではどんな活動を?

吉田:池田さんの家で、ネギ農家の寅さんが作ったネギ鍋を作って食べたりしています。コンパに限らずさまざまな活動を、多岐に渡ってやっています。

──池田さんはリーダー、吉田さんは副リーダーのような存在ですか?

吉田:僕は一番最初に来るだけの奴です。あとは序列はありません。

池田:そこはなるべく優劣、上下をつけないように。『ろくでなしBLUES』もそうだったよね? 前田太尊も横並びの関係を尊重してませんでしたっけ? 俺あんまり読んだことないですけど。

吉田:俺、途中で大尊の彼女に腹立ってきて、読めなくなっちゃったんですよね。

池田:確かに守られてばっかりの奴でしたよね。……すいません、リーダーがメンバーの知らないマンガで説明しちゃった。

吉田:こうやってリーダーに教えてもらったからには、次に会う時までに読んでおかないと。

池田の「不良キャラ」誕生の経緯

──出会う前からお互いの存在は知っていたとのことですが、実際に会ってから印象の変化はありましたか?

吉田:僕、芸人さんにけっこうビビッちゃうんです。オンとオフがすごくはっきりしてるイメージがあって。だけど池田さんはそういう感じがなくて、すごくフラットな人だなと思いました。

池田:勝手なイメージですけど、本当の実力者、あまりスベったことのない人は、オンとオフの差があるとすごくかっこいいと思うんですよ。でもそれに憧れて同じようにすると、「じゃあオンの時のお前の実力はどんなもんだ?」と見られるような気がして。だから、腕に自信がないんだったらオンとオフで大きく変わるのは危険な気がするんですよね。

吉田:そんな意識してフラットにしてたんですね。じゃあ、「オンとオフで差をつけてやってみよう」というときもあったんですか?

池田:僕は逆に、裏ではすごくしゃべるのに、舞台上ではポロッという一言でとてつもない渦を巻き起こすのが理想で。でも一言に賭けちゃうと、それがスベった時にショックでふさぎ込んじゃうんすよ。

吉田:・・・(笑)。

池田:だったら舞台上でも、そうじゃない場所でも、ずっとふつうにしゃべる方がいいなって。それもなかなか難しいですけどね。

──「オンとオフ」とは少し違うかもしれませんが、池田さんは舞台上でちょっといかついキャラクターを演じることがありますよね?

吉田:ヤンキーキャラ。

池田:そうですね。これを言うこと自体恥ずかしいですけど、役があったほうが人前に出たとき恥ずかしくない。

吉田:たしかに役があれば、発言もそれに沿ったことを言っていればいい。裸の自分だと、何もないところから言わなきゃいけないですもんね。

池田:そう! 服とかも、真っ白いTシャツより、柄があったほうが安心するんですよね。真っ白だとサイズ感とか、下との組み合わせとか、センスを試されるような気がする。でも柄があったら、その柄を描いた人のせいにできるというか(笑)。それと同じように、キャラを一つまとう感覚です。吉田さん、あのヤンキーキャラを褒めてくれたの覚えてます?

吉田:はい。面白いと思ってるんで。

池田:「ダイナマイト関西」という大喜利のイベントで一緒になったときに、「前、ライブで池田さんがやってたキャラ、すごく面白かったです」と言われて、「よかったー!」と思って。そこから続けてもいいかと思った部分はあります。

──吉田さんの一言が大きかった?

池田:僕本当に吉田さんのこと面白いと思ってるんですよ。そんな人に言われたからには、続けようと思いました。

吉田:あの頃は、まだヤンキーキャラをやりはじめてからそんなに経ってなかったんですか?

池田:そうですね。周りの芸人さんとかは面白いと言ってくれたけど、お客さんは「なんでこんな素朴な顔の朴訥とした子が、無理をして悪いことを言ってるんだろう」みたいに見られている部分もあって。だから相方の村上(純)からは「絶対やめたほうがいい」といわれました。「自分を客観視しないと」って。

──そもそも、キャラをまとおうとした時に不良を選んだのは?

池田:昔、池田軍団の佐藤くんがレディースの人が書いてるブログを見せてくれて。

吉田:レディースってブログ書くんですね(笑)。

池田:あまりに文章が面白かったので、本当のレディースが書いているのか怪しんでるんですけど。口調も、「言ったことをそのまま文章にしてる?」って感じで「あのゲームソフトがねえんだけど。たぶん、友達の誰々だ。あいつが来てからなくなってるもん。何で盗んの?」みたいに書いてある。その何週間後に「違った、ゲームあった。マジで最低だアタシ」って(笑)。それがめちゃくちゃ面白くて。

吉田:それはかなり、池田さんのキャラの源流感がありますね。

池田:そこで「あ、不良の口調って面白いんだな」と思ったのが大きかったのかな。

吉田:池田さんってこの不良キャラを、テレビとかの目立つような場所ではあんまりやらないんですよ。でもライブでは、ずっとやってきたかのようにやっている。それも面白いんですよ。

池田:最近ようやく、テレビでもやるようになりました。大きい場面でやらないと日和ったと思われるから。すると最近は逆にテレビとかで知った人が「池田、あれやるんだろ」と思って観に来てくれるような小さいライブでやりたくなくなっちゃって……。それじゃダメなんですけどね。

吉田:でも全体的には、もっと不良キャラでいる時間を増やしていこうと?

池田:うーん、キャラを決めつけると、めんどくさがる先輩がいるんじゃないかと。あと、「あれは俺じゃないですよ」「ちょっと呼んできますね」っていうやつあるじゃないですか。あれはやっぱり恥ずかしいので、ちゃんとあれはキャラクターでやってます、と言うようにはしています。

吉田:不良キャラのときに「池田はさ」と言われたらどうするんですか?

池田:そしたら、普通に(キャラを)やめます。僕Twitter上でも不良キャラでツイートしてるんですけど、一度Twitterで絡まれたんですね。「てめえ俺とタイマンはろうや」というリプライが来たんですよ。「そっか、これ危ないんだ」と思って、ちょっとだけ柔らかい表現でつぶやくようになりました。

吉田:あのTwitterに、ちゃんと不良が寄ってくるんすね(笑)。

池田:たしかに、どう考えてもたいした不良じゃなさそうなキャラなのに。それと、僕のこういうキャラを面白いと思ってくれた過激なスタッフが、「不良と喧嘩させる」みたいな企画をたてたら怖いなというのもあって、いつでもキャラを降りられるようにしているのもあります。「喧嘩強いんでしょ?」と言われたら「(サングラスを外して)いや、池田でやってますんで」とすぐに言えるように。

落ち込むほどに共感してしまう吉田作品

──いっぽう、吉田さんはどんな場所にもフラットな状態で出てらっしゃるように見えますが。

吉田:ちょっと”入った”ことをライブとかで言ってしまうと後でめっちゃ恥ずかしいので、後から恥ずかしくならないことだけを心がけてます。

池田:それって言っている時は気づかないものですか?

吉田:お酒を飲んでいることが多いので。……歌ってるとき、”降りてきた”感じをやろうとしたこともあるんですよ。ジョイ・ディヴィジョンのイアン・カーティスみたいにちょっと危険な感じ、違う人格になる感じに憧れて。変な踊り方したり、「イッちゃってるよあいつ」と思われるように振る舞ったり。でも僕がやったらボロが出るし、素でも意外とやばいやつに見えてるっぽいから別にこのままでいいかと。

池田:そういうの、やっぱ考えるんですね。

──池田さんの思う、吉田さんの「面白さ」はどんな部分ですか?

池田:まず、単純に曲がいい。『次やったら殴る』もよかったし、あと『スキルアップ』っていう曲が、とんでもないです。僕そんなに音楽を聞いてるわけじゃないですけど、とにかく聞いたことのない歌で、笑っちゃうんですよ。

吉田:『スキルアップ』は会社で働いていたときに、「テキストファイルの『3』を全部『0』にしておいて」みたいな仕事があって。「今日、3を0にするのがうまくなったな」と思ったあと「これがうまくなっても、今後俺がやりたいことに全く近づいていかないな」と気づいて、「ああ、これ言いたいな」と生まれた曲ですね。世の中の会社員の人たちも、意外とこういうことをやって「スキルアップできました」と言っているのかもしれないって。

池田:なるほど! だから歌詞に書かれているのがあんな抽象的な、謎の作業なんですね。僕もコンビニのバイトをやっていた頃、空のダンボールを潰すときにアクション俳優の坂口拓さんがやっているウェイブという格闘術を真似していて。続けるうちにだんだんうまくなっていったけど、これ何も役立たないなって。

吉田:そういう、積み重なっていかないスキルみたいなの、ありますよね。組織の末端でただ言われたことをやっているのって、不条理な行為をずっとやってる感じ。

池田:たしかに、日々の仕事が次に活かされなかった瞬間に不条理になるって悲しすぎますね。あと、この前読んだ吉田さんの本(『持ってこなかった男』双葉社)もすごく面白くて。パチンコをやめられないくだりとか、読んでて「もうやめてくれ!」と思うくらいでした。えぐられるというか、共感しすぎて落ち込んじゃうというか。「それ、言葉にできるんだ」って。吉田さん、「ゆずが好きだった」って書いてありましたね。

吉田:そうです。

池田:僕NUMBER GIRLとかeastern youthとか聞きながらも、B’zの『ねがい』をすごく好きな自分もいて。すごい歌えちゃうし、聞いてるとすごいアガっちゃう。そういうのを思い出したりして、すごく共感しました。

吉田:ゆずが好きな自分を隠していた頃は「こんなこと考えるのは自分だけだろう」と思っていましたけど、大人になって意外と普遍的な感覚だとわかってきました。池田さん、僕の本読んで「すごい面白かったです」と連絡をくれて。面白いコントを作っている人にそう言われたのはすごく嬉しかったです。

ネアカだった池田少年のその後

──池田さんのおっしゃるように、吉田さんの文章には自分がすでに忘れてしまったような10代の頃の感情が克明に描かれていますね。

吉田:書いているうちに思い出してくるのもありますけど、自分の「うわー」と思った気持ちを、できるだけ正確に伝えたいというのはありますね。

池田:吉田さんって……、充実した学校生活では、なかったじゃないですか。今、言葉を選ぼうとして選べなかったですけど(笑)。充実してなかったからこそ、覚えてるんですかね?

吉田:そうかもしれないですね。友達の結婚式とかで同級生と会うと、みんな昔のことを全然覚えてなくてびっくりしますよ。

池田:「昔の同級生の家にあそびに行ったら、同級生の友達がいてそいつにいじられる」という話があったじゃないですか。あれ、読んでてつらくて。僕の話ばっかりで申し訳ないですけど、僕はその、いじる側だったかもしれないんですよ。

吉田:ああー。

池田:高校くらいの頃って吉田さんみたいな雰囲気の人に憧れてたんですよ。だからなんかやるときも、すっとそいつの方見て「笑ってんのかな」と気にしていて。わざとそいつに休み時間話しかけたりとかして。仲いいほうが、ちょっとしたボケでも笑えるじゃないですか。だからそういうふうに接していた部分があって。

吉田:へー!めちゃめちゃ外交的ですね。明るいグループと大人しいグループを結びつける存在。

池田:そうです。でも今、同窓会にあんまり呼ばれない。全部のグループに片足を突っ込んでいて、結局は所在がなかったんですよ。あんなにネアカでみんなに好かれてると思ってたんですけど、今となっては連絡をとりあう人もいない。これ、意外に怖くないですか?

吉田:たしかに、やばいっすね。

池田:「全然友達がいなかったから連絡がない」ならわかるじゃないですか。僕はすごい友達がいたと思っているのに、今は誰からも連絡がない。一人だけ小中高ずっと一緒だった幼なじみがいて、そいつだけは連絡をくれてたんです。僕、結婚するときそいつに婚姻届の保証人を頼みに座間まで行ったんですよ。そしたら、そいつ俺の知らない間に結婚してたんですよ。

吉田:うわー!

池田:で、そいつは婚姻届の保証人を、会社の上司にしてたんですよ。

吉田:気まずいな。

池田:そいつからはまず、「なんで(保証人)俺なの?」と言われて。「バカ野郎、お前じゃん! お前が結婚した時は俺書くよ」と言ったら「え、言ってなかったっけ?」って。もう薄々気づいてるけど言わせたくて、「どういうこと? なにそれ?」って言ったら、「結婚してるよ」って。「え、お前言えよ、知らねえよ。保証人は?」「上司」「ああ、まあまあ、そこは全然いいんだけど」。本当は保証人に選ばれなかったことに一番傷ついたけど、それを知られたくなくて「結婚したんだったら言えよ、バカ野郎。まいいや、とりあえず書いて」って。だからたぶん、俺の人生には吉田さんと違うタイプの怖さがあるんですよ。

吉田:いやあ、俺より怖いっすね。しかも「誰も友達がいなかった、クラスの底辺から成り上がってやる」という既存のストーリーにも乗っかっていない。しずるって、若い時に売れたじゃないですか。だから池田さんが変わってしまった気がして連絡できないんじゃないですか?

池田:いや、それ以前から連絡なかったんですって(笑)。

走るだけで面白い、池田という人

──吉田さんは、池田さんの面白さはどんなところだと?

吉田:以前、池田さんが走っている動画を誰か芸人さんがアップしているのを見たんですよ。扉の向こうを全力疾走して通り過ぎていくだけなんですけど、それがすごく面白くて。走っているだけでこんな面白い人いないよなって思いました。不服なときにする表情も、すごく面白いんですよ。

池田:たまに、吉田さんと池田軍団の佐藤くんが酔ったときに、わざわざ僕が不服に思うようなことを言って、二人でケラケラ笑うんですよ。

吉田:あの表情がすごい好きで。

池田:不服な人の前で笑うって、たぶんダメなことだと思うんですよ。

吉田:そうですね(笑)。

池田:でも吉田さんの不服そうな顔も負けないくらい面白くて。みんなでネギ鍋をやったときに、鍋に水だけを入れて、グツグツ煮てたんですよ。そこに買い出しから帰ってきた吉田さんが「もういい香りする」って言ったんです。それ、たまたま聞こえてたのが俺だけで、後から寅さんに「さっき吉田さんがお湯だけで」って言おうとしたら……。

吉田:なんで遅れて言うんですか!

池田:吉田さん、その時も俺の顔をぱっと見て。「言うな」なのか、「言え」なのかわからない傀儡(くぐつ)のような顔をしていて、すごい笑っちゃったんですよ。

吉田:一旦自分の中でためておいて、いちばん効果的なタイミングで言われたのが不服だったんでしょうね。

──お話を伺っていると、池田さんはすごく周りを見ていらっしゃる感じがしますね。

吉田:ですね。一緒にいたときに起きたことを、後で「よしログ」(YouTube配信)で話したりしてるのを見ると、やっぱり出来事を切り取るのがうまいんだなって思います。

──吉田さんは、しずるのコントもご覧になりますか?

吉田:はい。しずるの単独は村上さん作の公演も、池田さん作の公演も観に行ってます。

──吉田さんの思う、池田さん作のコントの魅力は?

吉田:鉄砲とかよく出てきますよね。

池田:絶対出しますね。

吉田:アメリカ映画の王道っぽいストーリーに乗っかっている池田さんがすごく面白いんですよ。「こういう奴いるよな」というキャラクターを演じる池田さんはそれだけで面白いし、愛せるし。かわいい。

池田:確かにポップな感じは意識しているかもしれないです。たとえば、ちょっとした心の揺れ動きみたいなネタをつくると、失敗します。もちろんそういう、バナナマンさんやかが屋みたいなネタに憧れたときもあったけど、僕が作ると全然ウケない。だから大幅なバカ、脱ぐ、変な顔、コミカルで機敏な動きとかのネタをやってます。僕のネアカな部分が出ているんじゃないかと思うんですよ。そういうネタがウケると安心します。やっぱり自分はネアカだったんだって。

吉田:変に難しいことを言おうとしないかっこよさがあるかもしれないですね。

池田:できたらいろんな人に見てもらいたいですからね。最近お金の価値について考えることが多くて。やっぱりお金を払って観に来てくださる方々に、わからないことは見せたくない。だからできるだけ笑いやすいものを作ろうと思っています。でも今回(7月22〜25日に開催予定のしずる単独ライブ)はもしかしたらちょっと過激なネタがあるかもしれなくて……。そういうのが苦手な方は避けていただいた方が、僕らが嫌われずに済むかもしれないなって。一応、それをカバーするように、お子さんも楽しめそうな「ひょっとこがいるサッカーチーム」というネタもいま考えてるんですけど……。これはあえて興味をひいてチケットを売ろうという気持ちじゃなくて、本気で思ってることなんです。

吉田:たしかにそういうとき、言いたくなる気持ちは僕にもあります。フェスとかで始まる前に集まってきた人を見て、「いや、あのバンドを観た人は絶対俺らのこと好きじゃないだろうから、来ないほうが本当にいいと思う」と思うことはあります。言えないですけどね。

池田:やっぱり吉田さんもあるんだ! しかもけっこう舞台から客席が見えるじゃないですか。盛り上がってないところまで見えますよね。

吉田:見えますね。まあ、僕らの場合、そもそも客席がそんなに盛り上がりはしないんで、心の中では盛り上がってくれてると信じるようにしてます。ちょっとした動きに注目しはじめると、心が疲れちゃうので。

池田:ですよね! 僕、客席が観られないですもん。誰か知り合いとか見つけちゃったもん
なら、その人が笑ってなかったときに、引きずっちゃう。

吉田:それがいいですよ。そこで笑ってないことがわかったところで、その後対処できないですしね。

池田:そうそう、展開は決まっちゃってるから「ごめん、まだあんなのもあるんだ」って思いながらやったりしています。

共通点は「かっこいい名付け」?

吉田:今回の単独ライブのタイトル、なんでしたっけ?

池田:いつもかっこいいタイトルをつけてるんですけど、今回は「BLACK TREATMENT」。

吉田:副題は?

池田:「その弾丸はお前を貫き、そして黒く汚れた」。

吉田:ははは!

池田:僕がネタ作りを担当する単独ライブは、どこを切ってもかっこいいタイトルと副題にいつもしているんです。トリプルファイヤーのアルバムに『エピタフ』ってあったじゃないですか。あと「アルティメットパーティー」というライブ名。その辺すごくいいなって。

吉田:確かにちょっと、タイトルの付け方の方向性は近いかもしれない。考えたら「トリプルファイヤー」も池田さんっぽさがある気がする。

池田:「トリプルファイヤー」ってめちゃくちゃいいですよね。申しわけないけど抜群のダサさがあって、面白いですね、「トリプルファイヤー」は。

吉田:いまだに口に出すの恥ずかしいですからね。

池田:そうなんですか!?

吉田:毎回口に出すたびにちょっと嫌な気持ちになるんです。慣れないですねえ。普通に喫
茶店で「トリプルファイヤーがさ」とか言ってたら「は?」と思うじゃないですか。「なんかダサい単語言ったな」って。

池田:「え?」ってね。それがまさかのバンド名。

吉田:「トリプルファイヤー」という単語を、当たり前にこの世にあるもののように言っているのが恥ずかしい。

池田:それでもう伝わると思っているあたりが。

吉田:すごくバカにされてる奴のあだ名だったらまだ収まりがいいかもしれない。

池田:「トリプルファイヤー帰った?」「走って帰ったよ」。

吉田:走って帰るやつはバカにされそうですね(笑)。

池田軍団のこれから

──池田軍団はこの先も5人で活動を?

吉田:寅さんが後から入ってくるとき、僕、池田軍団の佐藤さんとお酒を飲んでて「寅さんが池田軍団に入るのは認めねえっすよ」と言ったらしいんですよ。

池田:それを聞いて「吉田さんちょっと熱くなりすぎじゃない? 池田軍団なんて正直ねえよ! 入れるも入れねえもねえんだよ!」ってすごく笑いました。吉田さん、あまりその記憶がないって言ってましたね(笑)。

吉田:はい。後から聞いて「恥ず!」って。でもたぶん、冗談で言ったわけじゃなかったと思います。

池田:池田軍団って今現在ほぼ機能してないんですよ。というか、機能って言い方をしたら機能したことなんて一回もないんです(笑)。ただ集まっただけ。でもそれを吉田さんが熱く言ってるって聞いたら、もうちょっと集まらなきゃいけないのかなと思ったりして。

──吉田さんは、池田軍団をかなり大事な存在として認識されているんですね。

吉田:そうです。やっぱり最初にどんなグループでもちょっと上の厳しい先輩がいますよね。

池田:一期がね。

吉田:その先輩が納得しないと新メンバーは入れられない。じゃないと池田軍団が乱れてしまうんで。

池田:風紀がね(笑)。自由の中にも芯がないといけませんので。

吉田:もし俺が嫌われたとしても、軍団のために。

池田:はははは!そういうこと言うやつ、いるなあ! 吉田さんと僕とで共通するものは結局あまりないかもしれないですけど、会ったらこうやって気取らず話せる相手ですね。そうやって話せる、芸人以外唯一の人たちが池田軍団。あともう一人、実は「新潟の童貞」という人がいますけど、それを入れると話がややこしくなってくるんで。

──新潟の方は軍団ではないんですね?

吉田:(食い気味に)軍団ではないです。

池田:早えなあ、さすが一期(笑)。

■プロフィール

吉田靖直(よしだ・やすなお)
バンド「トリプルファイヤー」のボーカル。1987年4月9日生まれ、香川県出身。音楽活動のほか、映画やドラマ、舞台、大喜利イベントなどにも出演。また雑誌や各種WEBサイトで執筆活動をおこなっている。今年2月には初の著書『持ってこなかった男』(双葉社)を上梓した。

池田一真(いけだ・かずま)
1984年1月17日生まれ
2003年10月しずる結成。NSC東京校9期生。吉本興業所属。キングオブコントで過去4度決勝進出を果たす。毎年7月に池田の作・演出による単独ライブを開催。今年は下北沢駅前劇場にて上演予定。
第1回旗揚げ公演の脚本を池田が担当した、芸人による演劇ユニット「メトロンズ」としても活動中。

しずる単独ライブ「Black Treatment~その弾丸はお前を貫き、そして黒く汚れた~」
作・演出 池田一真 bullet 1
日程:2021年7月22日(木)~7月25日(日)
会場:下北沢駅前劇場 
公演詳細https://yoshimoto.funity.jp/r/blacktreatment/
オンライン配信https://online-ticket.yoshimoto.co.jp/products/blacktreatment210724
※配信日時7/24(土)配信開始17:00 配信終了18:30
※見逃し視聴は7/31(土)17:00まで。チケットの販売は見逃し視聴終了日の昼12:00まで。