第十六回特別インタビュー 今泉力哉(映画監督)×若葉竜也(俳優)×中田青渚(俳優)
CHIRATTO第十六回特別インタビューのゲストは、4月9日(金)に公開となる映画『街の上で』から今泉力哉監督と、本作で映画初主演(荒川青役)を務めた若葉竜也さん、そしてヒロイン・城定イハを演じた中田青渚さん。
インタビュー中に「今泉監督が怖い」となんども言葉を発していた中田さんのその理由や、今泉監督の撮影現場における特異な演出の話、そして、今泉映画の登場人物にも通じるような「お互いのダメなところ」などについてもお聞きしました。
「根底はどこまでいっても“人間”なので」(若葉)
── 現在放送中の朝ドラ『おちょやん』にご出演された若葉さん(杉咲花演じる千代の初恋相手“小暮”を好演)ですが、中田さんと今泉監督はご覧になってましたか?
中田青渚(以下、中田):はい、なんだかすごい爽やかだなって。
若葉竜也(以下、若葉):(笑)。そういう役だからね。
中田:そうですよね(笑)。爽やかな朝を過ごしました。
若葉:ありがとうございます。
今泉力哉(以下、今泉):成田(凌)さんも出てるしね。若葉さんが朝ドラに出たことで『街の上で』のあるシーンの見え方が変わってしまうってさっき話してたんですけど。
── 実は『街の上で』の劇中に「朝ドラ」に関する会話が出てくるんですよね。それはぜひ映画をご覧になっていただくとして。若葉さんご自身は反響などありましたか?
若葉:反響はすごく大きくて。実はそれまで朝ドラを観たことがなかったんですけど。オファーを頂いて単純に『おちょやん』っていう企画がすごい面白くて、杉咲さんにも興味があったので「いいな」と思ってやらせていただきました。ふたを開けてみたら「こんなに反響があるのか」っていう印象です。
中田:あんまり(普段の若葉さんと)同じ人に見えないですよね、髭とかがあるので(笑)。
若葉:そうだよね。
── ごく個人的にですが、若葉さんといえば『葛城事件』で演じられたようなアクの強い役の印象が強く残っています。『愛がなんだ』や『街の上で』、そして『おちょやん』の小暮は、それとは真逆に見えるある種の“普通の人”という印象を持たせる役柄ですが、演じ分けるうえでの難しさやアプローチの違いはありましたか?
若葉:『葛城事件』とかもやっぱり根底はどこまでいっても「人間」なので、基礎の部分は変わらないんですよね。彼が「殺人鬼」で、こうこうこういう理由があったから罪を犯したんだって簡単にカテゴライズしてしまえばそれまでですけど、そうじゃなくて、彼のなかには彼なりの途轍もなく複雑なものが渦巻いていて。根底の「人間」だってことは変わらなくて、見え方が違ったりとかするだけのことかなと僕は思ってるんですけどね。『街の上で』で気にかけていたのは、「キャラクターっぽくしたくないな」ってことでした。青はこういう人間だからこれはしないんだとか、限定的にしてしまうとどんどん人間の面白さから離れていく感じがして。
今泉:「普通の人」を演じるって、根本的にできないんだろうなっていま聞いてて思いましたけどね。その人にはその人らしさがあるはずだから。
若葉:そう。僕も今は俳優としてインタビューを受けていて俳優のお面を被ってますけど、家ではもちろんもっと気は抜けてて。なんにもしてないのに普通によだれたれてるときとかもあるし。人間って結構そんなもんで、いろんな顔を持っていて、その日出会った人の話を聞いて価値観が変わっちゃうときもあるし、真逆のことを言い出したりすることもあるだろうし、「そんなもんでしょ」って思ってやってた部分はあります。
── 普段から役への向き合い方の根底にそうした意識があった。
若葉:そうですね。
── 中田さんは城定イハを演じるうえで役づくりはされましたか?
中田:脚本を読んで、そのまま演じたという感じで。特別になにかをしたとかはないんです。
若葉:本読みのとき「イハのことがよくわからない」って言ってたよね。
中田:だって青に急に話しかけるとか、イハのいくつかの行動って普通じゃ理解できないですし。でもそういう彼女の変なところを全部理解しなくてもいいかなって思って、特別な役づくりはしなかったんですよね。
今泉:「脚本を読んでもどんな映画になるのかわからなかった」って言ってましたよね。あと、中田さんから「私が演じる役は関西弁にしてくれ」って言われました(笑)。
中田:そんなことは言ってないですよ(笑)!
── イハの関西弁という個性は『街の上で』に欠かせない要素になっていますよね。どういう経緯なんでしょう?
今泉:もともと標準語で脚本を書いてたんですけど、イハの役が(兵庫県出身の)中田さんになったので本読みの段階で関西弁にしたんです。
若葉:あ、今泉さんが本読みの直前に「関西弁でいってみようか」って提案したんですか?
今泉:そう、中田さんありきの関西弁です。ワークショップ映画とかに近い、本人の持ち味に寄せていく作り方ですね。
若葉:僕はてっきり……。本読みで急に中田さんが関西弁で喋り出して、でも僕は標準語で書かれた台本を読んでたから、「なにこの人」って思って。
今泉:そっか、言ってなかったか。もう大女優じゃんそれは。
若葉:「肝座ってんな」って思って(笑)。なるほど、そういうちょっと宇宙人系なのかなとか。
中田:宇宙人系ってどういうことですか(笑)。
若葉:そう思ってたんですけど、今ようやくわかりました。
今泉:今?
若葉:今知りましたよ。だから俺、今までの取材では「中田青渚は宇宙人みたいな人です」って言いまくってるな……やばい。
中田:ひどい、ひどい(笑)。
今泉:『あの頃。』も関西弁だったから、彼女はどの作品でも関西弁で挑んでいく人って思われてたらやばいね。
若葉:愛してるな、関西。いや、ごめんなさい。
── 本編を観てみると、「イハは関西弁じゃないとありえないな」と誰もが思う仕上がりですよね。
中田:関西弁じゃないと出ないリズムもあって、それが標準語だったら全然違う感じになっていたと思います。
今泉:さっき話してたんですけど。青とイハはお互いに好きにはならないような絶妙な距離感の役柄だったから、中田さんは2人のシーンとかでもちょっと「雑に言葉を投げる」ことを意識的にやってたって言っていて。
中田:それも関西弁だからやりやすかったかもしれないです。標準語だと狙ってる感が出ちゃうと思うので。
今泉:もっと距離感が近くなっちゃうんだよね。そういう工夫をしてくれてたってことを今日知りました。
若葉:俺も今知りました。
中田:そういうことしちゃいました。
「基本的に天邪鬼なんで、簡単な表現はしたくない」(今泉)
若葉:関西弁もそうかもしれないですけど、芝居を見てもらいながら監督が足していったセリフとかもあるから、すごく匂いがありますよね。
── 前にインタビューで若葉さんが、「今泉監督は制御する部分と自由に遊ばせる部分の使い分けが上手」というお話をされていたのを読みました。
若葉:そうですね。なんか、「このルールのなかで遊んで」っていうのをつくるのがすごく上手だなって毎回思っていて。小学生のときとかにもいたなぁとか思って。そういう、オリジナルゲームをつくってルールを決めるのが上手い人。
今泉:ハハ(笑)。
若葉:この輪のなかで遊んで、そこからは出ないでね、みたいな。今泉監督の現場にいるとそれを毎回思い出すんですよね。
── 「こういう芝居はしないでね」と制御していくイメージでしょうか。
今泉:「これはしないでね」って言うこともありますが、それは「する人」に言うだけですね。ワークショップのときとかは、やっぱりやっちゃう人はオーバーな芝居をしてしまうので。それはどんどん引いていく作業が多いので言いますけど。あとは相手にすぐ触るとか胸ぐらを掴むとかは、触らないで同じ表現ができるならそのほうがいいと思ってますし。泣くとか怒るとかもそうですね。それを観てる人も演じてる人も感情が動きやすいけど、やっぱりそういう見せ方は楽なんで、あんまりやりたくないです。基本的に天邪鬼なんで、他の人もできるような簡単な表現はしたくないっていうのがありますかね。
── 役者さん側からしてそうした「制御される部分」というのは、他の現場ではやっているけど今泉監督の現場ではやらないということなんでしょうか。
若葉:基本的にはでも、今泉監督が言ってることと考えは一緒ですね。ストレートに泣いたり怒ったりっていう芝居を映画館で観たときに、結構冷めちゃった経験が何回もあって。「弱い人」という描写なのにこんなに怒れたり人前で泣けたりするんだとか。泣きたくても泣けない人はいるし、怒りたくても怒りかたがわからない人はいますよね。そういう芝居のほうが、僕は生々しいと思う。それを今までもやってきたつもりではいたんですけど、「もうちょっとわかりやすい芝居を」っていう演出を受けることもあって。だから『愛がなんだ』で今泉さんがそういう気持ちをうまく掬い取ってくれたっていうのがありました。
今泉:『愛がなんだ』で言うと俺は、若葉さんがいい役者なのかよくない役者なのかまったくわからないまま終わったんで。
若葉:これずっと言ってるのよ(笑)。
今泉:全然わかんねぇなって。
中田:どういうこと(笑)。
今泉:岸井(ゆきの)さんとか成田(凌)さんとかは「あぁこういう芝居なんだな」って掴めたんですけど、若葉さんはまったく掴みどころがなかったんですよね。それが自然さなのかなんのなのかもわからず、編集時に仕上げていくなかで徐々に魅力に気づいていったんですけど。でも今回はちゃんとすごさがわかったりしたし。まわりの役者がみんな「若葉さんだから何をやっても受けてくれる安心感があった」って言ってくれてるんですよね。
「今泉監督は、ふぁ〜っとしてるから怖いんです」(中田)
── 中田さんは、今泉監督の現場の「制御する部分と自由に遊ばせる部分」みたいなものは感じましたか?
中田:そういうのはよくわからないんですけど……。現場に入る前に『愛がなんだ』を観ていて、(今泉映画の登場人物は)よく「生っぽい芝居」とかって言われるけど、それを全部台本があったうえでやっている監督の現場に行くのは怖いなって思ってました。
今泉:自分にできるのかなっていうこと?
中田:え、なんか、今泉さんに会ったときに「ふぁ〜」っとしてるから……。
今泉:(笑)。
中田:それなのに鋭く見てるというか。台本がちゃんとあるうえで生っぽくしてるっていうのが「怖っ!」って思って。
今泉:それはでも、監督だから当たり前じゃない(笑)? それが仕事だから。
中田:そうなんですけど。「ずっと見てるぞっ!」っていう感じで見られてるならいいんですけど、とにかくふぁ〜っとしてるのに全部見透かされてるから……。
今泉:じゃあサングラスの一個くらいかけたほうがいいか。
若葉:黒澤明監督みたいにね(笑)。
今泉:白髪とかにして、ジャームッシュみたいに。
中田:撮影が終わるたびに監督の顔を確認しちゃったり。ほんとに怖いんです。
今泉:それを言語化すると、さっき若葉さんが言ってた「遊ばせてる」とか「泳がせてる」とかってことになるのかも。
中田:そうですね。言葉にするとそうなんだなって、いま理解しました。
今泉:基本的には役者さんの演技を否定したり、閉じ込めていくということはしてなくて。あくまでも「私のアイデアが採用された」って思ってもらうというか。でももちろんこっちは、それが良いとか悪いとか、編集したらどうなるかっていうのは頭で全部考えてやってるので。
中田:それが怖い……。「自由にやっていいよ」って見せかけて全部操られてるじゃないですけど、計算されたなかで動いてると思うと怖いです(笑)。
今泉:他の監督もそうじゃないの?
中田:でもやっぱり、雰囲気が違うじゃないですか……。
今泉:まぁ、圧をかけないからね。
中田:そう、圧をかけないのに、圧があるみたいな。
今泉:それ全然「圧をかけない」に失敗してない(笑)?
若葉:あんなに現場の隅っこにいるのにね。丸まって。
中田:そう、あんなに隅っこにいて見えてないのに、全部を見てるみたいな。怖いです。
今泉:いや、監督だから。俺、たぶん監督だから(笑)。
若葉さんのNG集に乞うご期待
── 若葉さんと中田さんのおふたりが会話を繰り広げる『街の上で』の重要な長回しのシーンについても、どう撮られたのかお聞きしたいです。
今泉:あそこは想像してたよりもとてもいいシーンになってましたね。脚本を書いていたときに想像してたものよりも全然よかったから。あんなことになると思ってなかったんで。
── 一発撮りだったのでしょうか。
中田:本番は1回でしたよね。
若葉:そうでしたっけ?
今泉:そうだよ。ただ、若葉さんが……。
若葉:あ、そうだ。俺がセリフぶっ飛ばしちゃったんだ(笑)。「何回でもやればいいんだから」とか先輩ぶって中田さんに言ってたら自分が緊張しすぎて飛ばしちゃって。
今泉:3ページくらいね。
中田:飛ばして後ろのセリフ言っちゃって。始まったばっかりなのにもう終わりそうみたいな。
若葉:そうだ。中田さんに助けてもらってね。
今泉:中田さんが繋いでくれたんですよ。結果的に編集でそのミスは完成品からは無くなってるんですけど。でもこれはきっと世にでるよね、DVD特典のNG集とかで。「若葉NG集」は、いつかDVDになるときに他にも入れたいシーンがあるので。
── 若葉さんのNG集は意外ですけど、とても気になります。
今泉:芹澤(興人)さんとのいい芝居のシーンもね。カフェのカウンター越しにふたりが喋ったあとに、「じゃあまた」って言って帰っていくところまで撮ってたんですけど、そのセリフを言う場所にバミリ(ここで立ち止まるという印のテープ)を貼ってたら若葉さんがそれをがっつり見て立ち止まった。
若葉:バミリの止まり方がわからないんですよ。見ちゃうんです、バミリを。
今泉:それはちょっと楽しかったもん、現場で。「若葉さん、バミリ見て止まった!」と思って。うれしくなってOK出した。まあ、編集の都合で無くなったんですけど。
若葉:いろいろありましたね。
── 若葉さんは相手役の中田さんの芝居をどう感じていましたか?
若葉:すごいなって思ってましたね。こんなに自由になれる人ってあんまりいないから。その影響を受けて僕もそうなっていったし。こんなに若くてこんなことができちゃうって大丈夫?とも思いますけど。アドリブとかもほとんどなくちゃんとセリフに沿いながら。パズルがカチカチってハマっていく感じがしましたね。
── アドリブとかは意外と少ないんですね。
今泉:そうですね。何をアドリブと呼ぶのか、にもよりますけど。脚本で書いたものより明確に面白くなってる部分でいうと「笑い声」とかはアドリブと言ってもいいかもしれないくらい、ふたりはうまく入れてくれてましたね。相手のセリフを受けて、自分の言葉を発する前に笑ってる時間とか。それって脚本に細かく「(笑)」とか書いてるわけじゃないので。それが奇跡的なレベルで成り立ってたから、もう一回は撮らなかったんですよね。テイクを重ねるとどんどん慣れてしまうし、鮮度も大切だったので。
── 会話のグルーヴ感というか、言葉と言葉の間のリズムのような。
今泉:そうですね。脚本段階ではカットを割ることも考えてたんですけど、割れなかったですね。
── 逆に中田さんは、若葉さんとお芝居をしていてどうでしたか?
中田:「自由だった」とさっき若葉さんにおっしゃっていただきましたけど、それは若葉さんにどうセリフを投げても「どうせ返ってくるだろうな」っていう、すごく楽な気持ちがあったからだと思います。イハの言葉は適当に投げようと決めていたので。その適当さを、どの向きから投げても返ってくるので、だからああいう自由な感じになっていたのかなって思います。
── そうしていたら、若葉さんが急にセリフを飛ばしちゃって……。
若葉:すみません、緊張しちゃって。
中田:めっちゃ「えっ」と思いました(笑)。戻ってこられるような言葉を投げたりしたんですけど全然気づかれなくて。「もうダメだ」って思いました(笑)。
若葉:逆に「中田さんなんでセリフと違うこと言ってんだろう」って思ってましたもん。自分が飛んでることにも気づかなくて。
中田:すごい普通の顔して言ってましたもんね(笑)。
若葉:だから普通に見たら、俺が間違ってるようには絶対見えなかったと思います。
中田:私のほうが焦ってました。
若葉:完全に俺が悪いんですけどね。
山下敦弘監督の言葉
── 今泉監督がよく言う「温度の低い芝居」とか「生っぽい芝居」というのは、鑑賞者の立場からするとなんとなくわかるものの本質が掴めないのですが、言語化するとどういうものなのでしょうか。
若葉:これは良いとか悪いとかの話ではなく、芝居の温度が高めな役者さんっているじゃないですか。ストレートに泣いたり怒ったりっていう、先ほどの話にも通じると思うんですけど。
今泉:もちろん作品によってみなさん高い低いをコントロールできると思いますけど、高いイメージがある役者さんはいるよね。熱を孕んでるというか。
若葉:そういう芝居に感情移入する人もいるし、という話ですね。あとは映画をつくってるときに、「自分たちだけで盛り上がってしまう」みたいなことが起こりがちなんですよね、現場って。自分たちだけで笑ってたりとか。そこで一旦「本当に面白いのか」って立ち帰れるとか、冷静なジャッジがちゃんとできるかとか。その辺りの話が、芝居の温度にもつながるんじゃないですかね。
── なるほど。先ほど中田さんは現場に入る前に「怖かった」とおっしゃっていましたが、「生っぽい芝居」は何かわかりましたか?
中田:生っぽいかどうかはわからないんですけど、私はイハを演じているときに、どこまでがイハでどこまでが自分かちょっとわからなくなってたから、そういうのが「生っぽい」につながるんじゃないかなって思います。……合ってますか?
若葉:合ってるとか合ってないとかはないから大丈夫。
今泉:他の監督と比べてどうなのかっていう話ですよね。
── そうですね。気になります。
若葉:違いはもう、全員違うんですよね。監督によって言葉も違うし、演出方法ももちろん。一概には言えないですけど、内輪で盛り上がったときに「今の面白かったよね!」ってみんなでなっちゃう現場は僕は信用ならないっていうか。今は笑ったけど、客観視したら面白くなかったかもなっていう目をある程度持っておく必要はあると思うんですよね。
今泉:『街の上で』もそうですけど、『あの頃。』とかはまさにそういう男の内輪ノリを描いていたので、現場が楽しくなってる時間はずっと冷静でした。確かにそれはすごい気にしてるかもしれないです。基本的に現場で一緒にわぁ〜って盛り上がることはないですね。
中田:それも怖いんです。ずっと表情が一緒だから、「自分がちゃんとできているのかできていないのか」わからなくてずっと気になってました。
今泉:すっごいたまに褒めます。でもほぼないですね。ていうか、やっぱり役者さんは不安なほうがいいと思ってるんですよね。これは先輩の山下敦弘監督に言われたことですけど、「役者が役を掴んでいると思ったら、気をつけたほうがいいです」って。役を掴みすぎると本人が出てきちゃうと思うんですよね。本人のエゴというか。感情的に迷いがなく演じているというのは、ちょっと俺は怖いので。
── 正解を与えないといいますか。
今泉:そうですね。それに俺が正解を全部知ってるとも思わないですし。
── 撮影中もぜんぜん笑ったりはされないというのは意外でした。以前、偶然ですが『退屈な日々にさようならを』の上映でお席が隣になったことがあったんですけど、ご自分の映画を観られるときはすごく笑ってましたよね。
今泉:恥ずかし(笑)。
若葉:ハハハ(笑)。『街の上で』の撮影中にも、今泉さんが気でも違ったみたいに大笑いしてるときはありましたけどね。
今泉:え、あった? ああ、あれのときか! ちょっと、映画の現場を知ってる人しか笑えないところですね。あれは面白かった。お腹よじれて死ぬかと思った。成田(凌)さんが出てるシーンなんですけど、あれはちょっと意味が違う。完成した映画にも、もちろん残ってないです。
ダメすぎる今泉監督
── 少し話題を変えまして。前にこれも若葉さんのインタビューで「今泉監督はダメな人」とおっしゃっていたんですが、具体的にどのあたりがダメなのかお聞きしたいです……。
若葉:約束してる日に電話をかけたら、「いま京都にいるんだよね」って言われたりとか。
今泉:京都?
若葉:京都の劇場で「『街の上で』のイベントをやってるから」みたいな。
今泉:それも覚えてないな。約束してた日?
若葉:約束してた日ですよ!
今泉:最低だな……。
若葉:その日は、出演したある映画の監督と夕方から食事をしていて、でも夜から今泉さんと呑む約束もしていたので「ちょっと約束があるんで、帰ります」って言ったら、「なんで? 誰と飲むの?」って聞かれて「今泉監督」って。「また今泉かよ! いいよ、約束してるなら行けよ!」「すみませんお疲れさまです」って言って出て、今泉さんに電話したら「京都にいる」って言うんですよ。もう戻れないじゃないですか、いまさら。食事してた監督に嘘ついたみたいになっちゃって。で、今泉さんには「いま飲んでるからまたかけるね」って電話切られて(笑)。そっから連絡つかないんですよ。そういうのとか。
今泉:俺、京都で飲んでたってこと? そっか。それはダメすぎるなぁ。たしか鈴木卓爾さんとかと呑んでた(笑)。
若葉:あと、これは撮影中に「暑い!」って言って、撮影現場の古着屋のTシャツに勝手に着替えてたりとか。
今泉:あれはダメだ。ごめんなさい。あれはほんとに人としてダメでした。
若葉:「あとで買えばいいよ」とか言って、それで店員さんからちょっと怒られて。
今泉:あれはほんとによくないです。コンビニ内で商品買う前に勝手に食ってるみたいなもんだから。いや、あれは命の危機を感じていたんですよ。夏で暑くて死にそうで。ほんと言い訳にもならないんですけど。なんで古着屋のTシャツ着ていいと思ったのか俺もわからない。
若葉:とかですね。いや、今泉監督、ダメでしょ(笑)。
── 中田さんはどう思いますか?
中田:「ダメな人」ってどんな人なんだろうって思ってたけど、「ダメな人だな」っていま聞いてて思いました(笑)。
若葉:で、「若葉は俺に似てる」って言うんだよ? 俺、Tシャツを無断で着ることなんてないから!
今泉:でも若葉さんもほんとダメだと思います。
中田:ちょっと同じような雰囲気は感じますけど……。
今泉:若葉さんはなんか、だらしなさとかダメさを知ってる感じがするんですよね。そういうものをわからない人も当然いて。さっきの「芝居の温度」の話にも通じると思うんですけど、きちっとしてることが正しいと思ってる人はいると思うんです。別にダメなほうがいいなんて全く思ってないですけど、ダメな人も認めてくれるとか。それは若葉さんのなかにもある気はしてます。
── 若葉さんはちょっとダメなところがあるということで。その意味で言うと中田さんは。
今泉:まだそんなに知らないですよね、中田さんを。もしかしたら完璧さを求める人かもしれないし。
中田:私も自分で自分がわからないですけど。別に完璧を求めてないけど、ダメな人も、正直どっちでもいいっていうか……。
今泉:だから許容はあるよね。
中田:自分がダメかどうかもよくわからないです。(マネージャーさんに向かって)ダメですか?
若葉:マネージャー確認入った(笑)。
中田:そんなにきっちりもしてないけど、ダメでもないと思います……。
今泉:欲とかはあるんですか? その、「売れてやるぞ!」みたいなこととか。
中田:人のお芝居を観て、うわぁ……って思うことはあります。
今泉:上手いことに悔しさを持つとかってこと?
中田:そういうのはあります。
今泉:誰ですかそれは?
中田:それは内緒です。その人のことが嫌いっていうことじゃないんですけど、めちゃくちゃムカつくんです。
── 上手すぎてっていうことですか?
中田:上手いことにもムカつくし、そのお芝居をしたことにムカつくというか。でも自分はできてないからそれにもムカついて……。
今泉:そういうふうに自分もできるようになりたいってこと?
中田:そうですね。自分が同じ作品に出てたので、自分のを観ると。
今泉:若葉さんは人の芝居を観てムカついたってことはないんですか?
若葉:一回もない(笑)。
中田:私もあんまりないので、びっくりしました。
観てもらうのは怖い、でも面白いから観てほしい……
── 最後の質問になるのですが、『街の上で』という映画に若葉さんと中田さんはどういった思い入れがあるかお聞きしたいです。
中田:思い入れ……。
若葉:なし?
中田:ないことはないです。
今泉:(笑)。
中田:「思い入れ」ってなんだろう……。ちょっと自分が何を言い出すかわからないので先にお願いします。
若葉:いや、僕主演だから。
今泉:「僕、主演だから」(笑)。そんな言い方あるんだ。まぁ締めだよね、普通は。
若葉:主演なんで(笑)。そう、でもこれはあんまり言わないですけど、ほんとに代表作にしたいと思ってるし、なったと思ってますし。自信作ではあります。
中田:私は、この映画が公開されるのがちょっと怖いんです。なんだろう。ほんとに野放しでやったというか。何も考えずに、まぁ考えてることはあったけど、すごい遊んだっていう感じがあるので、これが公開されると今後「これをやった人」みたいに見られるのが怖いです。
若葉:え〜、ほんと?
中田:いや、役がダメとかそういうわけじゃなくて……。
今泉:言ってること、何も疑問ないです。わかります。
中田:今後やっていくもので超えていかなきゃいけないじゃないですか。
若葉:ああ、そういうことね。
今泉:これを求められてもってことね。
中田:そうです。しかも自分の力でやったっていうよりは、全部引き出してもらってそれに乗っかってやったって感じだったんで。それが怖いです。はい、怖いです。
今泉:やばいな、このままだと公開を中止にする暴動とか起こすかも。
中田:でも映画はすごく面白いんで観てほしい気持ちはあるんですけど……。
若葉:(笑)。
今泉:アメとムチがすげぇ(笑)。
── 確かに『街の上で』を観てしまうと、次に中田さんを観るときも“城定イハ”を求めてしまうところはあるかもしれないですね。
中田:それを自分の力で出していかないといけないんですけど。この作品では引き出してもらったものが多いけど、次から自分で出していくのかぁと思うとちょっと。
今泉:出していってください。でもこのあとに『あの頃。』でご一緒したときに「ここってこうしてもいいですか」みたいに自分の意見を言ってくれる場面がいくつかあって。『街の上で』のときより考えてお芝居してるんだなって気がしました。だから大丈夫です。
中田:『街の上で』のときも考えてはいたと思うんですけど、いま自分がイハを演じたとしたらもっと考えちゃうから。あのときに撮れてよかったなって思います。
── 今泉監督は今後、商業映画も撮りながら『街の上で』のような小さな作品も撮っていかれるご予定ですか?
今泉:そうですね。ほんとは『街の上で』みたいな映画だけつくっていけたらっていうくらい、自分でも出来に満足してしまっていて。でも満足したら引退でいいというか、もうつくらなくていいと思ってるんで。つまり……引退ですかね。でもありがたいことにこのあと6本くらい控えてるんで、そこで『街の上で』より面白いものがつくれなかったらそれこそ引退ですね。絶対超えますけど、軽く。とりあえず『街の上で』はヒットしてくれ、広がってくれって思います。
若葉:どうやったらヒットするんですかね?
今泉:『愛がなんだ2』ってタイトルに今から変えちゃう?『あの頃。2』とか。
若葉:「松坂桃李」ってポスターに名前書いちゃえばいいじゃないですか。
今泉:それか『劇場版 おちょやん』ってタイトルにする?
若葉:いいっすね。
今泉:それか「小暮」活かしで。『街の上で 小暮編』。『はぐれ刑事純情派』みたいな。
若葉:(笑)。全然関係ないし観てないけど「杉咲花、大絶賛!」って書いたりして。
今泉:怒られるぞ。とりあえず、観てもらえたらってのが一番です。まぁでも、これからもいろいろつくっていこうと思います、正直な話。一個一個丁寧にやります。
『街の上で』(監督:今泉力哉 脚本:今泉力哉 大橋裕之)
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか4月9日(金)より全国順次公開
配給:「街の上で」フィルムパートナーズ
配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS
【ストーリー】
下北沢の古着屋で働いている荒川青(あお)。青は基本的にひとりで行動している。たまにライブを見たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったり。口数が多くもなく、少なくもなく。ただ生活圏は異常に狭いし、行動範囲も下北沢を出ない。事足りてしまうから。そんな青の日常生活に、ふと訪れる「自主映画への出演依頼」という非日常、また、いざ出演することにするまでの流れと、出てみたものの、それで何か変わったのかわからない数日間、またその過程で青が出会う女性たちを描いた物語。
■プロフィール
今泉力哉(いまいずみ・りきや)
1981年2月1日生まれ、福島県郡山市出身。代表作に『たまの映画』『サッドティー』『退屈な日々にさようならを』など。『こっびどい猫』でトランシルヴァニア国際映画祭最優秀監督賞受賞。「午前3時の無法地帯」「東京センチメンタル」などのドラマ、乃木坂46のシングルCD特典映像『水色の花』(齋藤飛烏)『早春の発熱』(衛藤美彩、桜井玲香)なども手がける。2019年に映画『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』が公開、2020年には『mellow』(主演:田中圭)と『his』(主演:宮沢氷魚)が立て続けに公開された。金曜ナイトドラマ「時効警察はじめました」やWOWOW「有村架純の撮休」にも演出として参加するなど精力的に活動している。ハロプロオタクを描いた『あの頃。』(主演:松坂桃李、脚本:冨永昌敬、原作:劔樹人)が現在公開中。
若葉竜也(わかば・りゅうや)
1989年6月10日生まれ、東京都出身。作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で数多くの作品に出演。映画『葛城事件』(16/赤堀雅秋監督)で、第8回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。主な出演作品に、ドラマ「令和元年版怪談牡丹燈籠」(19/NHK)、「ブラックスキャンダル」(18/YTV)、連続ドラマW「コールドケース2~真実の扉~」(18/WOWOW )、映画『GANTZ I・II』(11/佐藤信介監督)、『DOG×POLIC E~純白の絆~』(11/七高剛監督)、『明烏』 (15/福田雄一監督)、『美しい星』 (17/吉田大八監督)、『南瓜とマヨネ ーズ』 (17/冨永昌敬監督)、 『サラバ静寂』 (18/宇賀那健一監督)、 『パンク侍、斬られて候』(18/石井岳龍監督)、『愛がなんだ』(19/今泉力哉監督)、『台風家族』(19/市井昌秀監督)、『ワンダーウォール 劇場版』(20/前田悠希監督)、『生きちゃった』(20/石井裕也監督)、『朝が来る』(20/河瀬直美監督)、『罪の声』(20/土井裕泰監督)など。2021年は、NHK連続テレビ小説「おちょやん」に初出演したほか、映画『AWAK E』(山田篤宏監督)、『あの頃。』(今泉力哉監督)が公開中、『くれなずめ』(4月29日公開/松居大悟監督)をはじめ公開待機作も多数控えている。
中田青渚(なかた・せいな)
2000年1月6日生まれ、兵庫県出身。2014年、「第5回Sho-comiプリンセスオーディション2014 」にてグランプリを受賞。主な出演作に、ドラマ「セトウツミ」(17/テレビ東京)、「dele」(18/テレビ朝日)、「中学聖日記」(18/TBS)、映画『3月のライオン 後編』(17/大友啓史監督)、『写真甲子園0.5秒の夏』(17/菅原浩志監督)、『ミスミソウ』(18/内藤瑛亮監督)、『見えない日撃者』(19/森淳―監督)、Base Ball Bear「Flame」MVなど。2020年は、映画『もみの家』(坂本欣弘監督)、『君が世界のはじまり』(ふくだももこ監督)が公開となった。2021年は『あの頃。』(今泉力哉監督)のほか、連続ドラマ「アノニマス」(テレビ東京)「ここは今から倫理です。」(NHK)への出演を果たす。