第三十一回特別インタビュー 平山祐介(俳優・モデル)

数々の映画やドラマで存在感を残す名バイプレイヤー、平山祐介。最近では『鎌倉殿の13人』(NHK)や『パンドラの果実』(日本テレビ)に出演、映画『キングダム2 遥かなる大地へ』の公開も控える彼の現在地とは?

試行錯誤を重ねて生まれるキャラクター

――平山さんといえば、最近は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で演じた藤原国衡役が印象的でした。

平山 そうですか? ありがとうございます。国衡は長男ですが、父・秀衡は弟・泰衡に家督を譲ってしまうんですよね。そのときの葛藤が見せ場だと思っていました。父への不満、弟への嫉妬……。それがいずれ奥州藤原氏の滅亡につながっていくわけですが。国衡は武術に長けて人望のある武将だったようですけど、好かれる人物をそのままやっていたのでは、弟とケンカにならない。ひねくれた、ちょっと小さい人間だなと思われるくらいの見え方がいいなと思って、監督とも相談しながら役を作っていきました。残念ながらそのカットは採用されませんでしたけど、最初の登場からして当主である父親の話をそっぽ向いて聞いていたりね。

――そういう、ちょっとした仕草で見せる。

平山 彼のバックボーンやキャラクターを常に頭に置いて、どう振る舞うかを考えて作っていきましたね。父が亡くなり、弟と廊下ですれ違って「戦になるぞ」というシーンについては監督とかなり対話を重ねて。リハーサルまではそれこそ「俺の思い通りになったぞ」という気持ちをひけらかすような、嫌なヤツで演じていたんです。でもそれだとちょっとやりすぎかなと「もう少し流れを受け入れる感じではどうでしょう?」と提案して、放送された静かめな演技にしたんですけど。

――キャラクターを前面に出すだけではなく、引くのも大事なんですね。

平山 そうですね。出演シーンが短いだけに、インパクトを残してどういう人なのかを見せるのは大事だなと思いつつ、最後にそこですっと引くことで、ちょっと運命に翻弄される国衡の悲しさも出たらいいなと。

――平山さんといえば本当にたくさんのドラマに出演されていて、視聴者としては「平山さんがいたら安心」と思うこともありますが、それだけ経験を重ねてもいまだ試行錯誤をされているんですね。

平山 もちろん試行錯誤は毎回ですし、自分自身それほどみなさんの認知度が高いとは思っていないので、毎作品、賭けのような気持ちで。少ない出演シーンであってもその中でなにか爪痕を残そうと思って必死でやっています。

――平山さんは20代で会社員をやめてフランスに渡り、以来今に至るまで25年以上もの間、モデルとしても活躍されています。モデルに関しては自信をもってやれるものですか?

平山 現場に臨むときの気持ちは、モデルであれ俳優であれ大差はないですね。撮影が終わったあと「あれでよかったのかな」と悩むことがあるのも同じ。ただ、モデルという世界の中では、これまでやってきたことは認識していただいているし、多少居場所はあるのかなと思ってはいます。だからこそ、「俳優やってるからモデルは片手間なのかな」とか「モデルとして古いよね」とか言われないように、毎回期待される以上の仕事をしなくてはと思ってはいますが。

人の見ていないところでどれだけ積み上げるか

――平山さんは読書、バイク、乗馬、筋トレと趣味が多岐にわたっている印象がありますが……。

平山 知らないこと、やったことないことに興味があって。ただ、よく勘違いされますけど、トレーニングは好きでやっているわけじゃないんですよ。役で求められるものがあれば作らなくては、と泣く泣くやっているだけで、できることならやりたくない(笑)。

――筋トレブームで前向きにトレーニングをやられている方が多いなかで、安心する意見です(笑)。

平山 僕はずっと空手をやってきたので、身体を動かすなら本来は武道やスポーツのほうが性に合ってるんですよ。筋トレは退屈で……。でも映画『キングダム2 遥かなる大地へ』に出ることになって、初めてパーソナルトレーナーの方とマンツーマンで取り組み始めたら、面白さとまではいきませんが筋トレの奥深さは感じるようになりましたね。腕が出ている役ですから腕を太くしたいんですが、そのためにはただ腕のトレーニングをするだけではだめで、全体のバランスも大事。トレーニングひとつとっても姿勢や頻度も重要ですし、栄養をどう摂るかも関わってきますし……。身体を作るってこんなにも難しいんだと。筋肉自慢のタレントさん、芸人さんがいかにストイックだったのかを知って、ちょっと尊敬しました。

――『キングダム』のような映画だと、たしかに身体をすごく作る必要がありそうですね。

平山 そう。しかも身体作りって最低限の準備でしかないんですよね。よく「役作りで何kg増やした」みたいなことが取り上げられがちですけど、それは芝居以前の問題で。その役をやるにあたって、ビジュアル的に追いついていなかったらどんな芝居をやっても観ている人は違和感を抱く。役というのはそういう準備をしたうえで、そこから作っていかなくてはいけないものですからね。

――たしかに。『キングダム』の撮影はいかがでしたか?

平山 撮影期間が1年くらいあって、2か月に1度くらいのペースで呼ばれるんですよ。その間、身体を保たなきゃいけなかった。これがもうきつくてきつくて。その身体で他の現場に行かなきゃいけないし、情報が公開されるまでは何も言えないし……。準備を含めると2年間はひたすらトレーニングをしていました。それでみんなからは「筋トレ好きなんですね」と言われ(笑)。

――俳優って、なんてたいへんな仕事なんでしょう。

平山 そうですよね。でもどんな仕事であれ、人が観ていないところでどれだけ積み上げるかが大事なんだと思います。

子育てに感じる読書との共通点

――では、筋トレは省くとして、多趣味の平山さんがいまもっともプライベートの時間を費やしているもの、熱中しているものはなんですか?

平山 子育てですかね。

――子育て!

平山  空手とかバイクとかがもちろん大好きなんですが、コロナ禍で道場が閉まったり遠出ができなかったりという中で、ちょうど子どもが生まれて。時期的にも外にあまり出られず、家と仕事の往復の中で、子どもとじっくり向き合うことになったんです。それがかなり面白いんですよ。趣味とは違いますが、子育てがいまいちばん仕事以外で自分の時間をかけていることですね。おむつを替えたり、お風呂に入れたり、保育園の送り迎えも、もうなんでもしますよ。

――本格的に子育てに参加されている。

平山 もちろんもっとやってる方もいるでしょうし、妻もまだ満足はしていないでしょうけど(笑)。子どもを見ていると、たとえば何かを見て「すごい!」と驚いているリアクションが新鮮で。もし僕が何かに心奪われるシーンを演じたとして、こんなに素直に「すごい!」と言えるかなと。

――子育てに俳優としての視点が。

平山 かと思えば、今月3歳になるんですが、彼はすでに駆け引きができるんですよ。お風呂に入りたくないときに「ゼリーをくれたら入る」とか言う(笑)。そういう人間くささが出てきていたりして。僕の発言を意味もわからず繰り返して言葉を覚えていくさまとか、ちょっとした一言とか、見ていて心打たれるし、面白いんですよ。あの、本を読むって知らない世界を知る、物語を追う面白さがあるじゃないですか。子育てには、それに近いところがあるなと思いますね。

活動を反対した父親への反骨心と尊敬

――以前のインタビューで、「40歳、50歳になったとき、ただモデルとして立ってるだけだったら父親のほうがかっこいい」と話されていたことがありますね。50歳を越えた今、ご自身についてどのように認識していますか?

平山 ありましたね。20代で会社をやめてモデルをやりたいと言ったとき、父親にはすごく反対されて。なかば勘当されたような状態で始めたんです。父は高校を出て、身一つで北海道から上京してきた人で。行く先々の会社で結果を出しては転職して、僕が生まれた頃には誰でも知っているような会社で役付きのポジションにいるような人だったんですね。人一倍苦労もしてきたから、「お前にはそれだけの覚悟があるのか」と言われまして。最初の頃は父親を見返すことだけがモチベーションでした。

――活動を反対したお父さんへの反骨心が原動力に。

平山 そう。そういう原動力があったからこそ、思い切った活動もできたのかなとけっこう早い段階で気づいて。改めて考えると父は尊敬できる人だなと。モデルという仕事は、生まれつきの容姿が重視されがちじゃないですか。けれど、それだけでやっている人よりも、父のように日々苦労を重ねて仕事してきた人間が着るスーツのほうがかっこいいなと思ったりもしました。なにか人生に軸を持っている人って、語らずとも立ち姿がすでに何かを雄弁に物語るんですよね。僕なんてまだまだ、仕事のたびに爪痕を残そうとしてあがいているばかりですけど、すっと立っているだけで完結できるような、そういう俳優になりたいなといまは思います。

悩む自分を支える「濡れたシャツ理論」

――これまでの道のりには山も谷もあったと思いますが、これまで出会ってきた人で、いちばん自分に影響を与えた人、心に残っている人はどなたですか?

平山 俳優としての僕の支えになっているのは、いま『パンドラの果実』でもお世話になっている羽住英一郎監督ですね。全然仕事がなかった頃に映画『逆境ナイン』でご一緒して、以降ことあるごとに作品に呼んでくださる方で。僕、30代後半まで本当に仕事がなくて、転職まで考えていた時期があるんですよ。その頃、羽住さんとご一緒した現場で飲む機会があって、そこで「監督もオッケーを出すときに考える、迷う」という話をしてくださったんですね。このシーンは違う表現のしかたもあるんじゃないか、自分の思ったものと俳優の表現が違うがこれでいいんだろうか、もう一度やるべきだろうかとすごく悩むと。でも「僕は120%の芝居を見たときにオッケーを出す。だから俺がオッケーと言ったら俳優はオッケーなんだ、その後どうするかは俺が考えることだ」と言ってくださって。

――心強い言葉ですね。

平山 はい。羽住監督には「濡れたシャツ理論」というのがあって。俺たちは糊のきいたパリッとしたシャツを着れると思うな、いつもじめっとした心地の悪いシャツを着て生きているんだと。エンターテイメントの世界で生きている限り、悩み続けて生きていかなきゃいけないんだと。それでだいぶ楽になったんですよ。僕は今でも「これでよかったのかな、他になかったかな」とか「なんでもっとこうしなかったんだろう」とぐずぐず考えちゃうけど、「そうか、監督でもこんなに悩むし、そうやって考えていていいんだ」と。これは今でも支えになっていますね。

――そんな支えになる言葉をくれた監督に呼ばれ続けているのは素敵ですね。

平山 昔ですが「お前がいつかハネるきっかけがあるとしたら、俺がその作品を撮っていたいな」と言ってくれたこともあって、それはすごく嬉しかったです。でもね、全然馴れ合えないですよ。婚姻届の保証人になっていただくほどの恩人ですけど、現場ではよそよそしいくらい(笑)。

――呼ばれるたびに成長を見せなくてはいけないという気持ちも……?

平山 それはありますね。監督も、作品ごとに常にチャレンジされている方だから。『パンドラの果実』でも、”最先端科学犯罪捜査”という、題材からして一筋縄ではいかないようなものにトライしていたり。しかもそれを「わかる人にだけわかればいい」ではなくて、エンターテイメントを重視されて、多くの人が楽しめるものを作るということを追求されていたり。その姿勢がすばらしいなと思います。

――監督と俳優とポジションは違っても、互いに切磋琢磨されているような。

平山 他にもいろんな人に助けられてますよ。俳優を始めてすぐくらいに、大森南朋さんとドラマ『Dr.コトー診療所』で共演して、よく飲んでたんです。それからしばらく会わないうちに、大森さんは誰もが知る俳優になっていた。俳優の中には、「大手事務所の後ろ盾がないと」と言う人もいるけど、そんなこと関係なく実力で世間に知られている人間が身近にいる。言い訳できないじゃないですか。それが今も強いモチベーションのひとつです。『Dr.コトー』のときには國村隼さんにも励まされて。現場でうまくいかなくて、なんでこんなにうまくできないんだろう、どうしたらいいんだろうと悩んでいる頃に、「モデルとして、世界の様々なものを見てきて、いま俳優を始めて。それらの経験から培ったものは、あなたしか持ってないものなんだから、そのままの自分を大事にしていいんじゃないかな」と言って頂きました。

イメージにないからこそ恋愛ドラマを

――最後に、今後の野望を教えてください。

平山 今年で52歳になるので、あまりにも夢物語を語っているようで恥ずかしいですけど、ハリウッドというのは変わらず念頭においています。ハリウッドだけでなく韓国や他の国々の作品にも非常に興味があるんです。モデルとして、ヨーロッパやアメリカで様々な国の人々と仕事を共にしたのが、非常に刺激的だったので。そのためには、日本でもうちょっと知名度を上げないと、と思って日々葛藤しています。

――モデルのときにも、ふと会社をやめてフランスに渡られている平山さんなので、ある日突然しでかしてくださる気もします。

平山 モデルをやるときも、今後の展望も、傍目からは突然に見えても、僕の中ではずっと考えていることではあるんでね。想定よりはだいぶ遅れているので、頑張らないと。そうそう、あとは恋愛ドラマをやってみたくて。ご一緒する監督さん皆さんに伝えて、失笑を買っていますけど(笑)。ふだんの僕からは想像されにくいジャンルだと思いますが、だからこそやってみたいですね。

■プロフィール

ひらやまゆうすけ
1970年、埼玉県生まれ。大学卒業後、一度は就職するが、モデルになるため退職。1995年、パリコレデビューを果たし、以降世界的なブランドのコレクションに多数出演。2001年、フランス映画『SAMOURAIS』で俳優デビュー。近年の出演作に『おかえりモネ』(NHK)、『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ)、『鎌倉殿の13人』(NHK)、映画『ミッドナイトスワン』など。映画『キングダム2 遥かなる大地へ』が2022年7月15日(金)公開予定。(https://kingdom-the-movie.jp