第三十三回特別インタビュー 早見あかり(女優)

ドラマや映画、舞台で鮮烈な印象を残す早見あかり。アイドルとして積み上げたキャリアをすっぱりと捨てて女優としての道を本格的に歩み、着実に作品を重ねていく姿。女優として生きながらもプライベートを犠牲にすることなく、自らの決めたことを選び取り続ける姿勢。そんな彼女のいまとは?

自分が変化して気づいた舞台の面白さ

――早見さんといえば、今年は『シン・ウルトラマン』の公開があり、9月には舞台『血の婚礼』の公演を控えているなど、忙しく活動されています。お子さんを出産されてからはライフスタイルの変化もあると思いますが、いま、仕事選びはどのようにされていますか?

早見 子どもが生まれたあと、復帰後ひとつめの演技のお仕事は、時間が決まっていてスケジュールが立てやすいということで舞台を選びました。でもいまはドラマ、映画、舞台と、演技のお仕事に関しては、やれるものは何でもやっていきたいという気持ちです。とにかくいまは、仕事が楽しいんですよ。

――いいですね。ほかのインタビューで、「以前は舞台の仕事が自分には合わないと思っていた」と話されていましたが、そこから変化が?

早見 まだ舞台を経験していないときに、何も知らずに思っていたんです。「毎日違うことができるからこの仕事をしているのに、同じ台本で同じ人達と同じ場所で、1か月もカンヅメだなんて信じられない!」と勝手に(笑)。初めて舞台に立ったとき、それは間違いだったとわかりました。これから舞台もやっていけそうだなとも思った。でも、その時点ではまだ深くは理解していなかったのかもしれないです。

――と言いますと?

早見 そこからしばらく舞台に縁がなかったんですが、ちょうど約1年前、『パ・ラパパンパン』で舞台に立ったときに、ご一緒した先輩から「毎日違うチャレンジができるのが舞台なんだよ」と教えていただいて。決められたことをやって100点満点を出し続けるよりも、そこから外れてやってみたら、一瞬20点や30点になっちゃって反省することもあるかもしれないけど、150点に到達する可能性だってあるんだよと。それまではできる限り稽古に忠実に、そこからはみ出さないようにやることがいいことだと思っていたんです。でもそうじゃないと気づいて、そこからはセリフの言い方を変えてみたり、これまでと違うところでブレスを入れたり、ちょっと低い声を出してみたりと試していきました。それがすごく面白かったんです。

――舞台にも日々変化する面白さがあるということを、本当の意味で知ったわけですね。

早見 はい。自分の年齢とか、周りの状況とかが変化したことで、自分の受けとめ方が変わったこともあったと思うんです。でもそうやって日々楽しめたのはうれしかったですね。

――そうやって舞台への向き合い方が変わったことは、映像のお仕事につながることもあるのかもしれませんね。

早見 そうですね。どの仕事もぜんぶつながっていて、無駄なことはたぶんひとつもないんだと思います。

――『パ・ラパパンパン』は出産からの復帰後初めてのお芝居でしたよね。

早見 はい。バラエティとかの短時間でできるお仕事は少しずつやらせてもらっていましたけど、お芝居の仕事はほんとうに久しぶりで。それもあって、よけいに「私はやっぱり仕事が好きで、お芝居が好きなんだな」というのを実感しました。

――お芝居をやっていて、どの瞬間がいちばん楽しいですか?

早見 いつだろう。ずっと楽しいです。というか、忘れっぽいタイプなんですよ。だから、たいへんなこともすぐ忘れてしまうから、楽しい気分だけ残っているというか……。たとえばセリフひとつとっても私は意外と覚えるのが早くて、セリフ覚えで困ったことはほぼないんですよ。ただ、忘れるのも早くて。映像のお芝居だったら、「このシーン、オッケーです!」となったらそのシーンのセリフが頭の中の「忘れていいところ」に入っちゃうんです。そういうときに、「ごめんなさい、今のシーンやっぱりやり直しで!」となったら、先ほどの「忘れていいところ」に入ったやつを取り出さないといけないからすごく大変なんです(笑)。

共演者の、人としてのもっと深い部分を知りたい

――最近では『シン・ウルトラマン』での汎用生物学者・船縁由美役の演技も印象的でした。

早見 私、ふだんから早口だと言われるんですが、あのときはさらに早口で(笑)。しかも聞いたこともない専門用語だらけで、たいへんでした。

――撮影はかなり前だったんですよね?

早見 映画ってだいたい撮影から公開まで時間が空くものですけど、『シン・ウルトラマン』はとくに撮影と公開が離れていて。撮影が2019年だったんです。

――それは、プロモーションのインタビューなどで思い出すのがたいへんそうですね!

早見 「これ、合ってるかな」と思いながら話してました(笑)。『シン・ウルトラマン』に関してはとくに、公開前に言ってはいけないことが多すぎて、それも大変でした。

――一方、演劇に関するインタビューはまだ何も始まってないものについて話さなくてはいけない大変さがありますよね。

早見 たしかに、どうなるかわからないこともたくさんあるから、「これで合っているのかな」と思いながら話していたりしますね。後から答え合わせができる感覚はあります。

――決まっていないこともたくさんあるかもしれませんが、9月に控えている舞台『血の婚礼』について教えてください。90年前に書かれた悲劇で、難しい部分もあるでしょうし、むき出しでぶつからなくてはならない作品になりそうですね。

早見 きっとすごく大変で、心身ともに削られて「うー、疲れたー」となりながら家に帰る自分がいまから想像できます(笑)。でも、それが逆に面白そうだなと思いました。簡単にできることをやっても面白くないじゃないですか。しかも、これがもし映像作品だったら考える時間や作り込む時間が少ない。けれど舞台だったら、ちょっと難しそうだとか、正直登場人物の心情が理解できないだとか、そういうことに時間をかけて向き合える。同じカンパニーの人たちと、ひとつの作品をどうよくするかという取り組みができる。そういう舞台のよさを味わえそうだなって思います。

――難解だからこそ、かえって時間をかけて取り組む甲斐があるわけですね。

早見 面白いだろうなと思います。いまはまだ台本上で文字としてしか見ていないけれど、これが人が発する言葉として出たときにどんな感じになるんだろうと。

――以前、この『血の婚礼』について少しだけ取材させていただいたときに、早見さんと共演の木村達成さん、須賀健太さんが初対面にも関わらず昔からの友達のように仲がよかったのに驚きました。共演の方とはご自分から距離を縮めるほうですか?

早見 わりと人懐っこい部分があるので、相手から壁を立てられない限りはわりとフランクに接すると思います。 それは「この役を演じるうえで共演者と仲良くなっておかなきゃ」というふうに頭で考えているのとは少し違うんですよ。それよりも、人と接するうえで、この人のもっと深い部分を知れたら楽しいなという興味のほうが強いのかもしれないです。敵対する役であろうとなんであろうと、ふつうに仲良くなりたいって思ってます。監督に「あまり仲良くしないで」と言われたらさすがにそれは守りますけど(笑)。

――役の関係性に関わらず、仕事を一緒にしている人と仲良くなりたいという素直な気持ち。

早見 私はそんなに役にのめり込む方ではないんです。血糊をつけながら笑って話せちゃうタイプ(笑)。だから、役と自分はべつに離れていてもいいと思っているので、今回の『血の婚礼』も、話の内容とは関係なく、楽しくできたらいいなと思っています。木村さん、須賀さんとも初対面でいい感じの空気感が出せたから、稽古がはじまったらもっと仲良くなれそうだなと思えて、いまから楽しみです。

「ちゃんとしすぎる自分」を脱ぎ捨てて

――仕事や子育てで日々忙しくされていると思いますが、ひとりの時間はどんなふうに過ごしていますか?

早見 最近はピラティスを中心に、自分の時間はメンテナンスに当てて楽しんでいます。ピラティス、かなりハマってるんですよ。

――ピラティスのよさはどういうところにありますか? もちろん身体を動かすとリフレッシュすると思いますが、気持ち的にも落ち着くものですか?

早見 私は「生きるのが楽になる」という言い方をしているんですけど、身体が内側から整うことによって、本当にすごく変わるんです。私はもともと、気圧の変化とか気温の変化の影響をダイレクトに受けてしまうタイプで、息が吸いにくくなってしまったりすることも多くて。でも、「息が深く吸えないな」というときにピラティスに行くと、帰りの道ではもうちゃんと呼吸ができる。背筋がすっと伸びて、身長まで伸びたんじゃないかと思うくらいの気分になれるんですよ。行くまではちょっとめんどくさいなと思っても、絶対に行くほうがいいとわかっているから続いている感じですね。

――余暇の楽しみというより、もう人生に必要なもの。

早見 そうですね。これに出会ってしまったからには、そのもう手放さない方がいい存在という感じです。

――では、お子さんとの時間はどんな感じですか?

早見 もう少しで2歳になるくらいなんですけど、最近、すごくしゃべるようになったんですよ。少し前までは、自分から言葉を発することがかなり少ない子だったんです。言葉は話さなくても言っていることは理解してくれて、会話はできていたんですけど。で、いつになったらふつうにしゃべりはじめるんだろうと思っていたんですよ。いざしゃべりはじめたらもうすごくて! 寝ている時以外ずーっとしゃべってます(笑)。うるさいけど、見ていてすごく面白いです。

――しゃべりたいんですね。かわいい。

早見 本当に面白いんですよ、うちの子。ゴミが気になったり、扉が開いているのが気になったりするみたいで。子どもが入ってはいけない場所にチャイルドロックをつけたりするじゃないですか。うちの子は、それが外れているのを見つけると「はっ!」という顔をして、ダダダダッと駆け寄ってぜんぶ鍵をかけていくんです。私、家事をしているときは移動する必要があるので、ところどころチャイルドロックを開けっ放しにしているんですよね。でも気づいたら子どもが走ってきていちいち閉めていく(笑)。「ありがとう〜!」と言いながら、心のなかでは「めんどくさいからこのままでいいんだよ〜」と思ったりして。

――そういうちゃんとしたところは、早見さんにもあるんですか?

早見 前はありました。でも、どんどん適当になって、最近はもう扉は開けっ放し、電気はつけっぱなし。以前は私が夫に「開けっ放しだよ!」とか注意する役割だったんですけど、今は私が言われるほうです。

――それはいつ頃変化したんでしょう?

早見 結婚してからですかね。最初は私のほうがすごくちゃんとしていたけれど、いつのまにか夫に追い抜かされて……。追い抜かされたのか、私が下に降りていったのか(笑)。以前はすごく窮屈に生きていたんですよ。それが自分を締め付けていることがわかったから、しんどいことは手放そうと思って。そしたらどんどん堕落してしまって……。正直、家の中がたいへんなことになっているときもあります。でも、子育てだけはやっぱりキチッとしようとしてやりすぎてしまうところもあって。

――以前、Instagramに大量の離乳食をアップされていましたね。仕事の合間にあれだけの準備をするのはものすごく大変だと思いますが……。

早見 そうですね。お仕事のときはお義母さんに子どもをみてもらっているんですが、舞台をやっていたとき、週一回の稽古休みの日に1週間分の離乳食をぜんぶ作って、冷凍して。お義母さんに「お昼はこれを、夜はこれをあげてください」と託す生活をしていたので、それは大変でした。いまは何でも食べられるようになってきたので、だいぶ楽になりましたけど。

――そうやってきちんと準備して、仕事と子育てを両立させているんですね。

早見 子育てに関しては、もう少しだけ肩の力を抜いて、ゆるっとできたらいいなと思っている部分はあるんですけどね。だから、子どもが生まれる友だちには「私みたいにやりすぎちゃって疲れちゃったりよくわからなくなっちゃう人もいるから、無理しすぎなくてだいじょうぶだよ」と言うようにしています。Instagramを見ていると、みんなものすごくちゃんとしているように見えるんですよね。実際、私だってちゃんとできているところしかInstagramにアップしていないですから。

――そうやってお子さんを育てながら仕事をされるのはたいへんだと思いますが、早見さんは仕事があるほうが……

早見 (即答で)楽です。私はもともと人に会うことがストレス発散につながるタイプなんですよ。でも妊娠がわかってすぐにコロナ禍に突入して、本当に家から一歩も出なかった。買い物もネットスーパーか旦那さんにお願いするかで、ずっとひきこもって。出産して、しばらくして仕事復帰して、やっぱり自分は外で働くのがリフレッシュになるなと改めて感じました。いま、いちばん尊敬しているのは専業主婦のみなさんです! 自分がやってみてこんなに難しいのかと思いました。もちろん、そういう環境を整えてくれる家族にはすごく感謝しています。

――仕事があるほうが、かえって早見さんはバランスがとれる。

早見 もちろん、仕事がかんたんというわけではないですよ。でも大変さでいったら、正直、子育てに勝るものはないなと思います(笑)。

自分の人生の責任は自分でとるしかない

――かつてのアイドル時代は今とはまったく違いますよね? とくに早見さんが在籍されていた頃のももいろクローバーはだんだん人気を獲得していく段階で、とにかくたくさんライブをやったり、バンで全国を回ったりという、かなりハードな活動をされていたと思います。当時はどんな気持ちで臨んでいらしたんですか?

早見 強い意志を持ってやっていたかといわれるとそうとは言い切れなくて、もう「やらなきゃいけないからやる」という感覚でした。さっきも「ちゃんとしなきゃ」という意識が強かったという話をしましたが、私はほんとうに教科書どおりのA型という感じの性格だったんですよ。順序を踏んで、用意周到にいろいろなことをしないとなにもできないタイプ。でも、そんなことを言っている余裕はない、とにかく目の前のことをやらなきゃいけない状態だった。そこで自分の当たり前の概念を崩されました。それによっていまは、昔に比べてすべてが用意周到にしていなくても、ほどよくゆるく仕事ができる。あの時代がなければ、いまの私はいないです。

――そんなアイドルの仕事をきっぱりやめて女優の道を選ぶこともそうですし、結婚も出産も、早見さんは大きな選択を軽やかにされている印象がありますが……。

早見 わりともうぜんぶ済ませた感じはありますね(笑)。

――拝見していると、変化を恐れない感じを受けます。

早見 変化したいから変化する方を選んでるというわけじゃなくて、今の自分にとって何が必要かを考えたとき、欲しい方を選んでいるというだけで。普通なら「誰かに迷惑かけちゃうかも」と考えますよね。結婚もそうですし、妊娠や出産も、仕事に影響はどうしてもある。「じゃあ今じゃないかも」と考える方もいらっしゃると思いますけど、わたしは「いま、自分のベストがこれだからこれでいい」というタイプなんです。それでだめになったら他の仕事を探すか、という感覚ではありますね。もちろんいまの仕事が大好きだし、お休みして余計この仕事が好きだなと実感しましたし、だからこの仕事をずっと続けられたらこれ以上最高なことはないです。でも、この仕事をしたいからといって、プライベートの人生を諦めるという選択は、私のなかではない。23歳で結婚というのはたぶん一般的な女優さんのタイミングと比較したらめちゃくちゃ早いとは思います。でも、その時が自分のなかで正解だったから。

――きっとこれからも、早見さんは柔軟に変化していくのでしょうね。

早見 ね、私もそう思います。考え方が変われば、生き方も変わると思いますし。いまは楽しいからこの仕事をしているし、ずっと続けたいという気持ちに嘘はないんですよ。でも、極端な話をすれば、これ以上に面白いことが見つかったら、平気でやめてその道に飛び込む可能性も、ゼロではない。「ここまで来たのにもったいない!」と周りの人が言っても「それは関係ない」というタイプなので、自分がどう進んでいくのかは、私自身もわからない。

――早見さんは、積み重ねを……。

早見 平気でぶち壊していくタイプ(笑)。「もったいない」とかは、考えないです。

――周りの人は「もったいない」とすごく言うでしょうけれど。

早見 はい。それこそももクロを辞める時も、一番近くにいる母親でさえ「もったいない」と言っていました。でも、私にとっては「どこがもったいないの?」という。もちろん、その感覚が普通ではないこともわかってはいるんですが。

――でも、それは変えられない?

早見 はい。だって一度しかない人生なのに、もったいないという意見で諦めて、後から「誰々のせいでここに踏みとどまったからこうなった」とは思いたくないじゃないですか。自分の人生は自分で責任を取るしかない。だから、もし思ったとおりに動いてうまくいかなかったら、それはそれでしょうがないと思っています。

――その潔さが、見ていて気持ちいいなと思います。

早見 近くにいる人たちはすごく大変な思いをしていると思いますけど(笑)。

――最後に、今後の野望を教えてください。

早見 ずっと言っていますけど、自分が楽しいと思える生き方をしていたいです。「この仕事がしたい」ということはあまりなくて……。というか、あるにはあるんですけど、口に出して言わなくてもいいかな、と思っていて。

――言わずに叶えるタイプ。

早見 はい。だからそれは置いておいて、とにかく楽しく生きていたいです。仕事もプライベートも、自分が楽しいと思えるほうを選んでいく人生でありたいなと思っています。

(衣装)MARECHAL TERRE

■プロフィール

はやみ・あかり
1995年3月17日、東京都生まれ。2014年NHK連続テレビ小説『マッサン』に出演。同年、映画『百瀬、こっちを向いて。』で初主演を務める。主演作はほかに『ラーメン大好き小泉さん』(15〜19年)、『福家堂本舗-KYOTO LOVE STORY-』(16年)、『イジューは岐阜と』(18年)、『女の機嫌の直し方』(19年)、舞台『夢の劇 -ドリーム・プレイ- 』(16年)がある。
近年の出演作は舞台『パ・ラパパンパン』(21年)、映画「シン・ウルトラマン」(22年)など。
Instagram:akari_hayami_official
公式サイト:https://official.stardust.co.jp/akari/

最新作情報
『血の婚礼』
日程:2022年9月15日(木)~10月2日(日)
会場:Bunkamuraシアターコクーン
原作:フェデリコ・ガルシーア・ロルカ 翻訳:田尻陽一 演出:杉原邦生
出演:木村達成 須賀健太 早見あかり
   南沢奈央 吉見一豊 内田淳子 大西多摩恵 出口稚子 皆藤空良
   安蘭けい
<演奏>古川麦 HAMA 巌裕美子

<大阪公演>
日程:2022年10月15日(土)~16日(日)
会場:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
<公式HP> https://horipro-stage.jp/stage/chinokonrei2022/