第四十回特別インタビュー 三浦貴大(俳優)

世論や国家権力に立ち向かう弁護士から落ちぶれた俳優まで。保身を第一に考えるサラリーマンからライダーシリーズの怪人まで! 作品ごとにがらりと表情を変える三浦貴大。最近演じた役のこと、俳優としての姿勢について聞いた。

相手との関係性が出る演技を

――今回は三浦さんの俳優としてのスタンスについてぜひ掘り下げて伺えたらと。

三浦 よろしくおねがいします。掘っても何も出ないかもしれませんけど(笑)。

――とんでもないです、よろしくおねがいします。いちばん最近の作品でいうと、映画『Winny』を拝見しました。ファイル共有ソフト『Winny』の開発者である金子勇さんの逮捕という実際の事件を題材にした作品で、三浦さんは金子さんを守る弁護士・壇利光さんを演じていますね。やはり実際の事件、実在の人物を演じる難しさはありましたか?

三浦 実在の人物を演じるのは、たしかにすごく難しい部分ではありました。時代劇も実在の人物を演じることが多くあるものですけど、その対象はもういないじゃないですか。でも、『Winny』で演じる壇さんは、今もバリバリ現役で仕事をされている弁護士さんですから。ご本人もいらっしゃるし、壇さんのことを知っている方もたくさんいらっしゃいますし。だから最初は、どうやって壇さん自身に近づいていけるかをすごく考えました。また、単純に弁護士という職業で、法廷シーンがあることも非常に難しかったですね。ただ、いちばん大事なのは金子さんと壇さんの関係だと思ったんですよ。その関係性がちゃんと出ないとこの映画は成り立たないかと思って、そこはかなり意識して演じました。

――ドラマティックな会話が交わされるわけではないけれど、しみじみとお互いに対する信頼が伝わってきました。

三浦 そうですね。そこはやっぱり実在の人物が交わした実際の会話ですから。この作品の強みだと思います。

――実際に壇さんご自身の感想は聞かれましたか?

三浦 壇さんは「映画面白かった」という話もしてくださいましたし、あと、壇さんご自身のTwitterに細かい感想とか、補足説明とかをしてくださっていて。

――映画の副読本的に楽しめそうですね。

三浦 僕はめちゃくちゃありがたいなと思っていますが、宣伝部はどんなことをつぶやかれるのかとソワソワしていますよ(笑)。

――最近ですと、他には『エルピス-希望、あるいは災い-』で演じていらっしゃった滝川雄大役が印象的でした。「あの三浦さんがすごかった」という話を友人と二度しました。

三浦 二回も。ありがとうございます(笑)。

――あのふてぶてしさと弱さが印象的で。本当にいそうな人という感じが強くありました。

三浦 そうですね。滝川というキャラクターは世間の大多数なんじゃないかと思います。正義のヒーローって、ほとんどいないから輝くわけじゃないですか。『エルピス』というドラマで長澤まさみさんが演じた浅川のように戦える人はほんとうに少数だから、こうして世間が変わらない。そんな中で、僕が演じたキャラクターは世の中の大半に当てはまる。自分ももちろんその大半側なので、自分に近いものを感じながら演じていました。自分が持っている要素がすごく多かったから、演じやすかったんですよ。

――『エルピス』はドラマ自体がとても面白くて、毎回突きつけられるものがありました。その中で、滝川という人は情けなく見えてしまうけれど、やっぱり自分も同じ立場に立ったら彼のような振る舞いしかできないだろうなと思わされました。

三浦 滝川の悪いところは、「本当はこちらの報道をやりたいんだけど、まあ組織がそう言ってるからしょうがない」と折れるんじゃなくて、悩むことすらなく「まあ組織が言ってるしね」とすごく軽く受けちゃってるその姿勢ですよね。そこでさらに「こっそり自分も金を儲けられそうだな」と考えてるところは、ちょっとふつうの人よりクズっぽい感じがありましたね。

――そうですね。昨年は、『仮面ライダーBLACK SUN』での怪人ビルゲニア役も注目を集めましたね。最近ではいちばんインパクトのあった役柄ではないかと。

三浦 たしかに。

――こうして振り返っていただくと、役の振り幅がとんでもないですね(笑)。

三浦 本当に(笑)。

気づかれないことがいちばんうれしい

――役づくりはどういうところから始められますか?

三浦 やっぱり基本的には人間性が大事だと思うんです。たとえば『Winny』ならば弁護士をやるから法律用語とか、法廷でどういう動きをしているのかも調べておかなくてはならない。でも、ドラマとか映画って人間性を描いているのであって、職業自体を描いているわけじゃないから、そういう知識よりも人となりを考えてつくっていくというところに重心を置いてやっているような気がします。何をしていいかわからないときは、体型からつくったりもしますけど(笑)。

――見た目も大事ですよね。ビルゲニアをやるにあたって体力づくりをされたりは?

三浦 あのときは、体力づくりはもう間に合わなかったです(笑)。ただアクションがあったので、自分で受け身なんかの確認はしましたけど。

――かと思えばつい先日の『リエゾン-こどものこころ診療所-』ではいいお父さんとして登場されていました。そのときにSNSで三浦さんのお名前を検索してみたら、「三浦さんと気づかなかった」というフレーズがいくつもありました。

三浦 うれしいですね。それが本当にいちばんありがたい言葉です。

――気づかれないほうが?

三浦 僕だと気づかないってことは、本当に役として見て楽しんでくれているということなので、それがいちばんうれしいんですよ。「三浦が出ているから見よう」ということじゃなくて、「作品を見たらたまたま三浦がいた」「三浦だったことに後から気づいた」というかたちで触れていただけるのがいちばんですね、僕は。

――俳優を志すからには、やはり主役をめざしたり、「三浦さんだから見に行く」という役者をめざすのではないかと思うのですが、そんなこともないですか?

三浦 いや、一切思ったことがないです。役者をやっていくなかで「やっぱり主演をやったほうが面白みがある部分もあるし、名前を知っていてくれる人が増えれば見てくれる人も増えるだろうな」と考えるようになった面はあります。

――では、三浦さんは俳優を目指した最初の段階から、さまざまな作品に参加して、その役割をまっとうすることのほうを重視されていたわけですね。

三浦 そうですね。どうせだったらいろいろやりたいなというのがまずありました。それと、昔からドラマや映画を見ていて、ちょっと気になることがあって。「この人、バラエティ番組でこんなこと言ってたな」とか、「歌も歌っていたよな。この人歌手だもんな」とかふとよぎってしまうんですよ。そうすると、そのドラマや映画に入り込んでいたところから一瞬ちょっと抜けてしまう感じがあって。そうやって認知されているからこそ見る人が増えるという点では悪いことばかりじゃないとは思うんですけど、ただ、自分がやるうえではそういうものがないほうがいいなと思っていたんです。なるべく役者の仕事だけというのもそうですし、いろんな役柄をやって印象を分散させたほうが、固定のイメージもつきづらいからそうしたいなと思っていたところはあります。

“市場調査”で意見を受け止める

――作品選びの基準は?

三浦 スケジュールが合えばだいたいやりますかね。逆にどういう時にやらないんだろう……(考える)。

――そうやって記憶にないということは、そこまで断ることがないということですね。

三浦 そうですね。

――たとえばですが、ミュージカルなんかは……?

三浦 いや、ちょうどこの前、山崎育三郎くんといっしょだったんですよ。同じ歳なんですけど、「三浦くん、ミュージカルやらないの?」と聞かれて「いやー、ちょっと厳しいかもしれないですねー」と答えたところです。「いや、出てほしいんだよね」「そうですねー……」と(笑)。見るのはいいんですけどね。本当にすごいなと思うんですが、自分が出るとなると今のところは……。

――山崎さんの熱烈な勧誘が(笑)。俳優の仕事以外のことも少し聞かせてください。三浦さんは「タカミウラ」のお名前でゲーム配信をされていますよね。

三浦 はい。元々ゲーム好きだったこともあって、コロナ禍で外出できない人のひまつぶしにでもなればと思って始めました。

――では仕事とか義務という感覚ではなく、なさっている?

三浦 そうですね。自分でもゲームをしようかなと思ったら配信もいっしょにしちゃおう、という感じで。ただ、やっぱり画面に映っていることもありますし、名前を変えてやってもいますから、一回スイッチを入れる感覚はありますね。

――「タカミウラ」という配信者の役柄になるという感覚でしょうか。

三浦 それよりは素ですけど、まあまあテンション高めにやっていて、ふつうの会話の中でバンバン嘘を言ってるんですね。ぜんぜん自分の情報じゃないことを言っていて。だから「ぜんぶフィクションです」と一応書いてあるんです。でもたまーに配信での発言を記事にしてもらうこともあって、「嘘なんだよなあ」と申し訳なく思っちゃったりします。

――注意書きがスルーされて記事になるわけですね。そういったネットニュースや、SNSでの反応は気にされるほうですか?

三浦 エゴサーチはしますね。この仕事をしているかぎりは自分が商品なので、市場調査しないとという気持ちもありますし。

――なるほど。

三浦 SNSに書かれることに対しては弱い人もいると思うので、そういう人は見ないほうがいいと思うんですよ。ただ僕はめっちゃ強いので、べつになにか変なことを言われても「なるほど、こういう意見の人もいるんだね」「あ、この人はきたない言葉を使って! だめだよ!」みたいな感じで(笑)。

――強いですね。では、悪意に影響されることなく、シンプルに反応を見る。

三浦 そうですね。反応は「なるほど、こういうふうに思う人もいるんだな」「こういう意見も大事だな」と受け止める、そういうひとつの指標です。そんなに自分を一気に変えようとは思わないですし、そんなに器用でもないので。あと、ほめられるとめっちゃうれしい。それを見に行っています。

枠の中で最良のものを探しつづける

――俳優の仕事もだいぶ年月を重ねてこられたと思いますが、仕事に対する意識が変化したりということはありましたか?

三浦 うーん、変化というか、俳優を一生やっていく仕事だとは思ったことはないですね。

――いまも?

三浦 もちろん、受けた仕事は真剣にひとつひとつやりますけど、終わったらいつやめてもおかしくないというか。これはどの仕事でもそうだと思うんです。自分がした決意を反故にしてしまった、裏切ってしまったとしたら、ダメージを受けてしまうと思うんです。だから、「この仕事を一生やっていく」という決意がもし翻ったとしたら、そのダメージは計り知れない。「ずっとやると言ったのにあれやめちゃったな」という後悔が残ったらいやじゃないですか。しかも、今後の人生のなかでもっとやりたいことができる可能性がありますよね。そこで「一生やるって決めたし」とそのやりたいことに飛び込む足かせになるのももったいない。だから、どんなことにせよ「一生やる」という決意はしない。ひとつひとつの仕事に向き合えていれば、その決意自体あまり必要ないのかなと思います。いまは俳優の仕事がとても楽しいですけど。

――いちばん楽しいのはどんなところですか?

三浦 役者って、ミュージシャンの方とかと違って、0から1を作り出すわけじゃないんですよね。音楽とか歌詞とかを作って、ステージングも自分でしてという人じゃない。物語がある。演出する人もいる。セリフという形で発する言葉が決まっていて、さらには「大まかにはこういう言い方をしてくださいね」ということまでもある。その、非常に限られた枠のなかで、その場でいちばんいいものを探すという作業がきっと面白いんだと思います。

――枠の中で。

三浦 そう、どれだけ枠があろうが、やっぱりすごい俳優さんがやると抜群に面白いわけじゃないですか。セリフも演出も同じでも、ふつうの人がやるのとは全然変わってくる。だから制限がある中でもよりよいものというのが確実にあるんですよね。学生の頃からそこが面白いなと思っていて。学生って、先生もいるし、校則もあるし、縛りがいろいろある状況じゃないですか。その中で、縛りを破らずに自由に面白くするのが楽しいと思っていました。校則を破ったら怒られるし、キリがなくなっちゃう。その枠を楽しんでいたのが今も続いているのかもしれません。

――そんな昔からの感覚が。面白いです! 最後に、今後の野望を教えてください。

三浦 野望があるようなタイプではないんですけど。昔、あるドラマ(『運命の人』)で沖縄のガラス職人の役をやったんです。工房の本当の職人さんたちもエキストラとして出てくれる撮影で。1週間くらい現地で練習をさせてもらって、撮影日の朝に工房の人たちと一緒に並んで待っていたら、助監督の方が「なんでまだ三浦さん呼んでないんだ!」と。そのとき、「実際の人に紛れることができるのは、これは理想だな」と思いました。以来、けっこうそのことを意識しています。だからやっぱり、三浦貴大であることがバレないような役者になっていきたいですね。

■プロフィール

三浦貴大(みうら・たかひろ)
1985年11月10日生まれ。東京都出身。
2010年、デビュー作である「RAILWAYS 49歳で運転士になった男の物語」で、第34回日本アカデミー賞新人俳優賞、第35回報知映画賞新人賞を受賞。近年の主な出演作に映画「栞」「ダンスウィズミー」「ゴーストマスター」「初恋」「大綱引の恋」「流浪の月」「キングダム2 遥かなる大地へ」「もっと超越した所へ。」や大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」、連続テレビ小説「エール」、ドラマ「さまよう刃」「エルピス-希望、あるいは災い-」などがあり、最新作「Winny」が公開中。
三浦友和と山口百恵の息子で、ミュージシャン・俳優の三浦祐太朗を兄に持つ。

<最新作情報>
タイトル:『Winny』
監督・脚本:松本優作
出演:東出昌大 三浦貴大
皆川猿時 和田正人 木竜麻生 池田大
金子大地 阿部進之介 渋川清彦 田村泰二郎
渡辺いっけい / 吉田羊 吹越満
吉岡秀隆

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