第1回スペシャル対談 ドミネク・オベイン(映画監督)×じろう(お笑い芸人)

第1回スペシャル対談 ドミネク・オベイン(映画監督)×じろう(お笑い芸人)

 記念すべき『対談』第一回目のお相手は、私が以前から会ってみたいと方々で宣言していた、アメリカのインディペンデント映画コミュニティ(ICC)の創設者で数々の話題作、いや、話題になることを目的に作られたただの駄作だ、とも揶揄される作品を世に送り出し続けている、ドミネク・オベイン監督。都内某所で約1時間みっちりお話させてもらいました。

インタビュー じろう
撮影 じろう

〈2人、握手をしている写真〉

作品のヒントは日常にいくらでも転がっている

じろう はじめまして。
ドミネク はじめまして。
じろう 日本にはよく来られるのですか?
ドミネク 初めてなんだ。
じろう そうでしたか。どうですか?印象は?
ドミネク 平和だね。駅前で鳥に餌をあげてる老人がおばさんとケンカをしててね。
警官が4人も出動してたんだ。アメリカでは見ない光景だったから新鮮だったよ。
日本では鳥に餌をあげちゃダメなのかい?
じろう 集まってきちゃうんでね。それを良くないと思ってる人は多いと思います
ドミネク 老人が毎日餌を与えて可愛がっている鳩。その日も餌をあげてたんだ。老人はなんとかなんとか自分の手のひらに鳩を乗せて餌を食べさせてみたい。でも野鳥だから懐くはずもないんだ。
じろう はい。
ドミネク でもある日、老人がいつものように手のひらに餌を乗せて、それを撒こうとすると、
鳩が手のひらに乗ってきたんだ!何をやってもうまくいかなかった老人。生きることの目的さえも見失っていた彼が、実に20年、いや30年振りに自分の目的を叶えることができたんだ
じろう はい。
ドミネク 次の瞬間・・BANG!!!!!
じろう わぁ!!!びっくりした〜(笑)
ドミネク ハハハ!びっくりしたかい?銃声がするんだ。老人の耳にはキーンという音だけが残っている。何が起きたんだ!?咄嗟に身を屈めた老人が周りを見ると、ウエスタンハットにエプロン姿のおばさんがこう銃を構えて立っているんだ!おばさんは銃口をふっと吹いて一言。大切そうにすればするほど撃ちたくなるものだよね!!!!
じろう はい。
ドミネク 老人がふっと鳩の方に目をやると鳩の首から上がなくなってるんだ!そのあとその鳩はどうなると思う?
じろう どうなるんですか?
ドミネク 顔のないまま飛んで行くんだよ!!!

〈ドミネクの手から鳩が飛び立って行くような写真〉

じろう すごいですね。駅前で見かけた光景でそこまで思い付くんですか?
ドミネク ああ。毎日そんなことばっかり考えてるんだ。作品のヒントは日常にいくらでも転がっているからね
じろう すいません、あなたのあまりのエネルギーにただただ圧倒されてしまって
ドミネク いいんだいいんだ。アメリカ中に張り紙があるからね。俺と危険物の取り扱いには充分注意しろ、って。
じろう ははは。じゃあなたと話す時は、特別な取り扱い免許を取っておかないといけないですね。
ドミネク ああ。その資格を取れる学校を見つけたら、俺にも教えてくれよ。
じろう ははは。
ドミネク ハハハ。
じろう 映画のお話を聞いてもいいですか?
ドミネク ああ。もちろん。その話をしに来たんだから

俺はカミンスキーの作品の影響を受けてる

じろう 『8月4日のランウェイ』がもう大好きで、何度も見させてもらってます!
ドミネク ありがとう。あれは俺も大好きな作品だ。
じろう あの作品を見たときに、あぁこの時代にもヘスキンス・カミンスキーのような作品を撮る監督が現れたんだな、って思ったんです。
ドミネク ありがとう。嬉しいよ。俺もカミンスキーの作品は大好きで全部見てるんだ。だから隠すことなく言うことにしてる。俺はカミンスキーの作品の影響を受けてる、って。でも彼は結局 評価されずに一人で死んでいったろ?その影響までは受けないように、とは思ってるよ(笑)
じろう 今では主流となってるあの撮り方あるじゃないですか、えーっと・・・なんでしたっけ。イミ・・イミ・・(言葉がでてこない)
ドミネク イミディックオーサンス。
じろう そう!イミディックオーサンス。あれも僕の見解では彼が始まりだと思ってるんですけどね。
ドミネク まさにその通りなんだ!カミンスキーこそがイミディックオーサンスの始まり。世間では1982年の『OH!MYPONY!(監督ホーミー・レイン)』だとされているだろ?
じろう そうですそうです。
ドミネク ホーミーは確かに面白い作品も沢山撮ってるし俺が好きな作品も多いんだ。でも彼を尊敬できないのは、彼がカミンスキーの影響を受けている、って認めないところなんだよね
じろう なるほど。それに比べるとドミネクさんは潔いですね。
ドミネク 潔いだなんてとんでもないよ。俺たちが今こうして世の中に生きてるってことは必ず誰かしらの影響を受けてるってことだからね。先人達には常に感謝の意を持ってる。
じろう あんなめちゃくちゃな映画ばっかり撮ってるのに実際の監督はかなり謙虚なんですね。
ドミネク そう思うだろ?でも今パンツを履いてないんだ! 
じろう ははは。まだ取り扱い免許を持ってないので、その話題はこの辺で。
ドミネク ハハハ。さすがだね。じろうはコメディアンなんだって?
じろう ええ。僕の作品にもカミンスキーの影響を受けてるものが沢山あります
ドミネク ファンタスティックだね。
じろう もちろん監督の作品の影響も受けてますよ。
ドミネク 俺の!?
じろう ええ。コントの中で、78歳の老人に旗を持たせて山を登らせる、っていうのがあるんです。
ドミネク あ〜いいね。情景が目に浮かぶよ。老人の祖国はどこなんだい?
じろう アイルランドです。
ドミネク イメージ通りだ(笑)で?
じろう その山頂で老人は同じ旗を持った若者と出会うんです。
ドミネク いいね。それで?
じろう その若者は実は若い頃の老人そのものなんです。
ドミネク うんうんいいね。
じろう で、その若者が老人に向かって言うんです。
ドミネク おいおいまさか・・
ドミネク・じろう 「ここに来れば、あったかいスープがもらえるって!
ドミネク 嘘だろ(笑)最高だよ、じろう。

〈2人、椅子から立ち上がりハグをしている写真〉

じろう あなたの『High!Oldman!High!(邦題:老人よ!高みへ!)』からそのまま使わせてもらいました。
ドミネク 使用料をもらわないとね。
じろう えーーー!
ドミネク 冗談だよ(笑)で、そのコントはうけたのかい?
じろう 大爆笑でした。こんなにもウケるかってくらい。
ドミネク やっぱり使用料を頂こうかな?
じろう 勘弁して下さい(笑)
ドミネク こんな小さな国にも俺の作品のことを愛してくれてる人がいてくれて嬉しいよ。
じろう あなたが知らないだけで、日本にも沢山ファンがいると思いますよ。次回作のお話をお伺いしてもいいですか?
ドミネク もちろん。

主演はベン・バンベン

じろう タイトルは『Dying bird』あなたの作品にはよく鳥が出てきますよね?
ドミネク ああ。鳥はなぜ飛べるのか。なんの為に飛んでいるのか。子供の頃そのことばっかり考えてたんだ。それが俺の原点なのかもしれない。
じろう なるほど。まず主演にびっくりしました。
ドミネク そうだろ。もう10年以上ラブコールを送ってたからね。
じろう あの、ベン・バンベンがドミネクの作品に出る日が来るなんて思いもしませんでした。
ドミネク 俺もバンベンがオッケーしてくれたって聞いて真っ先に電話したんだ。で、開口一番こう言ったよ。おいベン、正気か?って(笑)
じろう いや〜、ほんと驚きました。ベン・バンベンって学生時代に自分で作った飛行機でアメリカからアラスカまで飛んで捕まったことがあるって聞いたことあるんですけど、あれって本当なんですか?
ドミネク それは俺も初耳だよ!でもバンベンならやりかねないね。
じろう ですよね。本当であってほしいです。
ドミネク 次の撮影のとき聞いてみるよ。
じろう お願いします。内容についてお話してもらえますか?

a bird・・・その答えとは

ドミネク 舞台は1960年代のミネソタ州。両親も既に他界して、妻と子供にも逃げられたしがないバスドライバーが事件に巻き込まれるんだ。
じろう その頃のミネソタって確か鉄鋼業が盛んになって数多くの肉体労働者が簡易宿泊施設に住み込みで働いていた、と記憶しています。
ドミネク ああ、そうなんだ。白人も黒人も、人種を問わずかなりの人数が働いていたらしい。労働環境も相当苛烈だったらしいよ。
じろう やっぱりそうなんですね。
ドミネク ああ。それで街のバスドライバーも労働者を作業現場まで送迎するバスの運転を任されるようになるんだ。
じろう そのドライバーが、ベン?
ドミネク そう、バンベン。ある日彼がいつものように運転していると、妙に人がいないんだ。ほら、バスって毎日決まった人が乗って来るだろう?
じろう はい。
ドミネク 覚える気なんてさらさらないのに乗客ひとりひとりの顔を覚えてしまってるんだ。それはそれで辛いことだと思わないかい?
じろう はい。自分が興味のないものに自分の脳のキャパシティーの何パーセントかを埋められているって、なんでしょう。筆舌に尽くし難いですね。
ドミネク 本当にその通りなんだ。その人たちが一人もいない。
じろう もうワクワクしますね!
ドミネク だろ?まぁみんなたまたま仕事が休みだったり、病気をしたりで、今日はいないんだろうな、程度に考えてそのまま運転を続けるんだ。
じろう はい。
ドミネク 運転し続けてると、一羽の鳥がバスのフロントガラスにぶつかってくる。DAAANG!!!!!!
じろう わぁ!!!!
ドミネク バスを降りて鳥の死骸を確認しようとするけど見当たらないんだ。屈んでバスの下を覗き込んでみてもいない。
じろう ・・はい・・
ドミネク バスに戻ろうと顔をふっと上げると(ニヤリと笑い)フロントガラスに血で『Dying bird!』
じろう ・・・(ゴクリ)
ドミネク 今話せるのはここまでかな。
じろう めちゃくちゃ面白そうじゃないですか!
ドミネク 色々と挑戦しようと思ってることがあるんだけど、それはまだ内緒だ。
じろう え~少しだけでも教えてもらえませんか?
ドミネク じゃキーワードだけでいいかい?
じろう もちろんです!読者も喜びますよ。
ドミネク a bird・・・(いい発音で)
じろう ・・・。く〜!!!!今日はありがとうございました!
ドミネク こちらこそありがとう。またコントで俺の映画のフレーズ使ってくれよ。
じろう そうさせてもらいます。
ドミネク 使用料はどこに請求すればいいかな?
じろう も〜!!!
ドミネク ハハハハ!

対談後記
一見コロンビアが舞台のマフィアものの手下のような風貌の監督ですが(本人には絶対に言えません。笑)話してみると気さくで益々彼のファンになりました。ドミネク監督に興味を持った皆さん、監督の作品はもちろん、カミンスキー監督の『あの日のアルバの横顔に』を見てみて下さい。名作です。あ、ホーミー・レイン監督の『OH!MYPONY!』を先に見てから、「あの日のアルバの横顔に」を見て下さい。・・・なるほど、と思えますよ。ではまた次回、お楽しみに。(じろう)

今回の対談相手
ドミネク・オベイン
1971年スペイン領ハバム島出身。幼い頃に両親とアメリカに移住。鳥が多い環境で育つ。小さい頃に戦争で亡くなった叔父の形見の8ミリフィルムカメラで遊ぶうちに映画に興味を持つ。初めての作品は17歳の頃に自身が撮影、主演を務めた『Missing people』。この作品がミト・ヴェランメル監督の目に触れて役者として映画界にデビュー。38歳の頃にICCを立ち上げ、アルベリ・ミューズ、ミキット・ウィルキンスらが支持。今映画界で一番注目を集めるインディペンデント映画団体となる。妻は女優のホメイニ・ロニ。2男1女のパパでもある。

じろう

じろう

1978年青森県弘前市出身。2006年に長谷川忍とお笑いコンビ「シソンヌ」を結成。2014年のキングオブコント王者。2013年よりコントライブ『シソンヌライブ』を毎年開催するほか、近年は47都道府県ツアー『シソンヌライブ[モノクロ]』も行っている。広島ホームテレビ「ぶちぶちシソンヌ」やNHK「LIFE!」に出演中。また、バラエティ番組だけでなく日本テレビ「今日から俺は!!」「俺のスカート、どこ行った?」、NHK「いだてん」等、ドラマにも多数出演している。短編小説「サムガールズ あの子が故郷に帰るとき」や映画「美人が婚活してみたら」の脚本を手掛けるなど作家としての一面も持つ。