砂を噛む 第1回

砂を噛む 1

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某月某日、撮影が続いていたので1カ月ぶりに内装業の仕事へ。大船からモノレールに乗る。映画監督の守屋文雄さんが頭でやっている現場。引き渡しが近いので、仕上げの塗装やら左官をバタバタとやる。応援で大工のダイゴさんチームも合流。タイル屋さんのイチカワさんや設備屋さんのサカイさんとも一緒になる。久しぶりだったので気合いを入れて仕事をしていたのだが、3日目の作業で、鉄板を持ち上げた瞬間に腰をやってしまう。激痛で全く動けない。手持ちの痛み止めを5錠飲んで、早上がりさせてもらう。帰りの道中、便意を催すが駅のトイレでしゃがみこんで動けなくなるのが怖くて、気合いでうちまで我慢する。腰の痛みが取れるまでしばらく何もできない。痛みで脂汗を垂らしながら、ゼニの心配で頭が一杯になる。

某日、井上組『ドンテンタウン』衣装合わせの為、恵比寿へ。井上康平監督とは初めましてだったが、パキパキと賢明そうな監督さんだった。腰痛治らず。痛み止めを飲んでいるが、効いている気がしない。まっすぐ立てないので腰を屈めたままゆっくり動く。しんどい。特に電車での移動が辛い。帰りの電車内で急な揺れがきて、踏ん張った瞬間激痛が走り、うずくまってしまう。あまりの痛みにちょこっと失禁した。

某日、腰痛の為、一日中寝て過ごす。読んでなかった萩原健一著『ショーケン最終章』を読む。

某日、なかなか腰痛が治らない。カミサンの目が痛い。ずっと寝ていても仕方ないので、外置きの水槽の掃除をする。いつもなら20分で出来る事が2時間近くかかった。メダカ2匹と20匹くらいのミナミヌマエビがいる水槽。「エビを飼うといいぞー」と勧めてくれたのが俳優の川瀬陽太おじさん。最初は良さが理解できなかったが、世話をし始めたら愛着がわく。定期的にうちの前を流れる柳瀬川へ行ってエビを掬っては水槽に入れている。繁殖も始まり、益々はまってしまう。今では水槽の横にベンチを置いて、ミナミヌマエビを眺めながらタバコを吸うのが楽しみになってしまった。

某日、西武球場へライオンズ対イーグルス戦を俳優の米村亮太朗さんと脚本家の木村暉くんと観戦。木村くんは熱心なイーグルスファンで、所沢での観戦によく付き合ってくれる。現在シナリオを3本も抱えていて、忙しいらしい。自分が心配すると「マツウラさん、シナリオは僕じゃなくても書けますけど、楽天の応援は僕じゃなきゃできないんですよ!」と力強く言われる。でも、イーグルスは首位争いしているわけじゃねえんだけどなぁ。試合は乱打戦を制しライオンズの勝利。ライオンズは最近、調子が上がってきた。ホークスとのゲーム差が縮まり毎試合、本当に面白い。家に帰るとカミサンが「腰が痛いって仕事休んでるのに野球観に行くなんてバカじゃないの!」とキレている。こういう時は言い訳せずにヘラヘラ笑って誤魔化す。所詮、ライオンズへの思いを説明したところで理解されない。テレビで今日の試合のニュースを見たいが、そんな事をしていたら何を言われるかわかったもんじゃない。グッと堪えて、猫を抱え寝床へ着く。

某日、佐藤渉監督のCMの撮影。渉さんはアタクシみたいなポンコツを、広告の現場に呼んでくれる珍しい監督。ただ、渉さんの現場はキツイ。コロンビアの高山で氷点下の中、水風呂に入らされたり、15キロの雪を頭上から落とされたり。少し不安になりつつ現場に行くと、共演者で米村亮太朗さんがいた。ライオンズ以外で会うのが久しぶりなのでちょっと照れくさい。今回の撮影はキツイ事もせず終わる。渉さんの現場なのに、少し物足りない。

某日、どうしても生活費の算段がつかず、担当マネージャーの井上さんに相談。事務所から前借りをしたかったのだが、厳しいとの事。撮影が続いてしまい、建築仕事が出来ず、今月の収入が全く無かった。俳優業のギャラは基本的に撮影の翌々月の支払いとなるので、カネが入るまでにどうしても時間差ができるのだ。携帯代の支払いにも窮する状態だと話すと、井上さんが自腹でお金を貸してくれた。本当に助かった。井上さんも決して余裕があるわけではないだろう。心が痛むが、これでしばらくはしのげると思うと、正直ほっとした。

某日、ライオンズがとうとう今季初の単独首位に。まさか首位争いまで食い込むとは思ってもいなかった。名将辻監督。残り13試合。まだまだ縺れるだろうけど、信じている。

某日、西武球場でライオンズ対ホークス戦を観戦。メンツは俳優の米村亮太朗さんと水澤紳吾さん、実弟の伸也。ホークスとはゲーム差0.5の首位争い。前日ホークスに勝っているから今日も期待してしまう。球場は大入り。先発の十亀投手が頑張るが、中継ぎが打たれてしまった。自慢の山賊打線も千賀投手に抑えられてしまう。最終回に1点差まで詰め寄るが、反撃もそこまで。ホークスに首位を明け渡す。ホークスとの直接対決はもうないので、明日からは負けた方が優勝を逃すチキンゲーム。なんて面白い展開だ。ここまできたらライオンズの選手を信じて応援する事しかできない。ライオンズのリーグ2連覇を切に願う。

某日、S組のアクション物の撮影のため神戸へ。しばらく滞在なので、飼い猫の爪を切っておく。タロもジロもムッちゃんもシャーコも嫌がらずに切らせてくれるが、チョメだけは逃げ回る。猫にもそれぞれ性格がある。当たり前か。神戸への移動が飛行機だった。アタクシは飛行機が苦手だ。背筋がぞわっとなる感覚が嫌でしょうがない。お迎えに来てくれた演技事務さんに「帰りは新幹線じゃダメですかね?」と相談するが「飛行機の方が安いんですよ、、、」と申し訳なさそうに言われる。それじゃあしょうがねえよなぁ。現場は毎日ナイター撮影。マンションを借り切っての、大掛かりな撮影だった。現場では演出部に松井さんや塩田組を共にやった方がいたし、共演で村上虹郎くんが一緒だったので変に緊張せずに済んだ。休憩時は二ジローと話し込む。二ジローは年下の友達だが、カッコイイんだ。凄くクレバーに物事を考えていて、尊敬している。私事の相談にものってもらう。撮休日にミント神戸で『ワンス・アポン・アタイム・インハリウッド』。ブラピがLSDを食って、自分の指先を何度も振る芝居に大笑いし、デカプリオが台詞が入らない自分に苛立って、暴れる姿にグッときた。シネルーブル神戸で『タロウのバカ』と『無双の鉄拳』。やはりマ・ドンソクの主演作には映画的快楽が詰まりまくっていた。 撮影も順調に進み、アタクシが撃ち殺されるシーンを残して一度帰京。勿論、飛行機で。

某日、横浜のシネマノヴェチェントへ『岬の兄妹』の舞台挨拶へ行く。主演の和田光沙さんと片山慎三監督と3人で登壇。熱心な観客の方を交え2時間半も話をした。今までの登壇では勿論最長だし、言うならば岬の本編よりも長い。ノヴェチェントの親方である箕輪さんが本当に映画好きな方で、登壇後も鍋を囲んで映画話を続ける。こういう劇場さんや観客に作品は支えられてるんだなぁと嬉しくなる。所沢への終電ギリギリまで話し、辞す。最後に箕輪さん達と話していた「スピルバーグの最高傑作は何か?」の結論が出せなかったのが返す返す残念。

某日、再びS組で神戸へ。その日の夜の一番手でアタクシが死ぬシーンを撮り、出番終 了。S監督、とても丁寧に演出を付けてくれてありがたかったし、人柄に魅入られた。撮影は年内一杯続くそうなので大変だと思うが、面白い作品になって欲しい。最後にS監督から「打ち上げで飲みましょう」と言っていただく。名残惜しかったが、そんなアタクシの感傷など1ミリも関係なく現場は進むのだ。さっさとホテルに送られる。部屋でプロ野球の一球速報を確認。ライオンズ、大量点のリード。そしてホークスがイーグルスに負けている。このままライオンズが勝ち、ホークスが負けたら、ライオンズのリーグ優勝が決まる。シャワーも浴びず、着替えもせず、野球速報を念を込めて見続ける。ホークスがイーグルスに負けた!そしてライオンズ12対4でマリーンズに勝利!ライオンズ、パリーグ2連覇達成!その瞬間、ホテルの部屋で雄叫びをあげた。人間、嬉しいと本当に叫ぶもんだ。笑顔の辻監督の胴上げ映像を見て泣いてしまう。昨年の辻監督のスピーチでも涙したが、今回は嬉し涙だ。携帯にメール着信がバシバシ入る。友人、先輩からの優勝おめでとうメール。ただのファンなのに、辻監督に代わって一件づつ心を込めてお礼の返信をする。ビールかけの中継を眺め、一人ほくそ笑む。本当に嬉しい。そしてこれからCSと日本シリーズがある。うまくいけばあと2回も辻監督の胴上げが見られるのだ。ライオンズファンで本当によかった。ライオンズの選手、スタッフ、関係者の皆様、 そしてライオンズファンの同志、ありがとうございました。日本一になるぞ!

某日、台詞を入れる為、新秋津のフレッシュネスバーガーへ。ここは喫煙席が広くて大変よろしい。某巨匠アニメ監督もほぼ毎日来る。コーヒーを頼むとカードにスタンプを押してくれる。全部たまると一杯タダになるのだ。「コーヒー代が勿体無いから、家で覚えろ!」とカミサンに言われるが、家でやったらやったで「仕事を家に持ち込むな!」と怒られるのは目に見えている。家だとタバコを自由に吸えないし、集中出来ない。「そんな状況でクリエイティブな仕事なんかできねえんだ!」と怒鳴りつけてケツッペタを引っ叩いてやりたいが、勿論そんな事は出来ないのでせめて駄文に書いておく。

某日、朝からM組のお祓いへ。ホラー作品なので、出席者が多い。先輩俳優の荒川良々さんと奥野瑛太くんが一緒だったので、そのまま渋谷へ飲みに行く。まだ午前中だったが渋谷には24時間営業の名店「山家」があるのだ。良々さんの巧みな話芸で大笑いさせてもらった上、奢っていただく。大好きな先輩。アタクシも良々さんの様な大人になりたい。夕方、川瀬陽太さんと水澤紳吾さんと合流し、櫻井拓也くんのお通夜へ行く。何回経験しても、葬儀は苦手だ。あの場で知り合いに会っても、どんな顔して何を話せばいいかわからない。参列者に深々とお辞儀する櫻井くんのご両親の姿がまともに見れなかった。会場を辞して渋谷へ出て、川瀬さんと水澤さんと監督の守屋さんと飲む。櫻井くんとは堀禎一監督の『夏の娘たち』で共演し、その後も飲みの席で何度か一緒になった。本当に真面目な俳優だったと思う。ピンク映画出身の俳優部で、出自が重なる事もあり一方的にシンパシーを抱いていた。自主映画や商業映画へも進出し、ジャンルを横断して活躍する姿勢に頼もしさすら感じていた。結構飲んでいる最中、川瀬さんがポツリと「例えば、戦さがあってさ。カッコよく討ち死にするんじゃなくて、死体の下に潜り込んででも、生き延びて、やり続けなきゃいけねえんだよ。俺たちは。続ける事しかできねえんだから。」と言った。その言葉が心に刺さった。続ける事、だ。

某日、監督の渡辺謙作さんがご家族と遊びに来てくれた。謙作さんは『ソースの小瓶』と『エミアビの始まりと始まり』という映画で呼んでくれて、うちのカミサン含め公私共々お世話になっている。まだ駆け出しだった自分や俳優の宇野祥平さん、水澤紳吾さん、嶺豪一くんを可愛がってくれて散々飯を食わせてくれたり、飲みに連れて行ってくれたりした。今日は皆で昼飯を食い、裏の柳瀬川でエビを掬い、キャッチボールをし、たくさん遊んだ。謙作さんの倅が凄くいい球を放るんだ。将来、ライオンズの柱になる様に、ライオンズがいかに素晴らしい球団か吹き込んでおく。

某日、給料が振り込まれたので、井上さんに借りていたお金をお返しする。お陰様でなんとか一ヶ月間しのぐことができました。ありがとうございました。滞納していた市民税も払えたし、これで自転車のパンクも直せる。一ヶ月生き延びたご褒美に、600円で売っていた『飛べ!フェニックス』の DVDを購入する。

某日、憧れの作家、赤松利市さんと対談。17時から浅草の大衆居酒屋にて始まる。1時間くらいの予定だったが、盛り上がってしまい、店を後にしたのが終電ギリギリの23時過ぎ。赤松さんのお話が本当に面白く、ずっと聞いていたかった。途中合流した俳優の和田光沙さんと共に、赤松さんの最新作『犬』を頂戴する。図々しくもサインまでしていただく。人からサインをいただいたのは尊敬する俳優の小沢昭一さん以来で、10年ぶり。松浦家家宝とする。

某日、内装業の請求書を起こし、溜まっていた税金の納付等細々とした作業をこなす。『砂を噛む』原稿の直し作業。初めての作業のため勝手がわからない。しかし憧れのモノ書きっぽい作業で満更でもない。

某日、イマジカにて『岬の兄妹』DVDのオーディオコメンタリー収録。片山慎三監督と共演の和田光沙さんと3人で。久しぶりに本編を観て懐かしくなる。帰りがけにアップリンク吉祥寺で深田晃司監督『よこがお』、豊田利晃監督『狼煙が呼ぶ』を観る。『狼煙』は俳優の渋川清彦さん(キーくん)の歩き方だけで鳥肌が立った。キーくん、物凄く気合いが入っていたのがスクリーン越しに伝わった。血管が切れそうなほど固く握られた拳や、拳銃を出す時の目の切り方に魅入ってしまった。興奮して劇場を出て、すぐ本人に電話してしまう。

某日、K組『U』初号。K監督の初長編映画。監督のデビュー作に呼ばれるのは、本当に嬉しい。企画立ち上げから4年の歳月をかけ完成したそうで、監督の執念の賜物だと思う。現場では俳優の仁科貴さん、ふせえりさん、神戸浩さんと共演だった。神戸さんが『学校2』で「勃起したあ!」と叫ぶ名シーンがある。昔、お風呂に入るたびに弟とそのシーンの真似っこをしていた。そんな思い入れのある方と芝居ができて、幸せな現場だった。初号後にK監督、脚本の高田さん、撮影の池田さん熊谷さん、プロデューサーの松岡さんに挨拶して帰る。

某日、短編の撮影。俳優の岩谷健司さんと一緒になる。気心の知れた人とやる仕事は本当に楽しい。撮影後、岩谷さんと東中野へ。トモダチのアキちゃんを呼び出し、飲む。バカ話に花が咲く。岩谷さんや岡部たかしさんと仲良くなったのも、アキちゃんがきっかけだった。もう15年の付き合い。長えなあ。その後、ポレポレ坐で俳優の柳沢茂樹さんの一人芝居『ひとりで公演1』を観劇。久しぶりに芝居を観た。

某日、俳優の仁科貴さんから電話をいただく。K組の初号の話。水澤紳吾さんに電話し、よもやま話。古澤裕介さんにメール。ライオンズ話。喫茶店で赤松さんから戴いた『犬』を一気に読み終えてしまう。毎晩少しづつ読むのを楽しみにしていたのだが我慢できず、禁断症状に喘ぐシャブ中のごとくむさぼり読む。読んでいる間、りきんでずっと奥歯を噛み締めていたらしく頭が痛くなる。読後の余韻に浸ったまま、冷え切ったコーヒーを啜る。

某日、朝から飼い猫のタロが玄関におしっこをしてしまい、カミサンが発狂する。仕方がないので近所のホームセンターでプラベニを買い、猫が玄関に行けない様に柵を作る。ついでに壁にキッチンマットを打ち付け、爪とぎができる様にする。作業後、方言練習。九州の方言なので非常に難しい。どうも西の方言は耳慣れず、時間がかかる。

某日、仕事で代々木。その後、N組の衣装合わせだったので赤坂まで歩いて向かう。途中で喫煙所を見つけ一服していると、映画監督の長谷部さんと後川くんから声をかけられる。久しぶりだったので嬉しく、しばらく話し込む。衣装合わせもサクッと終わる。N組、楽しみで仕方ない。大工のヤマダさんから電話。現場のお誘いだったが、予定が合わず。申し訳なく思う。帰りに文藝別冊『萩原健一 傷だらけの天才』を買って読む。

某日、M組撮影。6:15渋谷集合。現場で俳優の荒川良々さん、夙川アトムさんとご一緒になる。赤堀雅秋さんの演出した舞台で共演して以来、良々さんには大変お世話になっている。今日は玄関から歩き出て、振り返る1シーンのみの出番。M監督とは初めての仕事だったが、昔から面識はあったし、何より彼が自主で撮った映画が好きだったので、仕事ができて嬉しい。更に演出部のチーフが松尾さん、カメラマンが四ノ宮さん、美術が小関さんと知り合いが多く、現場が楽しかった。帰りに演技事務の高屋さんに駅まで送っていただき、渋谷まで切符を買ってもらう。渋谷で俳優の山本浩司さん(班長さん)とお茶。班長さんが某組でセリフが言えず真っ青になったという話を聞いて、爆笑。夕方、班長さんと別れ西武球場へ。ライオンズ対ホークスのCSファイナル第1戦。ライオンズ仲間の米村亮太朗さん、水澤紳吾さんと合流し観戦。昨年はライオンズがCSでホークスに負け、日本シリーズを逃した。今年こそと、我ら3人も気合が入る。しかし、敗戦。今日のポイントは6回の栗山選手へのバント指示だったと思う。1点を取りにいく辻監督の姿勢は素晴らしいが、あそこで栗山選手が強行していれば、と悔いが残る。勝ち頭のニール投手で初戦に負けたのは本当に痛い。勝ちたかった。

某日、水槽の掃除。最近水槽内に無数の小さな巻貝が現れる。どこからやってきたのか不思議に思う。実家に行って、じいちゃんとBS放送でCSファイナル第2戦を観る。テレビ埼玉はなぜ中継をやらないのか?地元球団のCSくらい全試合中継していただきたい。じいちゃんはシーズン中、ほぼ毎試合ライオンズの中継を観ている。耳が遠いし体も弱ってるけど、ライオンズの試合を本当に楽しみにしている。ホークスとの首位争いの時は、テレビでライオンズ戦を観ながらスマホでホークス戦の1球速報を確認していた。でもたまにライオンズの選手を貶すので、一緒にみているとイラっとする瞬間がある。試合はライオンズ2連敗。今井投手が崩れるとは予想外だった。気合が入りすぎて固くなったのだろう。しかし打線も点を取って追い上げたし、明日からは勝てる。古本屋で難読タイトルに惹かれて買った薄田泣菫著『艸木虫魚』を読み始める。名前もタイトルも読めなかったのだが、すすきだきゅうきんの『そうもくちゅうぎょ』と読むらしい。

某日、ウィルス性胃腸炎で苦しむカミサンを置いて西武球場へ。CSファイナル第3戦を米村亮太朗さん、水澤紳吾さんと観戦。17時前に現地で集合し、新しく建てたグッズショップをうろつく。今日の観戦席は1塁側ビジターチームのブルペン前。試合前にブルペンで投げ込む千賀投手の球を見て、言葉を失う。ストレートが浮き上がっていた。しかも千賀投手がフォークの握りで投球動作に入っているのに、投げるとえぐいストレートという手品みたいな事をやっているのを水澤さんが発見した。水澤さんは「どこかのタイミングで握りを変えているのだ」と言っていたが、何度見ても、どこで握り変えているか全くわからなかった。ライオンズを全力で応援するが、千賀投手の前に打線は2安打。大量点を取られて、0封される。8回くらいで暗い顔して帰り始めるライオンズファンを見て、泣きそうになる。正直、一昨日の試合や昨日の試合は「あの時こうしていれば」のタラレバ話が出来た。でも今日は違った。明らかな、誰が見ても明らかな、力負け。呆然自失。帰りの電車内も無言。自分が応援しているから負けているんじゃないか?という被害妄想に入る。うちに帰ると、苦しんでいたカミサンから大量の苦言を頂戴するが、それも入ってこないくらいショックだった。

某日、巨大台風襲来。うちは柳瀬川の川っぺりの為、カミサンと倅を実家へ避難させる。飼い猫5匹を2階に移動させて、柳瀬川を観察する。普段は子供も遊べるちょろちょろ川なのだが、夕方から水量が急激に増え始めビビる。日が暮れると水量は護岸のツラまで水が来てしまう。浸水を覚悟する。20時、あっという間によもぎ橋が冠水。水が対岸方向へ流れ出す。日が変わる頃には水量が減り落ち着く。消防団の方や地元住民がよもぎ橋に集まっているのが見えた。各地で甚大な被害のニュースをみて心が痛む。CSファイナル第4戦は台風の為、中止。

某日、早朝に避難していたカミサンが帰ってくる。2人で冠水したよもぎ橋や淵の森をパトロールしに行く。周辺の冠水した家も、幸い床上までは来なかったとの事。淵の森に流れ着いた流木を片付ける。実家へ行き、弟の伸也と庭の倒木処理。親父の書店へ行き、台風の後片付けを手伝う。その後、実家でCS第4戦をテレビ観戦。8回まで見て、あまりにも辛くてうちに帰る。ライオンズ、1勝も出来ないまま4連敗でCS敗退。2年連続でリーグ戦は優勝したのに、日本シリーズを逃す。よくリーグ制覇したという気持ちの一方、日本シリーズへの未練も強く残る。色々考えすぎて頭痛。夜、ラグビーW杯の日本戦をテレビ鑑賞。久しぶりに応援したチームの勝利を見届ける。自分が応援したチームも勝てるんだと当たり前なことにほっとする。俳優の遠藤雄弥くんから電話。遠藤くんはジャングルで2ヶ月共にした戦友的同志。年下だが素晴らしい俳優。近況含め1時間くらい話す。ライオンズ仲間であり先輩の古澤裕介さんから「ライオンズ、来季こそ日本一だ」との励ましのメールを戴く。前向きな古澤さんのメールに胸を打たれる。

某日、M組撮影。本日は芝居で何度も叫び続ける。テストから本域で叫んでいると近隣から苦情が入る。朝からおっさんが何度も叫んでいたら、そりゃ迷惑だ。M組のメイクさんがとても丁寧な仕事をされる方だった。アタクシのハゲのケアをしてくれるのだが、毛量を増すフリカケみたいなやつではなく、スタンプ的なハゲ隠しがある事を知る。ハゲた部分にハンコみたいにポンポン押すタイプは初めて使われた。ちなみにフリカケは、仕事後に洗髪すると大量の黒い水が流れるので毎回驚く。自分はハゲている事はオイシイと思うのだが、メイクさんに「ハゲを隠さないでくれ」とも言わないし、勿論「ハゲを隠してくれ」とも言わない。流れる水の如くメイクさんに全てお任せする。結局、自己判断が面倒なのだと思う。待ち時間や移動時間に車谷長吉著『妖談』読み切る。

某日、鉢植えのサボテンが狭そうだったので植え替え。水槽のメダカが2匹で寂しいと思い、新たに黒メダカ5匹を入れる。水あわせ等で結構時間がかかる。夜、下北沢で荒川良々さん、赤堀雅秋さん、水澤紳吾さんと4人で飲む。このメンツで飲む座は本当に楽しい。笑い過ぎて横腹が痛くなる。2軒目のバーで、劇団・動物電気の政岡泰志さんと同席。べろっべろの水澤さんとべろべろの政岡さんが吠え合い、それを面白がって良々さんが煽る地獄絵図。赤堀さんが「マツーラ!早く水澤を連れて帰れ!」と言うが、面白いのでしばらく見ていた。こういう先輩達が大好きだ。

(次回に続く)

松浦祐也

松浦祐也

1981年4月14日生まれ、埼玉県所沢市出身。ライオンズファン。いどあきお氏に憧れ、脚本家志望で映画界に入るが、騙されて制作部として現場で赤灯を振る。ややあって俳優・曽根晴美氏の付き人を経て、いつの間にか俳優となる。『押入れ』(03/城定秀夫監督)で映画デビュー。映画を中心にキャリアを積む。代表作に『マイ・バック・ページ』(11/山下敦弘監督)、『ローリング』(15/冨永昌敬監督)、『まんが島』(17/守屋文雄監督)、『岬の兄妹』(19/片山慎三監督) 、『さよならくちびる』(19/塩田明彦監督)などがある。猫5匹とメダカ、ミナミヌマエビと暮らす。