第三回特別対談 いましろたかし(漫画家)×向井康介(脚本家)
向井康介、伊東へ降り立つ
向井 昨日こっちも雪でした?
いましろ いや雨。
向井 今年は暖冬っすね。
いましろ って、言われてるけどね。寒くない?
向井 伊東だからじゃないですか?海沿いだから。東京結構暖かいですよ。
いましろ 対談という形で向井康介と話すのははじめてだね。この前写真整理してたら、山下(敦弘)くんと向井とはじめて会ったときの写真が出てきて、26歳って言ってたかな。
向井 26、7歳ですね。もう10年以上前っすね。
いましろ いまおかしんじの映画のトークイベントで、ちょうどふたりが上京するって。
向井 そうっすね。ちょうど山下が上京するって言ってて、俺がその一年前位に上京してて、そのあたりですね。いまおかさんの映画のトークショーにゲストで出ないかっていう話で、いましろさん原作の映画をやったんですよね。
いましろ 『たまもの』やって、ゲストが俺と、向井と山下だったの。で打ち上げで『どんてん生活』っていうのをやってますって、紹介されて。まだ学生みたいだったよ。
向井 すごい好きだったんですよ、いましろさんの漫画が。それこそ大阪の喜志に居た頃に読んでたんです。それで東京出てきて、いましろさんを好き好きって言ってたから、いまおか(しんじ)さんとかが呼んでくれたのかも。
いましろ たぶん、いまおかだね。
向井 そんな感じだったと思いますね。そん時は、まあ、びびってたんで。そしたら、すごい、いましろさんが可愛がってくれて、ごはん連れてってくれたりとか。
いましろ 僕が44歳だったから。
向井 あんとき44歳ですか!
いましろ うん。15、6年経ってるから。
向井 今の俺くらいっすね。俺今43歳ですから。
いましろ 俺59歳。
向井 えええーーーー! そんなに!
いましろ 自分でもびっくりですよ。
向井 なんかお祝いするんですか?
いましろ しないですよ。歳とっていいことなんかないよ。だいたい僕の一回り上の人バタバタ死んでますから。もうダメだって感じですよ。
向井 坪内(祐三)さん亡くなったのびっくりしましたね。61歳ですってね。
いましろ いつ死んでもおかしくない。
向井 最近、新年会とか山下とかとやっても、最終的に健康の話とかしかしないですからね。
いましろ でも40代はやり頃じゃないっすか。40代で作品残さないと。
向井 それは言ってますけどね。山下とも。
震災以後、今まで通りのエンターテインメントは出来ない
いましろ 僕50歳のときに東日本大震災があったから、そっから9年、ほんとなんにも面白くなくて、気が晴れる日がないですよ。
向井 しかもいましろさんは震災で一回スイッチ入りましたもんね。それまで思ってたことを表に出すようになったっていうかね。
いましろ いや、誰にも共感されなかったんだけど、「これで戦後はもう終わったな」と思った、確信したもんね。オシリペンペンズのライブがあって、用事があって行って、「ひと時代終わった」って言ったら、「僕ら今からっすよ」とか言われて、あれ~とか思って。奴らは阪神淡路大震災を経験してるから。「大丈夫っすよ」とか言ってたけど。あんときは原発なかったからな。
向井 そこが一番の違いっすよね。東日本と阪神の。
いましろ まあ、5倍くらい死んでるからね。そっから毎日、なにがあったか忘れるくらい立て続けで10年、しんどかった。
向井 確かにあれぐらいからガラっと変わって、あんまり飲み会もしなくなったし。
いましろ 震災当時は日本全国がやられたわけじゃないので、当時はね。みんなで泣いててもしょうがないじゃないかっていうことにはなったんだけどね。でも、今まで通りのエンターテインメントは出来ないなって話になったよね。宮崎駿先生なんかがやっぱりね、「こうやって音を立ててがらがら世の中が崩れてるときに、今まで通りのファンタジーは出来ない」って発言して、あーやっぱり先生もそうなんだって、当たり前だよなって思ったけど世間はそんな風じゃなかったから、やっぱりお楽しみを提供しなきゃいけないのかなって、編集者とは随分暗い話をしましたけど。だから俺はもう途中で、やめた! と。漫画なんかやめた!と。やめたつもりで政権批判の漫画をやり続けて、客がほとんどいなくなって(笑)
向井 でも最近またストーリーものやってるじゃないですか!
いましろ いや~もうキャリア的に終わりだから、エンターテインメントを意識したのをやってみたいってのは前からあったんですよ。でも、本も雑誌も急激に売れなくなってきてるから、「5年遅かったんじゃね?」って言われてて。漫画界においては、1週間で増刷がかからない本は相手にされないんですよ。で6カ月もすれば世間から消えてしまうわけで。あとは電子で売って回る。で、やっぱり年間億単位を動かして回る出版社からしたら、5000部6000部売れたって相手に出来ないわけですよ。
向井 10万部20万部売れないとって?
いましろ 10万部売れる本なんて今はなかなかないですよ。
もう俺の知ってる東京ではない
いましろ いや~。東京都の禁煙条例ではないんだけども、やっぱ学生時代からいた、俺の知ってる東京ではないんですよ、もう。やっぱり。そうすると、繁華街にいても家の近くにいても、なんか違和感を感じるんですよね、「あれ?これ俺の知ってる東京とは違うな~」って。
向井 なるほどなるほど。それっていつぐらいからですか?
いましろ それはやっぱり、2005年あたり、やっぱりグローバル化が進んでからですよ。家の周りの飲食店がチェーン店に変わって行って、それはやっぱり店主の高齢化と、後継ぎがいない、それから相続の問題とか色々あると思うんだけどね。しょっちゅう通ってた安い寿司屋とかも跡取りがいないとかでやめちゃって、つまんねえなって。喫茶店は全部、クリエとかスターバックスとかドトールとかになるし。あんまりそういう店好きじゃないんで。なんかもうこれは出ていけって言ってるんだなって。お前には用はないって言われてるような気もしたね。とにかく馴染みの店がどんどんなくなっていった。渋谷の再開発もすごいしさ。
向井 そうですね。渋谷スクランブルスクエアもこないだ出来ましたしね。行ってないですけど。結局東京住んでても、行動範囲は限られてますけどね。やっぱり。自分も。新宿界隈しかいないですからね。
いましろ 向井はゴールデン街しか知らないんじゃないの?
向井 あと新宿三丁目も知ってますよ!あと荒木町も知ってます。でもホントそれくらいですね。確かにね。やっぱ西の人間って、東の方はいかないじゃないですか、根津とか、浅草とかには住まないでしょ。
いましろ どうも西の人間は、東京でも西の方に住みがちなんですよね。
向井 で、東の、東北とかから来てる人は、わりとあっち側に行くんですよね。上野で降りるからかな。上野駅と東京駅の差かな。
いましろ 引力が違うんだろうね。だから俺も都心から東に行くと全然土地勘ないですからね。わかんないですから。
向井 釣りは行ってるんですか?
いましろ 去年の夏はちょくちょく行ってたけど。やっぱりよっぴいて仕事してるんで、眠いときは無理しないよね。
向井 鮎ですか?
いましろ フライですね。フライフィッシング。
向井 全国の川を見て、色んな土地を見て、選んだのが伊東だったんですよね。
いましろ そんなことない(笑)
向井 前にそんな話してたじゃないですか!で、3つくらいでしぼったって(笑)
いましろ おうちを決めるには現地を見ないと決められないじゃないですか。鳥取とか島根とか秋田とか好きだったんだけど、現物見ないと決められないから。伊東が安かったんですよ。何しろ。まあ口の悪い人にいわせりゃ、貧乏人が大量に雪崩れ込んでくるって(笑)。それくらい安い物件が大量にあって。
向井 それぐらい移住組がいるんですかね。
いましろ いますよ。伊東市は未だに人口増えてるから。外から。あとはまあ観光地なんで、寂れた地方都市ってのとはまたちょっと違うんですわ。
向井 空気の回りがいいんですね。人が回るから。
いましろ そうそうそう。まあ熱海と違って、未だに伊東って知らない人多いんで。昔は大橋巨泉が「みんな伊東に来ればいいのに」って言ってたんだけどね。巨泉さんが一時住んでた。ビートたけしさんとかを呼んで、なんか企画を考えてたらしいんだけどね。それでクイズダービーとかやったんじゃないの。巨泉さんそれでそのあとカナダ行っちゃったんだよね。巨泉さんも安倍政権になって非常に世を憂いながら死んでいきましたけど、立派だったなと思いますけどね。大橋巨泉とか愛川欽也は、ビートたけしに比べたら芸は全然冴えないと思いますけど、人間的にはたけしよりは全然上だったと思いますよ、俺は。
YouTube
向井 最近面白いものありました?
いましろ YouTubeは結構見てるよ。前川喜平の講演とかね。
向井 へーYouTubeですか。俺なに見てるかな~。令和新選組のやつ見てるぐらいかな~。
いましろ おもしろいよ。宇宙一億光年の旅とか。
向井 それなんですか?
いましろ ドキュメンタリー番組。ベーリング海一攫千金ズワイガニ漁とか。そういうを見てるんです。結構おもしろいんですよ。ピラミッドはどうして作られたとか。
向井 そういうのは俺も好きですよ。去年の夏くらいからですかね、テレビで民放を見ると心の具合が悪くなっちゃって。もうそっからね、俺、地上波を見れなくなっちゃったんですよ。もう最近ずっとBSにして、NHKのBS、2チャンネルあるじゃないですか、そうすると精神的に楽で。火野正平さんの自転車の番組のとか、岩合さんのネコ歩きとか、それで、歴史ものもやるんですよ。ああいうものの方がなんかね、いいんですよね、精神的にはね。
いましろ ほんとに今の民放のドラマとか、向井たちには悪いけど、ドラマとかワイドショーとかバラエティーとかとっても見られない、頭おかしくなる。パラレルワールドみたい。あとユーチューバーも結構見てますよ。
向井 誰っすか?
いましろ エ.comとか。エドの刺青の回笑ったな~。全身刺青で、銭湯に入れてくれるかどうかっていう。顔に頭おかしいくらい入れてるんだよね。そいつがね、「エドでーす!」って出てくるのがおかしくて。
向井 俺、何みてるかな。ゲーム実況と、あと最近話題になった芸人の中田敦彦さんのやつとか見てますね~。あの人やっぱ話術すごいな~と思って。
いましろ あとはやっぱ格闘技かな。
向井 格闘技は俺も見ますね。ライジンとか?
いましろ UFC、新旧とりまぜて、ライジンはそんなに見ないですけど。昔の桜庭の試合とか、ボクシングとか。リアルでは見ないんですよ。井上尚哉の試合とか。あとで見るんでね。一歩遅れて見ちゃう。
向井 なんかでも、さっきの話じゃないけど、今のことがよく理解出来ないっていう、自分とは関係のない世界だから過去を描くんだって言ってましたよね、1年半前にここに遊びに来たときも。だからタイムスリップものを描いてるんだって。
いましろ そう、だってもう、わからないもん、俺。
向井 でもアマゾンは便利なんでしょ(笑)
いましろ あんまり使ってないですよ。
向井 でも、確かに変わりましたよね、生き方って。
いましろ 未だに新宿の世界堂に買いに行ってますからね。どうも現物見ないと買えないんですよ。
向井 そら仕事道具はね。
いましろ でしょ。それに配達の人たいへんだな~って思っちゃってさ。あ、ここスズメがよく来るんだよね~。(一同スズメを見つめる)
ちゅんちゅんちゅん
いましろ たまに東京行くと、人が多いな~って思うよね。歩きにくいな~って。
向井 どれぐらいの頻度で来るんすか?
いましろ 月に2回くらいかな。だいたい日帰り。
向井 じゃあ朝イチ行って、半日仕事して、夜帰る、みたいな。
いましろ そんな感じですね。
向井 だいたい夜ですか?仕事は。
いましろ 夜の方がはかどるね。やっぱり。夜仕事すると昼間寝ちゃうじゃないですか。伊東で昼間寝てるとバカバカしいなと思って。でも昼型にするとあんまりはかどらないんですよね。
向井 俺もなるべく昼仕事しようとするんですけど、まあ、寝るのは遅くなってしまいますよね。結局なんだかんだ、飲んだりして。やっぱ自分は夜型なんだなって思いますね。
いましろ 伊東はほんと、ドンキもあるし、意外と都会なの。おっきいお店がいっぱい出来たからちっさいお店がぼんぼん潰れたんだよ!(笑)
向井 それは伊東に限った話じゃないですよね(笑)うちの地元もそうですよ。
いましろ でも改めてあれだよね。一年半経って、東京行くと、「あっここはちょっとすごいとこだ!」って思うね。
向井 変だってことですか?
いましろ 変だってとこもある。まあ、いたときから変だって思ってたとこはあるけど。このはしゃぎようはなによ!っていう。この地に足がついてない、ふわふわふわふわしてる人がいっぱいいるじゃないですか。まあでも刹那に生きるってすごいなって思うけど。でもやっぱ自分が歳とってくると、ついていけねえって思うな。
向井 都内にいるときの方が格差は感じますけどね。持ってる人はほんとに持ってるんで。すげえなって思いますね。そういう人たちが、東京だなって思うのが、普通の居酒屋に、俺たちみたいな庶民が飲んでいる隣の席に、普通にいるんですよね。あれなんだろうな、不思議だなって思いましたね。
いましろ そんなの小金持ちでしょ。
向井 でも、そういう人たちはそういう人たちの場所があるのかなって思ってたから。
いましろ だって、エドなんて、先輩がマクラーレン乗ってたからね!マクラーレン乗ってたら高円寺とか行かないと思うけどね。軽く原宿のブティックで100万使うんだぜ?エド自身は金持ってねえよ。そこが可愛いんだよ。エドは可愛いよ。毎回ひどい目に遭ってるし。
向井 他に見てる人はいるんですか?(笑)
いましろ まあそこそこに。でも、エドはそこそこ人気あるよ。結構きわどいことやってるしな。置き引き犯を捕まえるためにオトリになるとか。(GPSを仕込んだ荷物を酔い潰れてるふりをして置き引き犯にわざと盗ませて追跡し家まで押しかける模様をすべて動画で配信)どっちが悪いんだって話になるじゃないですか。で、知り合いの弁護士に「裁判になったら負けるよ」とか言われて、でも盗んだやつも堅気じゃないよな?クズとクズの戦いみたいになっていって。で、置き引き犯の母親が出てきて「息子の将来があるから動画を消してくれ」って言い出して、エドも「お母さんが謝ってくれるなら消しますよ」って言うんだけど母親は「なんであたしが謝らないといけないのよ!」って言って、それを延々やってんの。それでこの前の最新ではお父さんが出てきて、「うん、これは僕らが悪い」って言って、じゃあ母親が「あんた頭おかしいんじゃないの!」って言って怒って出て行って。お父さんはエドと握手してな。「ありがとうございます」って。おっかしいんだよ(笑)。まあ、そんなんしか楽しみがない自分はなんなんだろうって思うけど。夜中にひとりで笑ってるの。
人類は未知の領域に入った
向井 でも確かにテレビ離れは進むでしょうね。こっちの仕事でいうと、配信の映画とか、ドラマ配信とかの仕事が来たりしてますしね。
いましろ だからそういうYouTube見てると、地上波のドラマ見れなくなってきて。ただ、ドラマはドラマでフィクションを作って欲しい気持ちはあるし。
向井 俺もまあ、ほぼ日本のドラマは見ないですね。だいたい海外のものばっかり見てるんですけど。まあ仕事としてはNHKのBSの連ドラの脚本書いたんですけど、正直ホントに日本のどういった層が見てるんだろうって書きながら考えるじゃないですか。で、評判も気になるから、タイトルでエゴサーチしてみて、どんな感想だろうって見てみて。で、いい反応と悪い反応とあるんですけど、なんか「今期見た中で」っていう枕がつくんですよね。ってことは、そういうやっぱりね、ずーっとドラマを追っかけてる人っていうのはやっぱり一定数いるんだなあってね。これとこれとこれとこれとこれを見比べて見たけれども、みたいな書き方をしていて。
いましろ そういう人たちは視聴者とか読者じゃないと思ってるから、俺。
向井 そういう人たちはなんなんですかね?
いましろ 予備軍!
向井 予備軍ね(笑)ほんとの視聴者はそういったこと書かないっていうことですよね?
いましろ わりと俺はシンプルに考えてて、一次産業と二次産業を潰しちゃったら、三次産業しかないわけですよ。そこに就業人口が集中してしまうと、そこでの立ち回りを考えるでしょ、そうするとみんなが似非作者になってしまうわけですよ。だからこれは純粋な読者とか視聴者じゃないんじゃないかってずっと考えてて。
向井 そっちが膨れ上がって、純粋な視聴者が減っていくっていう。
いましろ そう。クラブに行ったら、DJが10人いて、客がいねえっていう。これは違うだろ?っていう。踊ってるやつはひとりもいない。みんなレコード回してるっていう。ユーチューバーがもちろんそうだし、インスタだってもちろんそうだし、SNSは全部そう。
向井 SNSがそうさせたんですよね。たぶん。
いましろ 人類は未知の領域に入ったんすよ。一体誰にどういったもので喜んでもらうっていうのがさっぱりわからなくなって。
向井 そう!そこなんですよ!
いましろ 逆に視聴率を稼いでるからこの番組ダメなんじゃない?っていうのはあるからね、昔から。
向井 でも俺、いましろさんと出会ったとき、26、7歳でしたけど、山下と映画作ってて、やっぱりね、その頃は業界に向けて映画作ってたんですよ。邦画界で認められたいと思って作っていくじゃないですか、それでその人たちが褒めてくれればいいっていう。普通にお客さんとしてくるお客さんはあんまり見てなかったんですよね。
いましろ そのときの状態が今の一般人なんですよ。
向井 この歳になると逆で、ほんとの視聴者に見て欲しいんですけど、むしろ業界の人たちはどうでもいいと。視聴者に見て欲しいんですけど、そこの努力を怠ったせいか視聴者が見えないんですよね。
いましろ あーでもそれは向井とか俺の責任じゃない。もし1960年代に脚本家やってたら、やっぱり向井も座頭市みたいな脚本書いてるよ。だからもう責任はない。しょうがない。
向井 だからもっと娯楽とかエンタメってものをしっかり考えた方がよかったのかな。
いましろ 考えてたと思うよ。俺、今、藤子不二雄の『まんが道』読んでんだけど、やっぱり読者っていう確固というものがいると楽だよね。今、いないから厳しいんだよ。
向井 そうなんですよ。で、周りでは視聴者もいなくなってる、読者も減ってる、みんな読まなくなったり見なくなったりしてるって言われていて。
いましろ だって今漫画読んでるやつって、特殊な人間だからね。極端な言い方すると。
向井 今「ジャンプ」とかって売れてるんですか?普通の少年漫画誌って?
いましろ おっさんおばはんが読んでるんじゃない?子どもは読まないですよ。
向井 子どもは何見てるんですかね。それこそYouTubeとか?
いましろ だと思うよ。子ども向けのコンテンツって今ほとんど無いんじゃないかな。
向井 まあドラマ作り映画作りもだいたい、20代30代の女性と、60代以上の男女に向けて作ってるみたいなのが多いですからね。
いましろ でもさ、その人達をさ。その人達を喜ばせて、ホステス役をやってもさ。それが仕事っていうのも悲しいよな?
向井 悲しいっすよね。やっぱ若者に響かせたいですけどね。
いましろ やっぱ評判になってみんなが見に来て、一瞬でもいいけど面白かったっていうのが一番いいけどな。なかなかむつかしいよ。
毒を飲ませるときは砂糖でくるむ
向井 ストーリー漫画面白いですか?やってて。もう政治的なことは一回上がったわけじゃないですか。
いましろ いや、またぶち込むよ。
向井 またぶち込むんですか!
いましろ 毒を飲ませるときは砂糖でくるまないと。
向井 今、砂糖でくるんでるところなんですね。
いましろ なめてると毒が出てくるから。
向井 なるほど。面白いっすか。
いましろ 結構面白いかな。伏線を意識して張ったのははじめてだし、どうやって回収しようかなって冷や汗出てくるけど。あとは週刊でやるのと月刊でやるのと全然違うので、なかなか月刊誌っていうのはあんまりアドリブばっかり出来ないんだよね。きっちり情報をいれないと。そうすると生々しさが零れて消えちゃって、なんか淋しい、みたいになって。
向井 週刊誌の方が生々しいものがあるってことですか?時間がないから。
いましろ そうそう。ハイ次、ハイ次、で。やっぱり映画の脚本とも全然違うので、連載は。推敲が出来ないんですよ。やってしまったことは取り返しがつかない。シナリオの場合は直せるじゃないですか。
向井 まあそうですね。それが仕事みたいなところありますからね。
いましろ まあ破綻してたらダメとは思わないから、自分は。
流行りとは
向井 そういえば狩撫(麻礼)さんのお別れ会はやったりしたんですか?
いましろ だいぶ前にやりましたよ。まあ悪いもんじゃなかったけど、これ以上のことはないんだなっていうか、まあ感動的なこともなかったし。死んだら終わりよ。
向井 それを言っちゃ終わりですけど。そうなんですけどね。
いましろ 死んだら終わりだし、生きてる人間の出来ることも限られてる。
向井 最近、山下とよく話しますね。その、同期の近藤(龍人)くんとも。あと何本だろうってね。
いましろ はやいっすね。
向井 でも映画って、一本一本が時間かかるじゃないですか。そうなると、40代で出来て何本かなって。自分の場合、活字もあるんで。
いましろ ひとつ欠けてるのが、やっぱ時代背景と共にあるもんだから、今までの常識が通用しないところで、あと何本で考えても無駄なんですよ、シミュレーションにならない。過去の映画監督とか作品とかそういうのが基準じゃないですか、全く未知だから、ここからは。
向井 逆算しても意味ないってことですかね。
いましろ 意味ない。
向井 目の前のことやれってことですか。
いましろ 目の前の一本でしょ。
向井 気づいたら60、70歳なってるんでしょうね。
いましろ で、傑作一本も出来なかったら、あーあ(笑)で終わるっていう。
向井 そうっすね(笑)
いましろ 傑作一本でもあると、こいつやったんだな!っていうね。
向井 それは救いですけどね。
いましろ だって俺、コッポラは巨匠だと思うけど、はっきり言えば『ゴッドファーザー』だけじゃないですか。
向井 『(地獄の)黙示録』もありますけどね。
いましろ 『黙示録』は認めない。わかんないもん。一本あれば大したもんですよ。山下もこれぞ一本っていうのはまだ撮ってねえな。
向井 どうなんでしょう…。
いましろ うっひゃ~これやられたらたまんねえな~っていうのはないじゃん。
向井 う〜ん…。
いましろ まあでもそういうの、作ったら作ったで大変ですけどね。人は次の傑作を求めるし、次の天才に群がっていくし。いちいち相手にしてらんねえよ。
向井 移り気ですもんね。しかも若い人どんどん出てくるし。もう俺は今の日本映画あんまり見ないようにしてますけど。
いましろ それはなに、妬ましいやついる?
向井 いません!ていうか、そういうのじゃなくて、ほんとに、あの、いましろさんじゃないんですけど、ほんとにわかんなくって、今の若い人たちの映画が。どう見ていいのかもわかんないし、どういう風に面白がればいいのかもわかんなくて。
いましろ ていうことはつまんないってこと?
向井 つまんないってことではないんですけど。うーん。なんか、ピンと来ないんですよね。彼らは彼らの問題を恐らくきっとやってるんですよ、でも、そこが、うーん。
いましろ 俺は若いやつなんか認めてないよ。
向井 だから俺は見ないということで、そうしてるんですけど。なんかねぇ…。
いましろ 俺、お金借りる銀行の人に言われた。「『カメラを止めるな』すごいっすね。」って。
向井 俺も、ほんとに、映画なんか年に一本しか見ないっていう地元の同級生に言われたもんね、「『カメ止め』見た?」っつって。そこはやっぱすごいんだな~って。浸透力。
いましろ ヒットってこういうことなんだなって。
向井 そうですね。
いましろ 「山田孝之の映画作ってるんですよ~」って言ったら、「すごい!」って(笑)。
向井 でも全然ヒットしてないっていうね(笑)。
いましろ そのときに、「映画なかなかむつかしいんですよ」っていったら、「『カメラを止めるな』の例もあるじゃないですか~」って言われて、やっぱ知ってんだよな~。この人絶対に一年に一回も映画館行かね~だろ~なって人に言われたからな~。でも『カメラを止めるな』がTSUTAYAに並んだから借りてきて見て、うちのカミさんに「見る?」っていったら、「もう見た」って。
向井 奥さんはどう言ってたんですか?
いましろ 奥さんは普通じゃねえ?もう年寄りの普通。遅れてるよね。
向井 最近はもう遅れてるも遅れてないもないんじゃないかなって。今の流行を追おうとしてる人って、今の若い子もいないよな~って。辛うじて、俺ヒップホップ好きで聴くんですけど、トラップとか流行って、わーっとみんないってるのはわかるんですけど。
いましろ 俺、未だにジャニス・ジョプリン聴いてるよ(笑)。
向井 みんなそれとか、ハード・コア好きならずっとハード・コアやってる20代の子たちもいるし、もうその、周りに流されないで純粋に好きだっていう気持ちでやってる子たちっていう。多様性が促進された環境の変化も大きいのかもしれない。
いましろ でもやっぱり今は、なんか人数いっぱいいる下品な人たちとかじゃないんですか。
向井 ああ、あの日焼けした筋肉質な人たちが踊ってる集団ね。
いましろ でっかいポスターが駅に貼られてたとき、なんて下品な人たちなんだって、こんな写真を公の場に貼っていいんだろうかって思ったもんね。
向井 その感覚面白いっすね(笑)
いましろ チャゲアスのときもそう思ったからね。こんなの人前に出すなよって。世良公則が限界じゃねえって。俺はそう思ったけどね。
向井 あれは地方の若い子たちとか、女の子たちがやっぱきゃーきゃー言ってるわけですから。
いましろ 相変わらずメジャーはあるよ。でも、一度もシビれたことはない。
向井 俺も同じですよ。だからやっぱりYouTubeとかがそういう流行りをなくさせてるのかなって。60年代の音楽も今の音楽も同時に並んでるってことが、同時に流行りをこう均一化させてるのかな?って気はしますけどね。自分の視聴履歴とか見てても思いますけどね。カネコアヤノの後にちあきなおみとか見てるんですよね、こういう世界をみんな子ども達も見れるんだよな~とか思って。
いましろ いや、高校生はちあきなおみ聴かねえよ。
向井 いや聴いてる人きっといるはずですよ!
いましろ そうかな~。それだったら面白いんだけど。いつの間にか、音楽でも映画でもそうだけど、ナビゲーターがいなくなっちゃったから。今この本が面白いって言うのもこれ見とけばわかるんじゃないかっていう地図がなくなっちゃったからさ。
向井 映画雑誌もほとんどなくなっちゃったし。
なんという時代にしてくれたんだ!
いましろ でも本当に生活費があるんだったらもうあんまり描かなくていいかなっていうのはあるんですよね、もうあとは任せた!っていうね。
向井 もう上がりたいってことですか?
いましろ うん、勝手にしてっていう。興味ないから。
向井 あとは余生っていう。
いましろ 余生っていうか、もう嫌だから、今の世の中が。
向井 魚と向き合いたいってことですか。あとバイクと。
いましろ そうですね。それもいけないとは思ってるんですけど。最後まで文句言おうと思ってるんですけど。だって、伊東だって修善寺だってメガソーラーの問題があるんですよ。
向井 メガソーラーってなんですか?
いましろ 山を切り開いて太陽光パネル設置するんだよ。なんでわざわざそんなことするの?山崩してさ。リニア通したら大井川の水枯れるって言われてるのに通そうとするしさ、ヒ素がいっぱい出るって言われてるのに。後先考えない人たちはそんな事ばっかりやっててさ。YouTube見てて面白かったって、そんなの人生じゃないでしょ。
向井 それは確かに。それはもう、いましろさんずっと文句言ってくださいよ。
いましろ だから、向井も山下も普段全然文句言ってないから、淋しいな~って。
向井 言ってなくはないですよ!最近考えてますよ。
いましろ カジノの問題だってさ、中国企業は特捜が入るけどさ、あいつらアメリカとオーストラリアのカジノ会社は全部スルーだぜ?いっぱい来てるんだぜ?しかも間に日本の会社立てるんだぜ?中国企業の場合だったら間に何とか観光とかって地元の観光会社があるんだよ、それを間にかましといて、あいつらに金流すんだよ。大阪のカジノでどこをかましてると思う?みんな知ってる有名企業だよ。全然出てこないでしょ、報道に。それがおかしいんだよ、どう考えても。売国社会だよ。って、なんでみんな言わねえんだろうな。
向井 言ってる人は言ってるんですけどね。
いましろ だからそういうことを考えながら現代劇をやるのは不可能だと思ったんで、時代物やろうと。現代劇ほんとむずかしい。無理!パラレルワールド書くしかねえもん。ほんとに。
向井 だから最近SF増えてますもんね。わりと話題になってますしね。
いましろ 家族が仲違いするドラマだとするじゃないですか。それが社会と完全に切れてるわけないじゃないですか。その背景を全部無視してさ、この枠組みの中でだけやろうとしても、それ、嘘じゃん。一体俺はなにを見てるんだろうっていうかさ。時代劇だったらさ、突拍子もない時代劇でも、身分とか、その時代があってこうなってる、っていうのがあるじゃないですか。サラリーマンの家庭だったら、どこに勤めて、何の仕事をしててってのが背景にないとさ、粉飾決算しててとかが出てきていいはずなんだけど、そうするとみんな見なくなるんだよな~。
向井 あはは(笑)それは見なくなりますね。
いましろ 『相棒』とかさ、事件モノだって、共謀罪の問題もあるし、一切そういうの関係ないじゃん。
向井 だから我々だって時代劇の方が作りやすいって話もありますよ。
いましろ でしょ~。
向井 身分とかもはっきりしてるし、生活とかも。
いましろ だから、なんという時代にしてくれたんだ!って思うよな。
向井 むつかしいですよね(笑)
いましろ むつかしい。今までが楽しすぎたのかもしれない。やっぱハリウッドの映画見てると、ちらっとあるもん、そういうのが、この前『サマー・オブ・84』っていうの見たんだけど、あれはレーガン政権の中で格差がガンガン出来ていくって最中の話でさ、やっぱそういう背景があって作ってるからさ。
向井 そういうの入れるとやっぱ、見なくなるんですよね。日本の人は。
いましろ そうなんだよね。
向井 あと、そういうのをやらせないっていうのがありますね、スポンサーが。自主規制なんですけど。
いましろ 漫画界悲惨ですよ。俺のスマホが最強ななんとか?とかも、そんなんですよ。「異世界に行ったらヒーローだった!」とかね。もう意味わかんない。馬鹿じゃないの。
向井 確かに、あしたのジョーにしてもタイガーマスクにしてもあったんですよね(笑)
いましろ 社会と戦ってましたよ。
向井 そうなんですよね。そこがないですよね、今はね。
いましろ 仮面ライダーからおかしくなってんだよ。ワイルド7は社会悪と戦ってたから。仮面ライダーはショッカーと戦い始めてダメになったんだよ。
向井 あははははは!
いましろ ガンダムと宇宙戦艦ヤマトあたりからもうダメだね。だってちゃんと出てくるんだよ、ワイルド7には、チラリとだけどロッキード疑獄事件が出てくる。
向井 でもアニメでもギリギリそういうこと考えてやってたのは庵野さんとかでしょう。エヴァンゲリオンとかは。庵野秀明さんと宮崎駿さんはそこがちゃんとあるなって思いますね。
いましろ なんにも考えないで糞アニメばっかりやってるとこは一体どういうつもりなんだよ。
向井 俺、アニメ見ないからわかんないですけど。
いましろ いや、おっかしいよ。頭おかしくなっても全然大丈夫~みたいな奴ばっかりだよ。
向井 あと今話題になってるやつ『鬼滅の刃』あれ見てみようと思ってるんですよね、あれおもしろいらしいですね。あれジャンプでしたっけ。よく出来てるって。
いましろ ワンピースを抜いたって言われてるね。
向井 そうそうそう。なんであそこまで跳ねたのか知りたくて。
いましろ ちょっと見てみたけど、わかんない。
向井 あっ、わかんない(笑)。でもあれも時代劇っすよね。
いましろ 大正時代じゃないかな。要するに世に悪為す神の世界、その使命を帯びたっていう。
向井 途中でやめました?
いましろ 2分。
向井 はやいっすよ!せめて1話見ましょうよ!(笑)
いましろ 無理だって。金もらわないと無理。金ももらえないのにこんなアニメ見てられるかって。そりゃ無理だよ。無理だな~。『るろうに剣心』だったらまだ見られるかもしれないけど。まあでもあれも、知識欲をくすぐる感じとかも使ってるんじゃないっすか。
向井 時代とか歴史とかね。
いましろ いやほんとに、みんな異世界もので頭おかしくなってるんですよ。オタクは。
日本白痴化計画
向井 あれはなんなんでしょうね、わかりたいと思うんですけどね。現実逃避なのかな。
いましろ 現実逃避の一言で終わると思うんだけど「異世界居酒屋」っていうの見てたら、異世界のやつが居酒屋に来て、ハマチの刺身食ってうめえ!っていうのを10分くらいかけてやるの。これがハマチの刺身~!って。ちょっとわかんねえわ。
向井 ・・・(笑)
いましろ 「異世界居酒屋」ヒット作品ですよ。
向井 へー。
いましろ 100タイトルくらいあるんじゃない、異世界の。スマホがない世界にスマホ持ってくと全部わかっちゃうの。んでモテまくる。
向井 なんか中学生が発想しそうなことですね(笑)
いましろ だよな~。
向井 そういうものの方が気軽でいいのかな。
いましろ 日本白痴化計画でしょ。
向井 考えさせないようにしてるわけですね。
いましろ 完全な陰謀です。もう我が国はぺんぺん草も生えないぐらいにむしり取られて終わってしまうんですよ。まあ無理だろうな。アニメ見て育ったやつがまともな人生送れるとは思わねえもん。
向井 でも最近ちょっと暗くなったのが、『東京貧困女子。』を今になってようやく読んで、あれちょっとへこみましたね。高校卒業して、大学苦労してやってきて、家が貧しい子たちは奨学金でやってきて、奨学金ってあれようは借金ですよね、で卒業するときには800万くらいの借金を背負わされてて、それを返しながら、しかも非正規の採用で、会社員として生きていかないといけない、手取り15、6万で、返せるわけなくて、あと2、3万欲しさに風俗で働き始めるんですよね、女の子たちは。
いましろ だから風俗で働くっていうのは一段階リスクが増えるわけじゃないですか。
向井 でも目先の毎月の2、3万のためにそれをやるしか道がない。返していって、結果、やっぱ病んでいって、鬱になって壊れていくっていう子たちがいると。
いましろ そういうのあざとくやれば視聴率稼げるんじゃないの?
向井 奨学金はね、今問題になったみたいですけどね。
いましろ それは今山本太郎がチャラにするって言ってるから、山本太郎を総理大臣にすりゃいいんだよ!
向井 いましろさんはずっとそのままでいてくださいよ(笑)
いましろたかしプロフィール
1960年生まれ、高知県出身。漫画家。86年ビジネスジャンプ掲載の「不通の人々」でデビュー。主な作品は「ハーツ& マインズ」「デメキング」「タコポン」(原作 狩撫麻礼)「ぼくトンちゃん」「釣れんボーイ」「非国民」(狩撫麻礼との共作)「ラララ劇場」「化け猫あんずちゃん」「原発幻魔大戦」「永遠のケツ」など。09年には「デメキング」(寺内康太郎監督)18年には「ハード・コア」(山下敦弘監督)が実写映画化されている。
向井康介プロフィール
1977年、徳島県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。在学中、『鬼畜大宴会』(熊切和嘉監督)の照明、編集助手を経て、卒業制作『どんてん生活』(山下敦弘監督、1999年公開)で製作、脚本、照明を担当。以後、数々の現場を照明助手として経験し、2004年より脚本家に専念。主な近作は「聖の青春」「愚行録」など。著書に「猫は笑ってくれない」(ポプラ社)、「大阪芸大 破壊者は西からやってくる」(東京書籍)がある。