第三十八回特別インタビュー 早乙女太一(俳優)

幼い頃から役者としての道を歩み続けてきた早乙女太一さん。ここ数年はますます演技の幅を広げ、そして演じることを楽しんでいるように見えます。31歳にして芸歴27年目を迎える早乙女太一さんはいま、俳優としてどんな場所にいるのでしょう? じっくり伺いました。

言葉の「裏」の感情を紡ぐ赤堀雅秋作品

――早乙女さんは2月に黒澤明監督の映画を舞台化した『蜘蛛巣城』の公演を控えていますね。

早乙女 はい。映画にそれほど詳しくない僕でさえ知っているほどの名作です。シェイクスピアの『マクベス』を戦国時代に翻案した作品で、僕が演じる鷲津武時は三船敏郎さんがやった役。そのイメージが強い方もいらっしゃると思います。もちろんそこにリスペクトはありつつ、今回は映画を追いかけるのではなく、自分として役柄に向き合っていければと思っています。僕としてはやはり今回は作・演出を務める赤堀雅秋さんの作品にまた出られるんだ! という喜びがいちばん大きくて。

――赤堀さんとは6年前、『世界』でご一緒されて以来ですね。

早乙女 『世界』での経験はものすごく大きかったんですよ。僕はとくに、ふだん着飾って舞台に立つことが多い。でも『世界』のときは削ぎ落とされた、本当にシンプルな役をやらせてくれた。それが本当にうれしかったし、そういう役柄に向き合えたあの時間がものすごく大きな糧になっているなと思います。

――今回はガラッと変わって時代劇ですが。

早乙女 「え、時代劇なんだ!」という驚きと、前回とはまた違う、赤堀さんがつくり出すものに立ち会えるんだというわくわく感とがありますね。僕の経験した赤堀作品は、表に出る言葉、表面上に見える表情や振る舞いの、その裏側に潜むものがすごく大事だったような気がしていて。

――裏側に潜むもの?

早乙女 素直に言葉にしていないもの。言葉の中からちょっとこぼれ落ちた感情。ひねくれているといえばすごくひねくれているけれど、でも人間誰しも持っている部分だと思うんですよ。しかも、たぶんそちらのほうが、実は本質だったりする。前面に出ているところじゃなくて、ちらっと見え隠れする部分、言葉の裏に垣間見える感情……。そういう繊細なものがつなぎ合わさってできている気がするんです、赤堀作品って。

――なるほど、たしかにそうかもしれません。

早乙女 でも、『蜘蛛巣城』はぜんぜん違うじゃないですか。それこそ題材となっている『マクベス』って、めちゃくちゃ感情を言葉にする、全部しゃべっちゃう(笑)。だから、どんなふうになるんだろう? と今は未知なことばかりで、だからこそ楽しみですよね。

――早乙女さんが赤堀さんに信頼を寄せているように、赤堀さんも早乙女さんのことを「とても好きな役者」と話されているようですが、前作『世界』のときに求められる役割を果たせたとか、信頼関係を結べたという感覚はありましたか?

早乙女 役割を果たせたかどうかはわかりませんけど……。でも、赤堀さんはすごく見抜く人だから。役者が無意識で前日の稽古をなぞってしまっているとか、クセで演じているとか、そういうところを意地悪に見る目を持っているから(笑)。そんな目がある前で演じると、ものすごく集中した時間になるんですよ。どれだけ本当にその場所で生きられるか。そういう時間って、あるようでなかなかないんです。すべてにおいて、繊細で静かなんだけど、ものすごく激しい。そんな時間を経験できたことは本当によかったなと今でも思っています。

役によって変わる、気持ちの表現の形を探す

――早乙女さんは『蜘蛛巣城』の映画はご覧になっていないということでしたが、原作ものを演じるときはあえて原作に触れないというポリシーを持っていらっしゃるんでしょうか?

早乙女 たぶん今回は見ないと思いますが、作品によります。漫画が原作のものであればキャラクターがもうできあがっているところがありますから、その人物の癖や細かい動き方をポイントとして取り入れるために読みますよ。今回は、三船敏郎さんの武時を演じるわけではないですから、武時というものをまず自分なりの受け止め方でやりたいなと思っています。

――早乙女さんが『蜘蛛巣城』で演じることになる鷲津武時は32歳という設定ですね。31歳の早乙女さんとは同世代。時代背景も立場もまったく違いますが、何か意識するところはありますか?

早乙女 年齢自体はそんなに気にしていないですね。やっぱり昔の人の32歳は今より相当大人でしょうし。武時はひたすら懸命にやってきたけれどなかなか成果が認められず、当時ではだいぶ歳を重ねて、ようやく運が巡ってきた人なんですよね。なおかつ、死がもう目の前にあるような緊迫感のある時代……。もちろん今も生きるのがたいへんな時代ではあるけれど、生きることと死ぬことに対する距離感、命の捉え方はやっぱり今とは絶対的に違うだろうな、とは思いますね。

――今回のように共通点が掴みづらいような役柄を演じるとき、早乙女さんはどんなところから役にアプローチしていきますか?

早乙女 稽古はこれから始まるのでまだわからない部分もありますけど、今回の台本を読んでみると、武時って案外普通だな、と思いました。武時は親友や奥さんに対してすごく真っ直ぐで。でも身近な恐怖、疑心暗鬼、ちょっとした欲望でぐるぐるとしてしまう……。『マクベス』を題材にとっているというとやっぱり狂気が注目される部分もあると思いますけど、武時は狂気の中にいる普通の人、という感じがするんです。

――武時自身は、普通。

早乙女 あと、やっぱり武時と倉科カナさん演じる妻・浅茅の夫婦ふたりが、二人で一つだなと感じますね。人って、自問自答をするときがあるじゃないですか。「こう信じたいけど、こうかもしれない……」という、その自問自答をこの作品では夫婦二人に分けている感じがするんですよ。武時が信じたくないもの、見ないようにしているものを奥さんがしっかりと見ていてくれていて、二人の会話が一人の気持ちを表現しているかのように思えてくる。

――それは面白いですね。今回のように脚本を読んで「意外と普通だな」と思ったり、共感できる部分、理解できる部分を探していくということは他の作品でもされていることですか?

早乙女 そうですね。でも、……これ、言葉にすると本当にすごく単純に聞こえるかもしれませんけど、僕は、根本の感情はどんな人でもみんな一緒だと思っているんですよ。

――感情はみんな一緒?

早乙女 日本人であろうと、外国の人であろうと、世代が違おうと、時代が違おうと。だから、この根本の感情さえ共有できれば、あとはその発し方が違うだけのことなんじゃないかと。「好き」という感情があったとして、素直に「好き」という人もいる。でも、ある人はそれを「嫌い」と言うかもしれない。表に出ている形は人それぞれ違っても、根本に思っている「好き」は一緒なんじゃないかと。つまり、演じるというのは役によって、キャラクターによって変わるその出方を探して、見つけていくという作業というか。

――「今回の役は好きをどんなふうに表現する人かな?」というのを探していくということですね。

早乙女 そうです。でも、自分で0から1をつくるというよりは、やっぱり環境と人とで変わっていく部分がある、そこを考えます。今回でいったら激しい時代の流れに巻き込まれていく、そういう人がどう表現するか、を探す感じですね。

変化してきた「作品づくり」への思い

――今回も稽古前の作品についてこれだけの話をしてくださっていますし、最近特にさまざまな役柄を、楽しんで演じている印象を受けます。早乙女さんは今、俳優という仕事についてどんなふうに捉えているのかを、ぜひ伺いたくて。

早乙女 どうなんでしょうね。僕、昔は芝居が本当に苦手で。自分の心を見られることにすごく抵抗があって……。その感覚は変化しつつはありますけど、今も好きかと聞かれたら、自信を持って好きとはまだ言えないです。ただ、ものづくりをしている時間がすごく好きだな、という実感は年々強くなっていってるんですよ。

――芝居そのものというより、舞台なりドラマなりの作品をつくることが楽しい?

早乙女 そうですね。ふつうに集まって飲んでしゃべって、という形でも人と関わることはもちろんできますけど、それではある程度のところまでしか行けない。でも、こういった演技という表現を通すことによって、相手の一歩深いところが見える瞬間がある気がして。だから、作品というものがあったうえで会話をすることが楽しいし、人と生きているという感じがする。そこでの会話は芝居を通じて、役柄を通してのものではあるけれど、そこに何割かは絶対に自分の要素も入っているわけじゃないですか。だから、作品ごとにいろんな人と演技を通じて対話できることは、ものすごく自分にとって面白いことですね。

――そういう会話を重ねていくことで、会話自体も深いものになってきたりするものなんでしょうか?

早乙女 僕はペラペラですけど(笑)。

――いえいえ。

早乙女 でも、いろんな人たちと出会えることがうれしいんですよ。特に昨年は映像のしごとが多くて、すると舞台では出会えない人たちと一緒につくる作業ができる。だから「すごいな」と思える人たちと出会い続けられるように、自分も頑張らなきゃなと思いますね。

――早乙女さんは若い頃から長く芸歴を重ねているのに、いまそうやって新鮮に作品ごとの出会いを楽しんでいるのはすごいことのような気がします。芝居が苦手だったところから、ものづくりや人との出会いを楽しむようになるまで変化したのには、なにかきっかけがあったんでしょうか?

早乙女 大きなきっかけがあったわけではないんです。でも、ざっくりとした言い方になってしまうけど、同じことをするにしても、受け止めてやるのと、受け止めないでやるのとで、大きく違うんですよね。芸歴こそ長いですけど、子供の頃は何もわかってなくてやってきたわけで。もちろん小さい頃から重ねてきた経験は自分の身についているところもあるし、やってきた時間はすごく大切ではあります。けど、悪い言い方をすると、正直ただやっていただけのときもあった。それがいろんな角度から自分を見つめ直して、受け止めるようになってきたんです。やっぱり、受け止めるだけで、見方が変わるだけで、同じことをやっているようでも新鮮になるもので。だから毎回すごく新しいチャレンジをしている感覚になる。それを大事にしたいなと思ってもいます。自分としては、けっこう新人のつもりです(笑)。

――舞台と映像との違いはどうですか?

早乙女 映像は監督によって、舞台では演出家によって、表現方法もまったく違うので、舞台だからとか映像だからとかはそんなに考えないですかね。ただ、僕は圧倒的に映像の引き出しの数が少ないので、本当に手探りのなかで、毎回いろんな方を見て、学びながら試してみています。

――舞台だから、映像だからではなく、監督や演出家、一緒につくる人がどんなものを求めているかによって変わってくるわけですね。

早乙女 そっちのほうが大きいです。僕、ふだんはけっこう自己中心的な方だと思ってるんですけど、芝居になるとすごく人に影響されるんですよ。空気感だったり、相手の芝居だったり。そこらへんは自分のスタンスを守りながらも、相手と共鳴できる部分を探す作業が大きいかもしれないですね。

野望は「健康ランド」!?

――5月には早乙女さんが中心となって率いている劇団朱雀の公演も控えていますね。早乙女さんのルーツでもある大衆演劇を、いまこうしてご自身が総合プロデュースと演出を担って上演されることについて、どんな思いを持って取り組んでいるのか聞かせてください。

早乙女 自分が育った環境でありながら、以前はすごく拒否していた部分もあったんです。でも、一旦離れたことによって(※劇団朱雀は2015年に一度解散している)、そこにしかない良さにあらためて気づいたんですよね。それはやっぱり自分のルーツとして大事にしたいと思いました。せっかく良さに気づいたのであれば、昔からある大衆演劇をただそのまま大事にするだけじゃなくて、自分たちなりにつくれるものをこれからつくっていきたいなという思いが強くあります。

――早乙女さん自身は幅広くさまざまな作品に出演しながら、ご自分のルーツを新しく、より広く見てもらおうと。

早乙女 そうですね。「大衆演劇」と呼ばれているけど、ぜんぜんいまの時代の大衆の演劇じゃないから。もう一度もっと身近な存在になれないかなと思って。新しくチャレンジしようとしているところです。

――お話を伺うまで、早乙女さんほどの長い芸歴をお持ちだと、確固たる演技論を持っているのかなと勝手に思っていたんです。でもすごく柔軟で、作品ごとに求められることに応えようとされているんだなとわかりました。

早乙女 ずいぶん昔ですけど、キャンバスみたいになれたらいいなと思ったことがあって。どの色が塗られても、その色が乗るようにと。

――おっしゃるとおりいろんな色の作品に出られていますが、作品選びの基準は?

早乙女 時と場合によりますけど、今回だったら赤堀さんとご一緒したいとか、作品自体に興味があるとか。作品自体のことは詳しくないけど、この方と共演できるなら! というときもありますし、選び方は本当にそれぞれ違います。でも、僕は好奇心が強いほうなので、なにかしらチャレンジできることがあれば一度は飛び込んでみたいなと思うタイプです。

――では最後に、早乙女さんのこれからの野望を教えてください。

早乙女 野望かあ。これまで全然夢を持っていなかったんですよ。なんでしょう、夢とか目標と野望ってちょっと違う印象ですけど……健康ランドをつくりたいですね。

――健康ランド!

早乙女 いろんな理由があって。一番はサウナがものすごく好きというのもありますし、あと、僕自身が健康ランドで育っているんですよ。

――ああ、なるほど!

早乙女 大衆演劇って健康ランドでの公演がすごく多くて、自分のルーツなんです。なんか好きなんですよ、ご飯食べたりお酒を飲んだりしながら舞台を見るという感じが。でも最近はそういう劇場も少ないし、僕もそこで演じることもなくなってしまったんですけど、好きなサウナもあるし、お風呂もある健康ランドをつくったら、そこでずっと公演もできるし、老後も暮らせそう(笑)。うん、「健康ランドをつくる」、これはけっこう大きな野望かもしれないです。

■プロフィール

早乙女太一(さおとめ・たいち)
福岡県出身。大衆演劇「劇団朱雀」の2代目として4歳で初舞台。03年の映画『座頭市』で注目を集め、15年の劇団解散後は舞台・映像に活躍。19年の『劇団朱雀 復活公演』では総合プロデュース、脚本、振付、演出を手掛けた。近年の出演作に、舞台『SHIRANAMI』『けむりの軍団』、TVドラマ『カムカムエヴリバディ』『ミステリと言う勿れ』『封刃師』『六本木クラス』『親愛なる僕へ殺意をこめて』、映画『孤狼の血 LEVEL2』など。最新作は映画「仕掛人・藤枝梅安」が2月3日公開予定。

ヘアメイク: 奥山信次(barrel)  スタイリスト:八尾崇文

<公演情報>

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『蜘蛛巣城』
原脚本:黒澤明 小國英雄 橋本忍 菊島隆三
脚本:齋藤雅文
上演台本:齋藤雅文 赤堀雅秋
演出:赤堀雅秋
出演:早乙女太一 倉科カナ 長塚圭史/中島歩 長田奈麻 山本浩司 水澤紳吾/久保酎吉 赤堀雅秋 銀粉蝶 ほか
神奈川公演
2月25日(土)~3月12日(日)KAAT神奈川芸術劇場 ホール
地方公演
3月18日(土)・19日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
3月25日(土)・26(日)枚方市総合文化芸術センター 関西医大 大ホール
3月30日(木)やまぎん県民ホール 大ホール
〈お問い合わせ〉チケットかながわ 0570-015-415(10:00‐18:00)
〈公式サイト〉https://www.kaat.jp/d/kumonosujo

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