でも、今、保科の事を話す気にはなれません。いずれ、お話ししなければならなくなる時が来るとは思うのですが、今は、とにかく、保科のことではなく、部長のことを、考え初めてしまったので、もう少し、お話をさせてください。
ああ。ああ。ごめんなさい、すみません。つい、お話の時間軸を壊してしまいました。小臼歯のくだりで、一瞬、脳内がバニラの香りで包まれたからです。
ただ、ずっと、切り出そうかどうしようか、迷ってはいたんです。 そんな折、ルームの人のお別れ会で、全員で居酒屋に行く機会があって、わたくしと部長は、席が離れていたんですけど、ちょうどトイレの前ですれ違った時、「あ、ちょっとご相談したいことがあって」と声をかけました。
すみません、思わず、ちょっと長くなってしまいましたが、つまり、この体験でわたくしがなにを言いたかったかというと、要するに、肉体関係についてです。
でも実際には、これらはほんの一瞬のやりとりで、次の瞬間には、彼はわたくしに抱きついて、「奥さん、好きです」と言ったのです。私は独身だし、それまで奥さんになったことは一度もないので、「奥さんではありません」と言おうとしたのですが、もちろん、そんな余裕もありませんでした。